第14話 ウロボロス・ナイトメア
※ヒライルー視点です。
フィルドは私がサイエンネット・タイプ4=ウィルスを手に入れてないと思っているのかしら――?
――EF2015.02.19 【ビリオン=レナトゥス ウロボロス本部】
ビリオン=レナトゥスの天空要塞。その中心部に位置する私の私室。小さなその部屋の扉が開き、私の前にスーツを着た男がやってくる。
「ヒライルー閣下、お待たせしました」
「遅いわ、ローリング」
「申し訳ございません。しかし、例のデータは持って参りました」
スーツを着た男――ローリングは薄いシールド・メモリをそっと私の机の上に置く。シールド・メモリに映し出されているのは、連合政府のマーク。
「ルイン本部消滅事件は、我々の圧勝です」
「ふふっ、当然でしょう?」
私はシールド・メモリを手に取り、イスを回転させ、彼に背を向ける。私は後ろにあった大型コンピューターにシールド・メモリを挿入する。
シールド・メモリを挿入すると、大型シールド・スクリーンに連合政府のマークが表示され、データの読み込みが始まる。
『データ読み込み:30%』
“あの日”、深い眠りに付いていたパトラーの目を覚まさせ、それと同時に軍用兵器を機能停止させ、獄中のアレイシアを解放させ、施設全体にサイエンネット・タイプ3=ウィルスをバラ撒いたのは、私たちの仕業。
『データ読み込み:60%』
世界各地に“パトラーはルイン本部に捕まっている”とのウワサを撒き、フィルドやシリカをルイン本部に向かわせるように仕向けたのも、私たちビリオン=レナトゥス。
『データ読み込み:90%』
私たちの作戦は成功した。アレイシアとパトラーがフィルドとシリカに目を奪われている隙に、私たちが送り込んだ15名のクローン精鋭部隊はルイン本部に保管されていた連合政府の全てが記録されたシールド・メモリを盗み出し、このウロボロス本部に帰還した。
『データ読み込み:100%』
このシールド・メモリには連合政府の全て――サイエンネット・タイプ4=ウィルスに関する実験データも全て記録されている。データとして、私たちはサイエンネット・タイプ4=ウィルスを手に入れた。そして、用済みとなったルイン本部を消した。
「フィルド、あなた個人の悪夢は終わったわ。でも、全世界が見せられる悪夢は、これから新しく始まるのよ」
私はシールド・スクリーンに表示されていくサイエンネット・タイプ4=ウィルスのデータを見ながら笑みを浮かべる。
このサイエンネット・ウィルスは、下位のサイエンネット・ウィルスを従わせられる。事実、パトラーはサイエンネット・タイプ3=ウィルスに感染し、グールと化したクローンたちを操れた。
でも、私が目指すのはそんなものじゃない。
「ローリング、始めましょう」
「“サイエンネット・タイプ0=ウィルス”ですな。ええ、すでにタイプ4=ウィルスをベースに開発を始めています」
――サイエンネット・タイプ0=ウィルス。全ての生き物に感染するも、容姿・知性・身体能力は変わらず、感染者の全てにおいて何も変わらないウィルス。ただ唯一得させられるのは、“服従本能”。
タイプ0=ウィルスに感染した全ての生き物は、タイプ4・ウィルス以上の上位サイエンネット・ウィルス保有者に対し、逆らえられなくなる。それも、本能的に。
かつてパトフォーは、自身の絶対的な身体能力と細かく構成された政治体制で世界を支配しようとした。絶対的な身体能力を得るために、彼はサイエンネット・ウィルスを開発した。その集大成がサイエンネット・タイプ4=ウィルス。
でも、政治体制で彼は失敗した。だから彼は、彼の計画の全ては分かり得ないけど、きっと軍事力でクリスター政府と私たちを滅ぼすつもりだった。その為に“国際政府と連合政府の支配者”であり続けた。
「そういえば、エデンというのクローンがいたわね」
「……最強と呼ばれたクローンですな。急にどうしました? 彼女のクローンでも――」
「――いらないわ」
エデン。間違いなく最強のクローン。でも、彼女はその命を失った。己の油断で、強大な力を誇るクローン達との戦いに敗れ、呆気なく死んだ。彼女は自分の力を背景に、世界を恐怖で支配し、従わせようとした。
「本当に世界を支配するには、力や政治体制じゃ不可能だわ」
「同感で御座います」
「本当に支配するのなら方法は1つ――」
シールド・スクリーンに映るサイエンネット・タイプ4=ウィルスのデータを見ながら私は小さく笑う。
世界を真に支配する。無限の悪夢が世界を覆う。その方法は――
「――本能的に逆らえないようにするのよ」
サイエンネット・タイプ0=ウィルスに全ての生き物を感染させ、タイプ0の上位ウィルスであるサイエンネット・タイプ4=ウィルスに感染した者だけが支配者となる。
「ただ、タイプ4はまだ不安定な部分もあるわ。より確実な、より強力なウィルスが最上位支配者に必要だわ」
「では、やはり計画通りに“サイエンネット・タイプ5=ウィルス”の開発を始めた方がよさそうですな」
「ええ、そうね。タイプ4感染者も従わせられるタイプ5・ウィルス。直ちに開発を始めなさい。無限の悪夢を始めるために――」
「分かりました。必ずやご期待にお答えしましょう……!」
そう言い、ローリングは私の部屋から去って行く。
無限悪夢の時代は近い。私の掲げるナイトメア計画が現実のものとなろうとしている。
パトフォーのラグナロク計画は失敗に終わった。でも、私の計画は成功に終わる。そして、悪夢が世界を支配する。
フィルド、パトラー。あなたたちに私の計画が止められるかしら――?
<<タイム・ライン>>
◆2/15 19:27
◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。
◇コマンダー・ドロップが殺害される。
◆2/17 01:17
◇パトラーとアレイシアが出会う。
◆2/17 02:21
◇コマンダー・ライカがパトラーとアレイシアに襲われる。
◆2/17 20:47
◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。
◆2/17 23:34
◇フィルドとシリカが怪物化したコマンダー・ライカと出会う。
◆2/18 01:41
◇ヒライルーがルイン本部をサイバー攻撃で制圧する。
◆2/18 01:48
◇ビリオン=レナトゥスのクローン精鋭部隊が、連合政府最重要シールド・メモリ回収のため、ルイン本部に侵入する。
◆2/18 02:52
◇フィルドとパトラーが再会する。
◆2/18 03:01
◇ビリオン=レナトゥスのクローン精鋭部隊が連合政府最重要シールド・メモリを回収し、ルイン本部を脱出する。
◆2/18 03:19
◇パトラーの記憶が戻る。
◆2/18 04:41
◇フィルドらがルイン本部から脱出する。
◆2/18 06:00
◇ルイン本部が消滅する。
◆2/19 09:18
◇「ビリオン=レナトゥス」がサイエンネット・タイプ0=ウィルスとサイエンネット・タイプ5=ウィルスの開発を始める。




