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異世界へ
死した魂は地に残り次なる生に転ずるか、天に昇り輪廻から外れるか。
しかし彼の魂はその理を外れて彷徨う。
『無垢なる魂は天に召され、その肉の身には異なる世界より招かれたる魂が宿らん。』
この世界で連綿と語り伝えられる言葉。
既にこの世の誰も意味を知らぬ力を帯びた言霊。
どこの村でも、どんな身分の者へも等しく送られる生誕の祝詞。
気が遠くなるほどの偶然と奇跡が重なり、次元を越えて詠唱の力が捉えた魂が嬰児の肉体に宿る。
産声は、かつての己が身の喪失を悼む魂の慟哭。
二度とは帰れぬ己が世界との惜別を告げる唄。
自らの立つ場所も知れぬ不安と焦燥と恐怖の叫び。
やがて泣き疲れた子の身は眠りに就き、魂は夢の世界へと誘われる。
『彼のものが目覚めし時より物語りは動き始める。世界に騒乱と革新あれ。』
産婆が先祖代々語り継がれてきた 子供の健やかな成長と神への感謝の祈りと伝えられてきた聖句は、誰にも知られる事無くついにその本来あるべき力を発現した。