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ルイン・ラグナロク  作者: 葉都菜・創作クラブ
第5章 最高の悪夢
10/23

第9話 悪夢の始まり

※アレイシア視点です。

 ――EF2015.02.18 01:21【ルイン本部 最高司令室】


 私は血が飛び散り、赤茶色の滴で汚れたモニターを見ていた。広く真っ暗な部屋で、画面から発せられる青白い光が不気味さを醸し出している。

 コマンダー・ライカが死んだ。呆気ないヤツだ。サイエンネット・タイプ4=ウィルスで怪物化しても勝てないなんて、本当に弱い女だ。せめて、シリカだけでも始末してほしかったんだけどな。

 バトル=オーディンも破壊され、グールや軍用兵器も相当数がやられている。恐らくフィルドとシリカは私たちの下にまでやってくる。それは時間の問題だろう。


「……あの2人もクローンなのか?」


 後ろで床に座り込んでいるパトラーが小さな声で言う。


「お前を利用し、裏切ったクリスター政府のクローン兵だ。またお前を利用しようと企んでいるんだ」

「…………」


 ……違う。フィルドはクローンじゃない。フィルドをベースに私たちクローンは作り出された。クローンのオリジナルだ。そして、パトラーのかつての師でもある。


 だが、クリスター政府の裏切りは偽りではない。クリスター政府は、1つの独立した統治機構になったとき、彼女を裏切った。…………。

 “パトラーがリーダーだった組織――臨時政府”。それがクリスター政府の前身だ。クリスター政府が成立したとき、政府議会はパトラーをリーダーの地位から解任した。それも、彼女の許可なしに。


「ク、クリスター、政府……?」

「……お前の敵だ」


 私は軽く言う。……頭のどこかでは分かっていた。クリスター政府のしたことが裏切りじゃないことぐらい。

 クリスター政府は独裁国家ではない。議会を中心とした民主国家。強力なリーダーを置けば、独裁国家になる。だから、リーダーの地位を廃し、彼女は自動的に解任となった。パトラーもそれは承知していたハズだ。

 だが、クリスター政府を分離・独立させていいのか? その論争がそれが引き金となって、パトラーはクリスター政府を離脱した。パトラーは反対だった。……そして、連合政府に捕まり、実験台にされた。


「…………」


 私の目から涙が溢れ、頬を伝っていく。やってることは、むちゃくちゃだ。自分でも、もう、どうしていいのか分からない。

 クリスター政府は裏切りだ。パトラーはそう思っていない。私も思っていない。でも、裏切りだ。……自分自身に思い込ませ、パトラーにも思い込ませる。――クリスター政府は裏切った、と。


「アレイ、シア?」

「な、なんでもない」


 私は涙を拭い、無理やり笑みを作る。

 許せなかった。パトラーを実験台にした“人間”を、彼女を離脱させる結果を招いたクリスター政府を、“彼女が慕う”人間がいることを……! ――やっていることは、むちゃくちゃだ。


「フフッ、フフ、アハハッ……!」


 自分自身の狂気に笑いが口から出てくる。涙が溢れ出て、頬を伝っていく。……そんな私をパトラーはそっと抱きしめてくる。


「大丈夫か、アレイシア。何か辛いことがあるのか……?」

「…………!」


 それは優しいパトラーの暖かさだった。彼女は純粋に私の心配をしてくれている。私の胸が刺されたかのように激しく痛む。記憶を失っても、パトラーはパトラーだった。

 こんなに素晴らしい女性を、連合政府は実験台にした。こんなに素晴らしい女性を、クリスター政府は離脱させてしまった。こんなに素晴らしい女性に、“慕われる女”がいる――

 ――パトラーを利用しているのは私自身だ。私の勝手な憎しみに、パトラーを利用している。私の勝手な“嫉妬”に、優しい彼女を利用している。


「パトラーっ……!」


 パトラーは何も言わずに私のことをしっかりと抱きしめてくれている。私は彼女を抱き締め、僅かに声を上げながら泣く。――私は最低だ。


「……パトラーっ、私を――」


 ――殺せ。

 そう言おうとした。だが、それは突然、部屋に響き渡った警告音に遮られる。


「な、なんだ?」


 私はパトラーからそっと離れ、大型スクリーンに視線をやる。そこには、赤文字で警告を示す文章が大きく表示されていた。

 『全軍用兵器 機機能停止』、『サイバー攻撃 確認。ブロック 失敗』、『無許可航空機 接近中』、『ルイン本部 システム・エラー 発生』……


「なんだこれは!? 何が起きたんだ!?」


 私は驚きのあまり、その場に倒れそうになる。下唇を噛み締め、コンピューターを震える手で操作しようとする。だが、私の操作は全く受け付けなかった。


「バカな、まだこの施設内にコンピューターを扱える人間が? いや、外部からのサイバー攻撃か。まさか、クリスター政府が……!?」


 スクリーンを見れば、確かに数機の小型航空機が西から迫りつつある。西にあるのは、世界三大大陸の1つ、最大大陸の中央大陸。……クリスター政府が大部分を占める大陸だ。

 ……クリスター政府はパトラーが元々いた組織だ。フィルドやシリカも所属している。パトラーの幸せを考えるなら、それもいいかも知れないな。彼女を引き渡し、私は――。


[アレイシア、まだ夜は長いわ]

「…………!?」


 私の操作を無視し、コンピューターは勝手に外部からの連絡をスクリーンに表示させる。そこに現れたのは、オレンジ色の髪の毛をした1人の若い女性。


「貴様、“ビリオン=レナトゥス”のヒライルー!」


 国際政府、連合政府、ネオ・連合政府と取引する巨大企業――ビリオン=レナトゥス。ヒライルーはそのリーダーだ。


[ふふっ、そう怒鳴らないで欲しいわ]

「何の用だ!」

[……夜はまだ続くわ。そろそろ、フィルドに最高の悪夢ナイトメアを見せましょう?]


 ヒライルーは楽しそうな口調で言う。なにをする気だ……!?


[今、このルイン本部に向かってきているのは、国際政府の一隊よ。悪夢を成功させるための者たちだから安心して欲しいわ]

「安心だと? 国際政府は私やパトラーの敵じゃないか!」

[ええ、そうね。でも、フィルドに悪夢を見せるためには、こうするしかないのよ]

「フィルドに悪夢だと?」

[ふふっ、そうよ。――そこのパトラーとフィルドと戦わせるのよ]

「…………!?」


 フィルドとパトラーを戦わせる!? 何を考えているんだこの女は!


「ふざけるな、パトラーにそんなこと――」

[アレイシア、落ち着いて。今、この施設は私の思い通りに動かせる。……だから、施設内のミサイルを今すぐにでも爆発させることができるわ]

「なっ……!?」


 ヒライルーは勝ち誇った笑みを浮かべながら話す。……そう言うことか。逆らえば、ミサイルを爆発させる。私も、シリカも、フィルドも、パトラーも殺せるという意味か。


「立場は分かったかしら? 冷静なあなたなら、次はどうすればいいか分かるよね――?」

「…………!」

  <<タイム・ライン>>


◆2/15 19:27

 ◇完成体(パトラー=オイジュス)が暴走。

 ◇コマンダー・ドロップが殺害される。


◆2/17 01:17

 ◇パトラーとアレイシアが出会う。


◆2/17 02:21

 ◇コマンダー・ライカがパトラーとアレイシアに襲われる。


◆2/17 20:47

 ◇パトラーの師フィルドと、シリカがルイン本部へと乗り込む。


◆2/17 23:34

 ◇フィルドとシリカが怪物化したコマンダー・ライカと出会う。


◆2/18 01:41

 ◇ヒライルーがルイン本部をサイバー攻撃で制圧する。



  <<登場人物>>


◆ヒライルー(人間女性)

 ◇総合企業「ビリオン=レナトゥス」のリーダー。



  <<登場組織>>


◆クリスター政府

 ◇南方大陸全域と中央大陸のほぼ全域(グリードシティ以外全て)を支配する世界最大の統治機構。民主主義国家。国際政府の下位国家・臨時政府を前身とする。

 ◇フィルドやシリカが所属する組織でもある。元々はパトラーも所属していた。

 ◇首相はフェスター。


◆国際政府

 ◇中央大陸の最大都市グリードシティのみを支配する統治機構。かつては中央大陸全域を支配していたが、今は見る影もなく衰退した。

 ◇リーダーはパトフォー。


◆連合政府

 ◇最小の規模である統治機構。一時は国際政府を滅ぼす勢いさえもあったが、今は小さな離島であるルイン島のみを支配する極小の国家となってしまった。国民はおらず、統治機構とはいえない組織である。

 ◇リーダーはコマンダー・ライカ。


◆ネオ・連合政府

 ◇ハーピー諸島を支配する統治機構。連合政府から分離・独立することで成立した。連合政府よりも規模は大きく、国民も存在する。

 ◇リーダーはコマンド。


◆ビリオン=レナトゥス

 ◇総合企業。

 ◇国際政府、連合政府、ネオ・連合政府を相手に取引を展開している。連合政府やネオ・連合政府よりも強大な軍事力を有する。

 ◇リーダーはヒライルー。

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