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ルイン・ラグナロク  作者: 葉都菜・創作クラブ
第9章 最後の生還者
19/23

第17話 パトフォーの忠実なしもべ

※フィンブル視点です。

 ――EF2015.02.18 05:13 【ルイン本部 通信室】


 傷ついた身体で、私はコンピューターを操作する。この部屋に設置されたコンピューターの大きなモニターから発せられる青白い光だけが、部屋を照らす。飛び散った血がこびりついているモニターには、1人の女性軍人が映っていた。青いラインが入った白い服を纏った高位軍人――。


[……お前がコマンダー・フィンブルか]

「…………」


 私は無言で頷きながら、コンピューターカメラの前に円柱状の試験管を置く。やや大きなその試験管には、手が長槍状に変異した右腕だけが入っていた。


[それは?]

「……サイエンネット・タイプ4=ウィルスを宿した右腕だ」

[…………。それをなぜ私に見せる?]


 ……迷いもした。私はパトフォーの忠実なしもべ。本来なら、命に代えても彼を守り、この施設から脱出させなければならない。

 だが、私は彼に限界を感じてしまった。もはや、彼の夢は崩壊に向かっている。私は価値のない人間に、命を賭けられない。だから、新しい主を求めた。


「あなたには“利用価値がある”からだ」

[利用価値だと?]

「私は自分の夢を実現させたい。だから、あなたを利用する。……あなたも私に利用価値があるハズだ。このサイエンネット・タイプ4=ウィルスが欲しいんじゃないのか?」

[…………]


 画面の向こうにいる女は黙り込む。彼女は世界最高クラスの智将。私に使われるデメリットと、私から得られるメリットをその頭の中で計算しているのだろう。


「“クリスター政府”は大半のクローン兵が退任し、今や軍人が不足。そこで『戦闘用クローン増産法案』を審議中と聞く。法案提出者はあなただろ? クリスター議会はかなり反発していると聞いている」

[なにが言いたい?]

「このサイエンネット・タイプ4=ウィルスを使い、法案を通し、より強大な力を誇るクローンを作ればいい。少数精鋭でネオ・連合政府と国際政府を討てば、今後はもうクローン兵を作らなくて済む」


 世界のほぼ全域を支配したクリスター政府。連合政府や国際政府などに所属していたフィルド・クローンの多くは、待遇のよいクリスター政府に降伏した。その数は700万人にも昇るという。

 だが、クリスター政府はフィルド・クローンの待遇をよくしすぎた。普通人間と同等の権利を与え、軍からの退任を自由にした。その結果、防衛を任務とするクリスター政府特殊軍に所属するクローン兵は、大幅に減った。


[…………]


 そこでクリスター政府の防衛大臣は『戦闘用クローン増産法案』をクリスター議会に提出した。

 だが、審議は難航。今回は成立はするだろうが、また数が足らなくなって、次に法案を提出したときは、成立しないといわれている。

 そこで、私はこの話を持ちかけた。サイエンネット・タイプ4=ウィルスで強力なクローン兵士を作り、もう法案を提出しなくてもいいよう、一気にクリスター政府の敵を討ち滅ぼす。そのために、このパトラーの右腕を持っていく。その見返りとして、私の保護をする。


[……いいだろう。ただ、パトラーからもサイエンネット・タイプ4=ウィルスは採取できる。そこを忘れるな]

「あなたは盟友を実験台に出来るのか? パトラーを狭苦しい水槽に閉じ込めて、ウィルス採取用としての人生を歩ませられるのか?」

[…………。……ルイン島から西の海上に中型飛空艇を向かわせる。そこへ行け]

「あなたも人間なんだな。――クリスター政府防衛大臣“クラスタ”」

[…………]


 通信が切られ、画面は真っ黒になる。

 クリスター政府初代防衛大臣のクラスタは臨時政府時代、パトラーと共に何度も生死を共にした仲だ。サイエンネット・タイプ4=ウィルスを採取するために、奴隷同然に扱うことは出来ないだろう。


 私は廊下に出る。さっそく、グールと化したかつての仲間たちが襲い掛かってくる。私は右手に持ったハンドガンで、容赦なく彼女たちの頭を撃ち抜き、その命を奪っていく。

 奴隷同然だった連合政府のフィルド・クローン。クリスター政府は彼女たちを優しく向かい入れた。いや、クローンだけじゃない。無数の市民を戦乱と支配の地獄から救い出したのも、クリスター政府。だから、あの政府は世界の大部分を統治するまでになったのだろう。


「“私の夢”を叶えるにクリスター政府はもっとも都合がいい……」


 私は飛び掛ってきたアサシンの心臓を撃ち抜きながら、笑みを浮かべながら呟く。

 最初はパトフォーを利用しようと思っていた。彼なら、世界を支配できるだろうと思っていた。でも、それは間違いだった。

 私の夢を叶わせるためには、世界の大部分を統治して貰わないと困る。――“彼ら”への復讐は簡単じゃない。


「国際政府、ネオ・連合政府、連合政府、クリスター政府、ビリオン=レナトゥス。“あなたたち”だけまるで部外者だな」


 今でも頭に何度も蘇るあの日の記憶。私は連合政府に作られ、彼らの命令されるがままに戦わされ、あるとき捕虜になった。

 私を捕虜にした者たちは、私に地獄を与えた。共に捕虜になったフィルド・クローンはみんな死んでいった。そして、私だけが脱走に成功し、復讐を心に刻んだ。


「必ず、あなたに地獄を返してやる。待っていろ……」


 私は衝撃波を纏った拳でグールを勢いよく殴り殺す。その身体は紙切れのように舞い、壁に叩き付けられる。血がその周りに飛び散る。

 ここまで深い憎しみだと、もはや笑みさえも浮かべてしまう。あなたたちに復讐できるその日が楽しみだ――。

  <<登場人物>>


◆クラスタ(人間女性)

 ◇クリスター政府防衛大臣/戦闘用クローン増産法案担当大臣/サイエンネット担当大臣。

 ◇クリスター政府の特殊軍(第1、21兵団)を統轄する防衛大臣の地位にある女性軍人。クリスター政府創設メンバーの1人でもある。ちなみに防衛大臣は警備軍(第2~20兵団)の統轄権を有していない。警備軍の統轄は保安大臣の任務である。

 ◇パトラーとは仲がいい。



  <<タイム・ライン>>


◆2/15 19:27

 ◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。

 ◇コマンダー・ドロップが殺害される。


◆2/17 01:17

 ◇パトラーとアレイシアが出会う。


◆2/17 02:21

 ◇コマンダー・ライカがパトラーとアレイシアに襲われる。


◆2/17 20:47

 ◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。


◆2/17 23:34

 ◇フィルドとシリカが怪物化したコマンダー・ライカと出会う。


◆2/18 01:41

 ◇ヒライルーがルイン本部をサイバー攻撃で制圧する。


◆2/18 01:48

 ◇ビリオン=レナトゥスのクローン精鋭部隊が、連合政府最重要シールド・メモリ回収のため、ルイン本部に侵入する。


◆2/18 02:52

 ◇フィルドとパトラーが再会する。


◆2/18 03:01

 ◇ビリオン=レナトゥスのクローン精鋭部隊が連合政府最重要シールド・メモリを回収し、ルイン本部を脱出する。


◆2/18 03:19

 ◇パトラーの記憶が戻る。


◆2/18 04:41

 ◇フィルドらがルイン本部から脱出する。


◆2/18 05:12

 ◇パトフォーがルイン本部からの脱出を目指し始める。


◆2/18 05:13

 ◇コマンダー・フィンブルとクラスタが取引し、ルイン本部からの脱出を目指し始める。


◆2/18 05:41

 ◇パトフォーがルイン本部から脱出する。


◆2/18 06:00

 ◇ルイン本部が消滅する。


◆2/19 09:18

 ◇「ビリオン=レナトゥス」がサイエンネット・タイプ0=ウィルスとサイエンネット・タイプ5=ウィルスの開発を始める。

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