表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

第二十二話

 スパークルエルクを手懐けたジュディは、煌く毛皮を優しく撫でている。

 エルクは気持ち良さそうに目を細めてされるがままだ。

「ほんと、凄い懐いてるね」

「そうだな。さっき無事で良かったみたいな事を言ってたけど、何か関係があるのか?」

「この子とは、さっき森の中で会ったんです。すぐに仲良くなれたんですけど、そこに狼が来て……」

 このスパークルエルクは、その時点では【ネイチャーフェイタライズ】を受けていなかったにも関わらず、ジュディを守るようにブラッディウルフに立ち向かって行ったそうだ。

 突然その立派な角を振るい襲い掛かったエルクとブラッディウルフの戦いを見て、怖くなったジュディはその場から逃げ出してしまったという。

 しかし、訳も分からず走り回っている内に、別のブラッディウルフの縄張りを通ってしまい、気付けば二匹のブラッディウルフに追われていた。

 スタミナが尽きて走れなくなり、万事休すとなった時、俺達が通りがかり、間一髪メリルが飛び込んできた。そして今に至るというわけだ。

「ごめんね、助けてくれたのに私だけ逃げちゃって」

 俯いて、申し訳無さそうに背中を撫でるジュディを慰めるように、エルクは小さく鳴いた。

「はー、こんなことってあるもんなのねぇ」

 俄かには信じがたい光景に、メリルが溜息を吐く。

「調教スキルに、動物に好かれる効果でもあるのかもな……それに戦闘や生産でリアルの経験や知識が反映されるんだし、動物に懐かれる要素なんかも反映されてたりするかもしれん」

「……変なゲーム」

 確かに変だが、悪くはない。

 ジュディとエルクを見ていると、戦闘に明け暮れている俺達には知り得なかった、アトラスの違う楽しみ方が垣間見えてくる。

「調教スキルっていちいち動物を手懐けて回らないと上がらないのかな?」

「いや、確か手懐けた動物に指示を出す事でも上がるはずだ」

「あんた何でも知ってるのね」

「サービス開始前に情報漁ってる時が一番楽しいからな。アトラスはプレイしてても楽しいが」

「ねえジュディ、何かやってみてよ」

 メリルの言葉に暫く首を傾げていたジュディだが、意を決したように毅然とした顔でエルクに指示を出す。

「待て!」

 犬かよ。

 そして、ジュディはエルクから距離を取る。

 しかし、

「あ、あれ?待て!待って!お願い、待ってってば!」

 エルクは言うことを全く聞かず、ジュディを追い掛け回し鼻を押し付けている。

「い、言うこと聞いてくれません……」

 諦めたように立ち止まり、困り顔でエルクの首を撫でるジュディ。

「なんか、手懐けたっていうより……ただ懐かれてるだけって感じね」

「まだスキルが低いからだろうな……よくそれで【ネイチャーフェイタライズ】が成功したもんだ」

 命令を無視するというのは頂けないが、暴れたり逃げ出す様子が無いだけマシか。

「ま、調教スキルを上げればちゃんと言うことも聞いてくれるだろ。とりあえず完全に日が落ちる前に基地に戻ろう」

 俺達と一匹は、木漏れ日に赤く染まる森の中を歩き前線基地へと向かう。




 アトラスに限らず最近のMMORPGのアカウントは、国民総ID制度と生態認証のチェックが必要なので、基本的に複数作る事が出来ない。

 悪質な嫌がらせや、PKの繰り返しでアカウントに傷がつけば、そのアカウントだけでなく、住基IDにも記録されて別のゲームをプレイする際に要注意プレイヤーとして扱われる事になる。

 ゲームだけでなく、様々な場所で住基IDは使用されるので、たかがゲームと迂闊な事をすると思いもよらない弊害が起きる事がある。

 総じてネットを介した詐欺やハラスメント行為などは減少傾向にあるそうだ。

 しかし、ゲームより遥かに罰則の厳しい現実で犯罪に走る者が絶えない以上、やはり万が一の事を考えて行動する必要がある。

 ましてやジュディのお友達はレアモンスターである。

 欲に目が眩んだプレイヤーの攻撃を受けないとも限らない。

 なので、ジュディのエルクには前線基地の南門の側にある厩舎で待っていて貰う事にした。

 厩舎はプレイヤーがログアウトしている間や、街の中へと入る際に預ける事で、システム的にペットを保護する施設だ。

 相応の費用はかかるが、ここに預けている限りペットの安否を気遣う必要は無い。


 俺とメリルは、ジュディを連れて食事を取るために中央区の酒場へとやってきた。

 会話は自然とジュディに関する物になる。

「へぇ、じゃあお姉さんと一緒に遊ぶためにアトラス始めたんだ。仲良いんだね」

「はい……けど、お姉ちゃんお仕事で海外に行かないといけなくなっちゃって……」

「ありゃ……お姉さんはどれくらい海外にいっちゃうの?」

「早くても半年、遅いと何年かかるかわかんないって……」

「……それは随分とタイミングの悪い話だな」

 アトラスは現在国内販売のみで、海外からのアクセスは禁止されている。

 将来的には世界規模で展開し、世界各国のプレイヤーが同じワールドでプレイする事も可能になるという話だが、それはまだ先の話のようだ。

「じゃあ、ダークエルフなのに前線基地を選んだのはお姉さんの影響?」

「はい、お姉ちゃんお仕事で忙しくて、パーティーで遊ぶ時間ないから、一人で遊べるノスフェラトゥにするって言ってたから……」

「一緒にノスフェラトゥにはしなかったんだ?」

「最初はそのつもりだったけど、髪の毛の色が綺麗だったから……」

 ジュディは恥ずかしそうに透ける様な白髪をつまむ。

「なるほど。なんでジュディみたいな子が一人でこんなとこにいるのかと思ったら、そういう事情か」

「けど、お姉さんとは一緒に遊べなくなっちゃったんなら、プレイするのをやめようとか、別の場所で始めようとは思わなかったの?」

「お姉ちゃん、楽しみにしてたから……私、小さい頃からお姉ちゃんに頼りきりだったし、もしお姉ちゃんが早く戻ってきたら、私がお姉ちゃんを守れたらいいなって思って……」

「健気ねぇ」

「誰かさんにも見習って欲しいもんだな」

「減らず口を……」

 睨み合う俺達の間で、おろおろとジュディが視線を彷徨わせる。

「……あの、お二人はゲームの外でもお友達なんですか?」

「は?」

「え?」

「えっ、あの……違うんですか?」

 突然の問いに俺とメリルは呆気に取られて顔を見合わせる。

「……いやぁ、ないない、こいつとともだ、いってぇ!」

 バチンと音を立てて鼻っ柱に平手を食らう。

「そうそう、お友達よ。もちろんジュディもお友達、ね」

 人の顔面に躊躇い無く平手を食らわせておいて、悪びれた様子も無く優しげに微笑むメリル。

「……お友達が三人もできちゃいました」

 メリルに非難の声を上げようとしたが、嬉しそうに呟くジュディに毒気を抜かれる。

 しかし、三人という事は、その中にはあのエルクも入っているのだろうか?

 ならば三人と言う数え方はどうなのだろう……。

 二人と一匹、いやむしろ一人と二匹だな、などと考えていると、脛を蹴られる。

「なんだよ、何も言ってないだろ!」

「口に出てたわよ」

「なんだと、そんな馬鹿な……」

 思わず口を押さえる俺を見つめる、冷ややかなメリルの目。

「やっぱくだらない事考えてたんじゃないの」

「な!?騙したな!」

「あんたのひんまがった根性が悪いのよ!」

 テーブルの上で罵り合い、テーブルの下で足を踏み合う。

 俺達の間で、ジュディは少し困ったように、それでいて楽しそうにくすくすと笑っていた。


 料理が運ばれてきた事で、ようやくメリルも大人しくなった。

「そういえば、ジュディ。あのエルクに名前はつけないのか?」

「名前、ですか?」

「お、あんたもたまには良い事言うじゃない。名前をつけてあげれば、あの子も早く言うこと聞いてくれるかもね」

 そう言うと、メリルはサラダをフォークで突付きながら思案しだした。

「スパークルエルクだから……スパ、クル、エル、ルク……」

「どんだけ単純なんだよ。ていうか何でお前が考えるんだよ」

「いいでしょ別に。ルク……ルーク!どう?」

「ルーク……いいと、思います」

「ほら、好感触じゃないの!」

「はい、あの子の名前は、ルークにします」

「そうか、良い名前だな」

「おい、考えたの私なんですけど」

 勝ち誇ったように胸を張るメリルを無視してジュディに頷くと、彼女も嬉しそうに笑う。



 食事を終えた俺達は、ジュディの調教スキル修行を手伝う事にした。

 手伝うと言っても、俺達に出来る事は見守る事と周囲の警戒くらいなのだが。

 前線基地の南門からほど近い草原で、ジュディがルークに手のひらを突きだし指示を出す。

「ルーク、待て!」

 数え切れない失敗の末に、ようやくルークは『待て』の意味を理解したようだ。

 ちゃんと指示を受けた場所で待機しているが、ジュディと離れるのが不安なのか、しきりに蹄を踏み鳴らしてそわそわしている。

「いいよ、ルーク、おいで」

 ジュディが十メートル程離れた場所で手を振ると、ルークは弾かれたように駆け出し、ジュディに寄り添う。

「癒されるわねぇ」

 前線基地の周囲に張り巡らされた防護柵に寄り掛かりながら、ジュディとルークを眺めていたメリルが顔を綻ばせる。


 俺の中で、ジュディをこのまま放ってはおけないという気持ちが強くなっていた。

 中学生になったばかりだという幼い少女が、他プレイヤーの欲を刺激するレアモンスターを連れて歩けば、碌な事にならないのは目に見えている。

 恐らく、メリルも同じ事を考えているだろう。

「暫くスキル上げは休憩するか」

「……そうね、ちょっと急ぎすぎた感じもするし」

「流石に今のジュディを連れて古代樹の森には行けないし、な」

「あの子とこのままはいサヨナラって気にもなれないしね」

 暫しの沈黙。

「別にいいんだぞ、お前だけで狩りに行っても」

「あんたこそ良いの?これまで頑張ってきたのに。多分うちら闇の民じゃトップだと思うよ」

「……『お友達』を置いてってまで拘る程のもんでもないだろ」

「あは、似合わない事言わないでよね」

「似合わない事も、それはそれで楽しそうだからな」

 月明かりに毛皮を煌かせて駆けるルークと、それに負けないくらいの笑顔を浮かべるジュディを、俺達は黙って見守っていた。


 夜が明ける頃には、ジュディの調教スキルもかなり成長し、ルークもちゃんとジュディの指示に従うようになっていた。

 そろそろ調教スキル以外のスキルを上げようという段になって、ジュディが初期スキルに何を取ったのかを聞いていない事に気付いた。

「そういえば、ジュディは調教以外は何のスキルを取ったんだ?」

「えっと……楽器演奏とお料理です」

「予想はしてたが、やっぱり戦闘系のスキルは取ってないのか」

「あ、はい。運動とか、苦手で……音楽とお料理は得意ですから……」

「……なんともジュディらしい選択だけど、ほんと闇の民が似合わない子ねぇ」

「ご、ごめんなさい」

「あ、別にダメって訳じゃないよ、良い意味で!良い意味で似合わないなーって」

 しょげるジュディを慌てて慰めるメリル。

「けど、悪くないんじゃないか?料理は闇の民でも出来る数少ない生産の一つだからな」

 グリーンスキンの鍛冶スキルと同じように、料理スキルは闇の民でもペナルティ無しで使用できる生産スキルだ。

 おまけに、料理スキルには種族の限定も無い。

 理由は、料理スキルで作れるアイテムに、普通の料理以上の価値が無いからだ。

 生産品の料理を食べても、スタミナ回復が出来る程度で、ステータス増加効果やbuff効果などは一切無く、料理スキルを取っても戦闘で有利になる事はない。

 それどころか、スキル合計値が増加する事で、スキル値の上昇率が低下してしまうデメリットを嫌って、ほとんどのプレイヤーからスルーされている。

 完全に趣味のスキルなのだ。

「ま、料理はともかく、調教と楽器演奏か。ならバードテイマーしかないな」

「バード、テイマーですか?」

 ジュディは何の事かわからないらしく首を傾げる。

「バードってのは吟遊詩人の事だ。曲を奏でて周囲に強化効果を与えたり、逆に周囲の敵に弱体化効果を与えたり、相手の行動を制限したりするSAを使える」

「曲で、ですか?」

「ああ。上手くやれば自分は戦わずに勝てるスキルだ。相手を沈静化する事で戦わずに逃げる事も出来るし、ジュディには合ってると思うぞ」

「だって。良かったねジュディ」

「はい。あんまり叩いたりとかは、したくないですから」

「確かに、ジュディが武器持って戦ってる所は想像出来ないしな。よし、じゃあ中央区に行くぞ。バード系のスキルトレーナーがいたはずだ」

 俺達は再びルークを厩舎に預け、中央区の四神像の噴水広場を目指す。


 四神像の噴水が見えてくると、風に乗ってリュートの音色が聞こえてくる。

 噴水の側のベンチに腰掛け、リュートを爪弾くダークエルフの老人が、こちらに気付き声を掛けてきた。

「これはこれは、屈強な戦士様に可憐なお嬢様方。一曲いかがですかな?御希望の曲があれば喜んで歌わせて頂きましょう」

「曲はまたの機会に聞かせてもらうよ。今日はこの子にスキルを教えてほしくてな」

「よ、よろしくおねがいします」

「ほう、歌を学びたいと?ははは、前線基地で歌の教えを請われるとは思いませんでしたな」

 吟遊詩人は、ポロンと軽く弦を弾き、愉快そうに笑う。

「よろしい、私に教えられる事であれば喜んでお教え致しますよ。ふむ……既に楽器演奏スキルは私に教えられる事はありませんな。それでは音楽知識と歌唱スキルをお教え致しましょうか」

 吟遊詩人は咳払いをすると、リュートを奏で、情熱的に歌い上げる。

 俺達は、その歌声に呆気に取られたまま動けずにいた。

 通りすがりのプレイヤー達も足を止めている。

 やがて曲の終わりを告げるように一際激しくリュートを掻き鳴らすと、吟遊詩人は深く一礼する。

「あー……どうだ、ジュディ、スキルは上がったか?」

「えっ?……はい、上がって、ます。ちゃんと」

「そ、そう……良かったね、ジュディ」

「ふう、久しぶりに良い詩を歌う事が出来ました。これも貴女方との出会いの賜物でしょう。また新しい歌を学ばれたくなったらいつでもお越し下さい」

「そう、か。それは良かった。じゃあ、俺達はこれで……」

 肩を振るわせるメリルを肘で突付き、踵を返す。

「あ、あの、私ジュディアって言います。お名前を教えてください」

 名前を尋ねられた吟遊詩人は、一瞬呆気に取られた表情をした後、困ったように笑う。

「私はしがない吟遊詩人です。名前などとうに捨てた身ですが……レディのお名前を聞いて何も名乗らないのは失礼ですな。かつては……ヴェルナールと呼ばれておりました」

「ヴェルナールさん、ありがとう御座いました」

 ジュディは深々と頭を下げると、こちらに駆け寄ってきた。

「ぷ、くく、ジュディってば、よくあの歌を聞いて平然としてられるわね」

「お前は笑いの沸点が低すぎるんだよ……」

「……びっくりしました」

 俺達は、吟遊詩人のくせに酷く音痴なヴェルナールに一礼し、中央区を後にする。



 俺達が次に向かったのは商業区。

 初期装備のジュディの装備を買いに、ラウフニーの店を訪れていた。

 当然始めたばかりのジュディにはまだ装備を整えるだけの所持金は無いのだが、メリルが買うと言って譲らなかったのだ。

 個人的にはあまり初心者を甘やかすべきではないと思っている。

 しかし、確かに粗末で野暮ったいローブ姿というのは、年頃の女の子には辛い物があるだろうと思い、店の隅に置かれたソファーに座って買い物が終わるのを待っている。

「んー、やっぱりこれかなー?」

「メリルさんとお揃いですね」

「そうして並んでおられると、姉妹のようでございますよ」

「えー、美人姉妹だなんてそんなー!」

「は?いやそんな事言ってな、痛い!背中を叩かないでください!」

 メリルがラウフニーに絡んでいる横で、メリルお気に入りの白地に青糸で刺繍を施したデザインのローブを着たジュディがこちらに視線を向けてくる。

「ほら、ガイも何かいったげなさいよ!」

「ああ、いいんじゃないか?」

「うわっ雑っ!モテない男はこれだから……」

「んだとコラ」

「あっ、あの、私これにします!」

 俺とメリルのいつものやり取りを察知したのか、間にジュディが割って入る。

「んふ、お揃いだね。じゃあお会計お願いしまーす。今日は値切らないから安心してね」

「はぁ、良かった。いえ、ははは……」

 先程から不安げにこちらをちらちら見ていたラウフニーが安堵したように笑う。

 お揃いのローブに身を包んだ二人が会計を終える。

「じゃ、行くか」

 店を出ようとソファから立ち上がるが、なぜか二人とも動かない。

「どうした?まだ何か買うのか?」

「あ、あの……」

 俯いて身を捩るジュディがメリルを見上げるが、メリルはわざとらしく口笛を吹いてそっぽ向いている。

 やがて、ジュディは意を決したように顔を上げる。

「ガイアスさん、も……その、お揃いの……」

 そう言って、ジュディは壁に掛けられた、二人が着ているローブと同じ、白地に青糸の刺繍が施されたマントを見上げる。

「あー……俺にもあれを着ろ、と?」

「その、良ければ!……だめ、ですか?」

 メリルとジュディはいいだろう。

 美女と野獣だが一応メスの野獣だ。お揃いの衣装で歩いている姿は微笑ましいだろう。

 だが俺もそこに混ざるというのは正直勘弁して欲しい。して欲しいのだが……。

 沈痛な面持ちで俯くジュディには敵わない。

「ラウフニー、あれを貰うよ。いくらだ?」

「は、はい、ありがとうございます。あちらのマントは7sでございます」

「そうか。5s」

 爽やかな笑みで値切り交渉を開始すると、ラウフニーは顔を青くして天を仰ぐ。

 嬉しそうに微笑むジュディとの対比は、天国と地獄を現しているかのようだった。



 お揃いの衣装に身を包んだ俺達は、一度南門へ向かいルークを厩舎から引き取り、前線基地の外周を歩いて北西のマッドスライムの沼を目指す。

 どんなスキルでも、最初のスキル修行の相手は動きの遅いマッドスライムが丁度良いのだ。

 このへんは親切に出来ている。

「そういえばさぁ、ジュディならルークに乗れそうじゃない?」

 沼地へと向かう途中、体力の初期値が低いダークエルフであるジュディが辛そうにしているのを見て、メリルが呟く。

「確かに乗れそうだな。鞍がないと長時間は辛いだろうが……ジュディ、試してみるか?」

「はい、やってみます」

 ジュディも興味津々といった面持ちでルークの背に登ろうとする。

 しかし、かなりの巨体を持つルークの背には、小さなジュディでは鐙も無しには登れない。

「た、高くて乗れませんっ」

「仕方ない、メリル、ジュディを持ち上げてやれ」

「はいはい、って、あら?」

 メリルがジュディを抱き上げようとすると、突然、ルークが足を折って地に伏せる。

「ルーク、ありがとう」

 ジュディはルークの喉を撫でて、背に跨る。

 ルークはゆっくり立ち上がると、跨ったジュディが歓声を上げる。

「羨ましいわね。私もルークみたいな子が欲しくなってきちゃった」

 ルークに乗ってはしゃぐジュディを、メリルは羨ましそうに見上げる。

「乗せてもらったらどうだ?俺は無理だろうけど、メリルなら乗れるんじゃないか。ギリギリで」

「一言多いっつの……ねぇジュディ、後で私も乗せてね」

「はい」


 俺達は、あえて遠回りをしながら沼を目指して歩く。

 たまにはこうしてゆっくり歩くのも、悪くはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ