不思議みつけた
ニホンゴを発する時に身体から何か熱い力が抜け出していくのを知ったのは、『ノドが渇いた。水飲みたい』と独り言を言った時だった。
急激に数キロ分のマラソンを走り終えたような疲労が襲ってくるのと同時に、口の中が僅かに潤ったような気がした。
最初は何かの病気なんだろうかとパニックに陥って泣き喚いた。
しかし寝て起きてみると、就寝前に感じていた疲労はサッパリ消えていた。
またある日、部屋の暑さに耐えかねて『風が吹かねーかなあ』と言った時、またあの不思議な現象が起こった。
今度は一瞬のそよ風とダルさ。
この時も前と同じ様に泣き、疲れて寝て、起きたら何とも無い。
2度だけなら起こった現象が些細だった事もあり、偶然や気のせいで片付けて終わっていたかもしれない。
しかし3度目の現象は明らかに異常だった。
電灯すらない部屋の夜の暗さが恐ろしくなり『もっと光を』とつぶやいた時、目の前がほんのり明るくなった。しかしほとんど間を置かず直ぐに暗闇が戻って来て、後には疲労だけが残った。
明らかな異変に「これは何か超常の力が働いているのかもしれない」と思うようになった。
3つに共通するのは、現象、疲労感、現象と同じ独り言。
試しに疲労感が薄れてきた頃を見計らって『光あれ』とつぶやいてみた。
ほんの一瞬、目の前がパッとフラッシュし、続いて襲ってくる疲労。
間違いない。
これは、きっと『魔法』だ!
何度か試した結果、魔法的な力が働くのは、水・風・光・闇などといった自然現象(火とか雷は、ベッドから離れられない現状で試すのは危険だったので未だ試していない)と欲求を表す言葉が組み合わさった場合という事が判った。
例えば、
『水・飲みたい』であれば口中に水分が。
『風・吹け』であれば微風が。
『光・在れ』であればほんのりと明かるい光が。
『闇・在れ』であればうっすら染みの様な影が。
疲労する度合いは起こった現象の強さに比例するのかもしれない。
なぜ「かもしれない」なのかと言うと、
『水・流れろ』
『風・駆けよ』
『光・弾けろ』
『闇・覆え』
と言ってみた時は、意識を失ってしまったのか気が付いた時には何が起こったか覚えていない。
ベッドが濡れている。部屋の中の軽いものが動いている。といった痕跡が残っているし、光の時は視界が一瞬白く、闇の時は暗くなっていたような気がするので、何がしかの現象が起こったのだろう(鼻を突くようなアンモニア臭はしないので断じてオネショではないし、開いてる窓から猫が入って暴れて出て行ったなんて事も無いと思う)と推察している。
恐らく『魔力』的な内在するエネルギーが『魔法』の行使に必要なエネルギーに対して不足しているのだろう。
あれから何度か『魔力』の限界値を探る為に限界ギリギリの『魔法』を試した。
だがあるとき気絶から目覚めると、おかあさんが真っ青になって悲壮な顔で目をぎゅっと瞑り、祈るような姿勢で俺の手を握っていた。
その後ろで背を向けているおとうさんが何をしているのか判らなかったが、あちらの方から何か青臭く暖かい匂いが漂って来た。
この匂いは薬であろうか?病気か何かと思われたのかもしれない。
赤ん坊は直ぐに熱を出したり、ちょっとした風邪で死んでしまったりと非常にか弱い。
物凄く二人に心配をかけてしまったようだが、ただの『魔力』不足による気絶だ。一眠りしてしまった後なので、むしろスッキリ爽やかなお目覚めだ。
何とも無い事を両親に伝えようと「あーあー」言ってみる。
それに気が付いたおかあさんは慌てておとうさんを呼び、駆け寄ったおとうさんは俺が「キャッキャ」と笑って見せているのを確認すると、二人は抱き合って喜び、涙を流して神へ感謝の祈りの言葉(ニホンゴで『いただきます、ごちそうさま』を何度も繰り返していたのだが、俺はそれが彼らの感謝の言葉だという事を何度か見ていたので知っている)を捧げた。
二人には本当に申し訳ないことをした。
俺は心の中で、意識が無くなるような魔法の行使と研究は控え目にしようと誓った。
おとうさんがうっすら湯気が立ち上るお椀から匙で緑色の液体を掬うと、先ほどから漂っていた青臭い匂いが口元へと近づいてくる。
なるほど薬を飲ませようという事か。
もう何とも無いのだが、両親を安心させる為に俺は素直に口を開けた。
……それ以来、俺は魔法を金輪際使用しない!と堅く誓った。
こんな感じで進みます。
あまり考えなくても書けるので『ファミスポ』より遥かに楽ですね。
比較対象にも困らないし、練習にはもってこいの題材だなあ。