第13話 ルイン本部からの脱出
※フィルド視点です。
最後のガンシップが炎と共に墜落する。もはや辺りは死体と火の粉ばかりだった。政府軍はほぼ全員が死んだ。
[へぇ、やるじゃない。クェリアの感想も聞きたいところだけど、もういないのね]
残ったシールド・スクリーンに映るヒライルー。その横にあったクェリアのシールド・スクリーンは、別のガンシップに押しつぶされ、壊れてしまった。
「待っていろ、ヒライルー。今度はお前が悪夢を見る番だ」
[フフッ、そう上手くいくかしら?]
……まだ何かあるのか? 政府軍が壊滅したにも関わらず、ヒライルーはまだ余裕そうだった。
そのとき、施設全体に響き渡るほどの大きな警報音が鳴り響く。あちこちに赤い光が灯される。今度は何だ!?
[この施設には、何発もの戦術ミサイルと自爆装置が備え付けられているわ。パトフォーが万が一のときに用意していたものね]
「自爆装置だと!?」
コイツ、爆破装置と戦術ミサイルの爆発で、施設ごと私たちを皆殺しにするつもりなのか!? 私は拳を握り、下唇を噛み締める。これは本当にマズイ。
だが、そんなことをすればサイエンネット・タイプ4=ウィルスは失われる。それでもいいのか? 少なくとも、ヒライルーはサイエンネット・タイプ4=ウィルスを持ってはいないハズだ。
「フィルド、別のヘリポートに行けば、まだガンシップはあるハズだ! 急ぐぞ!」
走り寄ってきたシリカが言う。私は頷き、シールド・スクリーンに背を向け、走り出そうとする。
[期待してるわ、フィルド。あなたたちが再び私の前に姿を現すことをね]
そう言うと、ヒライルーの姿は消える。シールド・スクリーン自体も姿を消す。気にしている時間はもうない。私たちはその場から別のヘリポートを目指して駆けていく。
「パトラー、自爆装置が作動した。急ぐぞ!」
「……了解!」
私たちはヘリポートの端にいたパトラーを加え、別のヘリポートへと通じる高架橋を走って行く。
……そう言えば、グルーはどこに行ったんだ? そんな疑問を抱きつつも、誰もいない高架橋を走って行く。もう、空が少しずつ明るくなってきている。夜明けは近い。
「シリカ、クリスター政府の飛空艇はどこにある?」
「ルイン島から西方向の海上に、大型飛空艇1隻と中型飛空艇10隻がある。ここでガンシップを奪ったあとは、そこに向かえばいいだろう」
「そうか」
ガンシップで中央大陸に向かうのは相当な距離がある。エネルギー補充がされているといいが、そうじゃなかったら途中で海に落ちる可能性もある。
*
しばらく高架橋を走っていた私たちは、やがて別の大型ヘリポートに出る。そこには、連合政府が所有する黒色のガンシップが10機ほど並んでいた。……なぜか、グールたちの死体が転がっている。
「誰が殺したんだろう……?」
「分からないが、もしかしたら国際政府の兵士たちが殺したのか、生き残っていた連合政府のクローン兵が殺したのかも知れないな」
シリカがそう言いながら、無造作に開かれたガンシップの後方扉から乗り込む。その後ろに続いて私も乗り込む。最後に乗ろうとしたパトラーは、ふと後ろを振り返る。
「……どうした?」
「いや、誰かいたような気がしたんだ」
そう言って、パトラーはガンシップに乗り込もうとする。だが、そのときだった。
「――サイエンネット・タイプ4=ウィルスは頂く」
「えっ?」
すぐ近くで男性の声がし、冷たい風と共に何かが流れるように現れる。
「…………ッ!」
ガンシップに乗り込もうとしていたパトラーがその場で倒れ、ガンシップの乗り込み台から地面に転がる。真っ赤な血が辺りに飛び散る。誰かがやや離れたところに立つ。
「パトラー!?」
私は地面に倒れたパトラーに駆け寄る。彼女の右側に真っ赤な血が広がっている。どこか深い傷を――
「…………!?」
パトラーを抱き起し、私がようやく気が付いた。彼女の変異し、長槍のような爪がなくなっていた。……右腕が肩からなくなっていた。誰かに斬られたんだ。
私は顔を上げ、斬った人物に視線を向ける。そこにはパトラーの右腕を手にしていたグルーが立っていた。その剣から、真新しい血が滴り落ちている。
「フィ、フィルドさ、んっ……!」
苦痛に顔を歪め、涙目になっているパトラー。私は彼女をそっとその場に寝かせると、ゆっくりと立ち上がる。
「グール共を狩り、私たちを待っていたのか」
「そ、そうだ。クェリア将軍から、サイエンネット・タイプ4=ウィルスを死んでも回収しろと命じられているのでな……」
よく見れば、グルーは身体中に傷があった。引っ掻かれたような跡や、噛み付かれたような傷が無数にあった。
私は右腕に黒いエネルギー――ラグナロク魔法を纏う。私の弟子を傷つけたあの男を許さない。パトラーの右腕をクェリアの物にはさせない。
「遺言は?」
「……満足」
頭がどうかしたのか?
私は地面を蹴り、ほぼ一瞬でグルーの目の前に飛ぶ。ラグナロク魔法を纏った右拳を、グルーの腹部に叩き込もうとしたときだった。
「完ぺきなハッピーエンドにはならなかったな」
私の拳がグルーの腹部にめり込む。何のガードもしていなかった彼の身体はルイン本部の建物にまで吹き飛ばされ、施設の壁を壊しながら、消えて行った。
完ぺきなハッピーエンドにならなかった。そうか、グルーは私たちに一矢報いるためだけにここで待ち構えていたのか。
「パトラー、急ごう」
私はパトラーを抱きかかえ、ガンシップの中へと入っていく。シリカはガンシップを操作し、入ってきた扉を閉めると、ルイン本部から飛び立つ。
*
空は東から徐々に明るくなり、雲が黒から白へと変わっていく。
遥か遠くになり、目を凝らしたら辛うじて見えるほどにまで小さな島になったとき、ルイン島の方から一瞬、大きな光が起こった気がした。気のせいでなければ、それは恐らく、ルイン本部が消滅したことを示す光なのだろう。
「こちらはクリスター政府第21兵団の指揮官シリカだ。間もなく帰還する。重傷者がいる。医療部隊の準備を」
[イエッサー! 治癒魔法に特化したレベッカ少将を向かわせる]
私はパトラーを抱き締めながら通信を耳にしていた。小さなシールド・スクリーンにはアーカイズ中将が映っていた。私たちの仲間だ。
日が完全に上り、辺りは青い空と白い雲に包まれていく。雲の間から大型の飛空艇が姿を現す。白に青のラインが入ったクリスター政府の飛空艇だ。
クリスター政府の小型航空機に先導された、私たちを乗せたガンシップは大型飛空艇の中へと入る。飛空艇の中で着陸したガンシップは、後方の扉を開ける。
「フィルド中将、お急ぎを!」
出迎えたクリスター政府のクローン兵と一緒に私はパトラーを抱きかかえ、飛空艇の中へと入っていく。
私はパトラーを治癒魔法に特化したクローン少将――レベッカに引き渡し、彼女の治癒魔法で命を取り留めた。だが、右腕は失われた。いくら強力な治癒魔法でも、失われた右腕を再生させることは出来なかった。
その後、私たちは国際政府やビリオン=レナトゥスの攻撃を受けることなく、クリスター政府首都ポートシティに帰還した。
だが、まだ全て終わったワケじゃない。
――期待してるわ、フィルド。あなたたちが再び私の前に姿を現すことをね。
ヒライルーという強大な敵が残っている。彼女を倒すまでは、悪夢は終わらないのだろう――。
<<タイム・ライン>>
◆2/15 19:27
◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。
◇コマンダー・ドロップが殺害される。
◆2/17 01:17
◇パトラーとアレイシアが出会う。
◆2/17 02:21
◇コマンダー・ライカがパトラーとアレイシアに襲われる。
◆2/17 20:47
◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。
◆2/17 23:34
◇フィルドとシリカが怪物化したコマンダー・ライカと出会う。
◆2/18 01:41
◇ヒライルーがルイン本部をサイバー攻撃で制圧する。
◆2/18 02:52
◇フィルドとパトラーが再会する。
◆2/18 03:19
◇パトラーの記憶が戻る。
◆2/18 04:41
◇フィルドらがルイン本部から脱出する。
◆2/18 06:00
◇ルイン本部が消滅する。
<<登場人物>>
◆アーカイズ(クローン女性)
◇クリスター政府第21兵団中将。
◇フィルドと同じくクリスター政府特殊軍の中将。非常に高い身体能力を持つ。
◆レベッカ(クローン女性)
◇クリスター政府第21兵団少将。
◇治癒魔法に特化した特殊能力者。




