第12話 アレイシアとパトラー
※パトラー視点です。
闇のモヤがかかっていた記憶。クリスター政府、連合政府、サイエンネット、フィルド、アレイシア、パトフォー……。
「4人を直ちに始末せよ!」
「行けっ! 彼女らを殺せ!」
でも、やっと全部思い出した。私が誰だったのか、何をしてきたのか、目の前にいる人たちが誰なのか、全部思い出した。
「2号機、3号機を出せ!」
「上空から連中を撃ち殺せ!」
「急げ!」
こっちに向かってくる国際政府の兵士たち。フィルドさんは私から腕を離し、彼らに向かっていく。私も涙を拭い、立ち上る。
「パトラー=オイジュスを殺せ。世界で唯一あの女だけがサイエンネット・タイプ4=ウィルスを持っている」
指揮官のグルー中将が周りの兵士に命令を下す。白いに緑色のラインが入った兵士たち――クェリア率いる兵団の兵士たちがアサルトライフルの銃口を私に向け、発砲する。けたたましい音と共に、何発もの銃弾が飛んでくる。
「…………!」
私はその場から横に飛び、その銃弾を避ける。飛びながら、変異した右腕を大きく振る。斬撃が飛び、兵士2人の胴が横に斬り裂かれる。真っ赤な血と内臓が、雪で白く染まったコンクリートの地面に飛び散る。
だが、グルーは剣で私の斬撃を防ぐ。彼は国際政府の中将。剣を武器に戦う国際政府の強者だ。簡単に倒せる相手じゃない。
[直ちに降伏せよ!]
真っ白な光が、地面に立つ私を照らす。暗い空には、白に緑色のラインが入ったガンシップが飛んでいた。
私は右腕を振り、斬撃を飛ばす。大型の斬撃はガンシップに深い傷を入れるも、墜落させることは出来なかった。
降伏の意思なしと判断したのか、操縦席に座る兵士が何か操作する。すると、ガンシップの機体左右に設置された筒状の大型機関銃――ガトリングガンから勢いよく銃弾が飛んでくる。
私はそこから素早く地面を蹴って走り出す。飛んでくる何十発もの銃弾を避ける。ガンシップもゆっくりと移動しながら、私を殺そうと、激しい銃撃を加える。
「…………!」
誰かが正面から走って来て、私とすれ違う。
[う、うわっ!]
その人物は私のすぐ後ろで高く飛び上がり、ガンシップに向けて大型の火炎弾と電撃弾を飛ばす。2発の強力な魔法弾を機体に受けたガンシップは空中で爆散し、真っ赤な炎を上げ、数人の兵士を巻き込んで墜落する。
「……アレイシア!」
私は降りてきた女性――アレイシアに声をかける。彼女は7人しかいない連合軍の大将。彼女も相当に強いクローンだ。ガンシップをたった2発の魔法弾で破壊出来たのも頷ける。
「…………。記憶が戻ったんだな」
アレイシアは私に背を向けたまま、小さな声で言う。そのとき、遠くで大きな爆音が起こる。1機のガンシップが破壊され、その機は墜落と共にシールド・スクリーンを1枚、割り壊していた。……フィルドさんが戦っていた。
「私はお前が半分死んだのかと思っていた」
「半分……?」
「元の人格と記憶を失わされ、もう二度と戻らないと思っていたんだ。……少なくとも、フィルド・クローンを使ったこれまでの実験では、誰一人として戻ることはなかった」
「…………!?」
連合政府はフィルドさんのクローンを使ってそんな実験までしていたのか!? いや、連合政府の卑劣さは私もよく知っている。それを裏で糸を引いていたのがパトフォーだった。……そのパトフォーはもう死んだ。あの実験室で、私がこの拳で殴り殺した。記憶にしっかりと残っている。
「これは2人の絆がもたらした奇跡かな……」
アレイシアは寂しそうな声で呟くように言う。彼女は私のことを大切に想ってくれている。だから、彼女は世界の破壊を考えたのだろう。……人間への復讐として。――そして、フィルドさんへの敵意は嫉妬だ。
「……だまして悪かった」
「アレイ――」
私が声をかける前に、アレイシアは私の側から去って行く。こっちに向かって来ていた数人の兵士たちに向かっていく。
「アレイシアだ!」
「連合の七将軍だっ!」
激しい銃撃音が鳴り響く。アレイシアは剣を手に取り、瞬く間に3人の兵士を斬り殺す。だが、別の場所から更に10人近い兵士が走ってくる。空からはガンシップも飛んでくる。
[アレイシアは手負いとの情報もある。彼女だけでも殺せ!]
アレイシアは血まみれの剣で、戦いを続ける。1人、また1人と殺していく。ガンシップがすぐ近くにまで迫ってくる。
戦いのさ中、彼女は一瞬、私と目を合わせる。記憶が戻ってから、初めて目を合わせた。そのとき、僅かな間しか見えなかったが、私に向かって優しい笑みを浮かべる。
「アレイシアっ!」
彼女はすぐに私に背を向け、何十発もの銃弾を撃ち放つガンシップに向けて、黒い魔法弾――破壊弾を飛ばす。
銃弾がアレイシアの胸や腹、脚を貫く。破壊弾がガンシップを一撃で撃ち砕く。彼女の血が地面に飛び、その身体が傾く。トドメを刺そうと、数人の兵士たちが走り寄ってくる。その上から、炎に包まれたガンシップが勢いよく降ってくる。
「アレイシアッ――!」
炎に包まれたガンシップは、アレイシアと周りにいた兵士全員を巻き込んで墜落する。墜落と同時に、ガンシップは爆発を起こし、その破片が辺りに散る。
それは、連合政府七将軍にして、私のことを想ってくれた女性の最期だった――。




