第10話 師弟の再会
※フィルド視点です。
――EF2015.02.18 02:52 【ルイン本部 廊下】
ルイン本部を進んでいた私とシリカは、突如として聞こえてきたガンシップの音に、ヘリポートを目指して走っていた。
連合政府の援軍か? それとも、国際政府の軍だろうか? あまり考えられないが、クリスター政府軍かも知れない。いずれにしろ、確認しておいた方がいいだろう。
機能を停止させ、動かなくなった軍用兵器を避けながら、私たちはガンシップが着陸したヘリポートに向かって走る。
やがて、私たちは暗い廊下から、外へと出る。外はまだ雪が風とともに激しく降っていた。だが、そこにあったのは、雪と闇夜だけじゃない。
「……フィルド、あのガンシップは――」
「国際政府だな」
私は物陰からそっと顔を出し、様子を伺う。大型のヘリポートには、国際政府が所有する大型の戦闘ヘリ――ガンシップが着陸していた。全部で4機。その周辺に強化プラスチック製の装甲服を着た兵士が何人もいる。ガンシップ4機なら、60人構成の一個小隊程度の兵員がいると考えていいな。指揮官は誰だ?
「――フィルド中将、お待ちしておりましたぞ」
「…………!」
突然、後ろから声がかけられる。私は素早く振り返り、身構える。……そこにいたのは、灰色の軍服を身に纏った男性――国際政府のグルー中将だ。国際政府四中将の1人!
「クリスター政府のシリカ将軍とフィルド中将。2人を連れてくるようにクェリア将軍に言われているので……」
それだけ言うと、グルーはガンシップが着陸しているヘリポートの真ん中へと歩き出す。近くには国際政府の兵士が銃を構えて立っている。この程度の人数、大したことはないのだが……。
いや、今は大人しく従っておいた方がよさそうだな。彼らが何しにきたのか、狙いは何かなのかが気になる。
私たちは辺りを警戒しながら、グルーについて行く。周りにいる兵士たちが銃口をしっかりと私たちに向けている。彼らも、かなり私たちを警戒しているようだ。
やがて、私たちはヘリポートの中心にまで連れて来られる。グルーはその場で待つように言い、彼は奥へと歩いていく。ガンシップの側まで歩くと、彼はそこで私たちの方を振り返る。それとほぼ同時に、彼の後ろに大型のシールド・スクリーンが横に並んで2つも現れる。
「クェリア将軍、ご命令通り、2人を連れてきました」
右側のスクリーンに、1人の女性軍人が映し出される。――あの女は国際政府将軍のクェリアだ。衰退しきった国際政府で、大きな力を持つ軍人だ。
[ご苦労、グルー中将。……ヒライルー、準備は整ったぞ]
画面のクェリアが言うと、今度は左側のスクリーンに別の女性が映し出される。オレンジ色の髪の毛をした彼女は、総合企業「ビリオン=レナトゥス」のヒライルーだ。……そうか、国際政府軍を派遣したのは、ヒライルーの仕業か。
[助かるわ、クェリア。最高の悪夢には最高の舞台が必要だわ。……フィルド、あなたもそう思うでしょう?]
「何をワケの分からないことを……」
私はそう言いながら、なぜかイヤな予感がしていた。妙に落ち着かない。……ヒライルーの作戦にはロクなものがない。今度は何をする気だ……?
[これで悪夢を見るための舞台は整ったわ。始めましょう、アレイシア]
ヒライルーがそう言うと、シールド・スクリーンの奥から誰かが歩いてくる。雪と光でよく見えないが2人いるな。髪が長いところを見ると、どちらも女性か? いや、ヒライルーの言葉からして、片方はアレイシアなのだろう。
「…………?」
2人が近づいてくる。
[フフ、悪夢の始まりよ]
アレイシアの隣にいるのは、黄色の髪の毛をした女性――。
「――えっ?」
黄色の髪の毛。エメラルドグリーンの瞳。そして、濃い青色に変色し、硬化した右腕。そこに鋭い長槍のようなものが姿を見せている。あれは骨か……?
だが、そんなことはどうでもよかった。問題は――
「……ア、アレイシアの横にいるのは、誰だ……?」
私は震えながら声を絞り出す。ヒライルーは私の姿に、冷たい笑みを浮かべる。
[冗談でしょう、フィルド。あの子は――]
全身から力が抜けていく。身体が寒さとは別に激しく震える。強烈な負の感情が私を染めていく。
[――あなたの弟子、パトラー=オイジュスよ]
「…………!!?」
「遅かったのか……」
シリカが悔しそうな表情で言う。彼女は拳を握り、僅かに俯くが、すぐに視線を戻す。そして、腰に装備していた剣を勢いよく抜き取ると、私に何も言わず、勢いよくその場から飛び出す。
「ま、待てシリカ!」
[あら、悪夢の邪魔は困るわ]
「…………。すまない、フィルド」
シリカは剣を振り上げる。パトラーが構える。両者は私の止めやヒライルーの言葉を意に介さず、戦いを始める。シリカが剣を振り下ろす。パトラーがそれを腕の長槍で受け止める。
「シリカ、お前ぇッ!」
「……ルイン本部要塞内で私たちを襲ったアレイシアと一緒にいるんだ。少なくとも、私たちの味方じゃない。彼女はサイエンネット・タイプ4=ウィルスを投与され――」
シリカがそこまで言ったとき、彼女の胸を一筋の稲妻が貫く。
「あっぐッ!」
「シリカ!?」
シリカはその場に倒れる。パトラーが右腕の長槍を構え、飛び上がる。まさか、シリカを刺し殺す気なのか!? いや、パトラーはそんなこと――
「待て、パトラー!」
「…………!」
アレイシアの制止に、パトラーはその場に降り立ち、攻撃をやめる。……さっきの稲妻もアレイシアの仕業らしいな。
いや、そんなことはどうでもいい。なぜ、パトラーはアレイシアの言うことを聞いているんだ? なぜ、シリカを殺そうとしたんだ? なぜ、私に何も声をかけないんだ……?
[いい子ね、アレイシア。ちょっと見直したわ]
「…………」
私の弟子のパトラー、かつての連合軍将軍アレイシア、ビリオン=レナトゥスのヒライルー、国際政府将軍のクェリア。どう考えても、組み合える者たちじゃない。どうなっているんだ……?
「はぁッ、くッ……」
「……シリカ」
シリカが私の横に戻ってくると、その場で座り込む。魔法シールドを張っていなかったらしく、アレイシアの攻撃をモロに喰らってしまった。
[さて、邪魔が入ったけど、そろそろ始めましょう?]
ヒライルーの声に、クェリアが合図する。すると、周りを取り囲んでいた国際政府の兵士たちが一斉に私たちにアサルトライフルの銃口を構える。
[フィルド、あなたはパトラーを殺すのよ。そして、パトラー。あなたはフィルドを殺しなさい。私の命令に逆らったら、……分かるわよね?]
「…………!」
なんだと、この女ッ……! 私がパトラーを殺す? そんなこと出来るワケない。――だが、彼女の言う通りにしなかったら、こっちを向いている銃が私たちを襲う。いくらなんでも、シリカとパトラーの2人を一緒に守ることは難しい。
「……パトラー、アイツも私たちの敵だ。殺せ」
「…………」
アレイシアはパトラーに、私の殺害を命じている。パトラーは無表情で私を見ていた。あの様子だと、私が誰なのか分かっていない。記憶を失ったのか……?
[さぁ、最高の悪夢の始まりよ――]
<<タイム・ライン>>
◆2/15 19:27
◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。
◇コマンダー・ドロップが殺害される。
◆2/17 01:17
◇パトラーとアレイシアが出会う。
◆2/17 02:21
◇コマンダー・ライカがパトラーとアレイシアに襲われる。
◆2/17 20:47
◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。
◆2/17 23:34
◇フィルドとシリカが怪物化したコマンダー・ライカと出会う。
◆2/18 01:41
◇ヒライルーがルイン本部をサイバー攻撃で制圧する。
◆2/18 02:52
◇フィルドとパトラーが再会する。




