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第二十話

 ボス狩りを始めて十日程。

 倒したゴブリン部隊長は二十体近い。


「なああああんで格闘武器が出ないのよおおおおおお!」

 鬼神の如き形相で道中の敵を片っ端からなぎ倒していくメリル。

 メリルの現在の装備は【重量軽減】のかかったボスドロップの金属胴鎧に、ラウフニーの店で新しく買った鎧の上から着れるローブ。

 しかしグローブとブーツはボスに挑戦する前から使い続けているゴブリンチーフグローブとゴブリンチーフブーツだ。

「落ち着けって。あれだけ狩って出ないって事は、そもそも格闘型の部隊長がいないんだよ」

「納得いかない!納得いかない!ガイはもう全身部隊長装備なのに!なんで!」

 周囲の景色が歪んで見えるような錯覚さえ覚える怒気を放ちながら、メリルがこちらを半眼で睨んで来る。

「仕方ないだろ、重戦士型ばっかり出てくるんだから」

 現在の俺の装備は、武器から防具までがボスゴブリンのドロップアイテムだ。

 出てくるボスの殆どが重戦士スタイルであり、倒せば何かしら装備をドロップするので、俺の装備はかなり早い段階で揃った。

 ゴブリン部隊長はリポップするたびに名前と戦闘スタイルが変わる。

 二十体程倒した限りでは、長剣と盾、大剣、槍、両手槌、弓と短剣という戦闘スタイルを確認しているが、格闘型のボスはこれまで一度も現れていない。

 基本的にボスが装備している武具をドロップするので、格闘型のボスが出てこないのでは格闘武器のドロップは望むべくもない。

「うう……武器欲しい……レア欲しい……」

「レアって言うほど強くないだろ……そもそも倒せば確実にドロップするんじゃとてもレアとは……」

「ふん、全身レアに包まれてりゃ有り難味も薄れるでしょうよ」

 メリルは口を尖らせてそっぽを向く。

 二十歳になろうかと言うのに、まるで子供を相手にしている気分だ。


 しかし、実際使って見てわかったのだが、部隊長装備は言うほど強くはないのだ。

 もちろんエリートゴブリン装備と比べれば性能は高いが、所謂レア装備などと言われるほどの物ではない。

 良く言えばプチレア、悪く言えばゴミレア。

 あれば良いかな程度の装備でしかない。

 戦闘の効率にしたって、今の俺とメリルに大差はない。

 もちろん、自分が持っていない装備を欲しいというネトゲプレイヤーの欲求は理解できるが、そもそも存在しないのではどうしようもない。

 とは言え、メリルが完全に臍を曲げる前になんとかしないと、そろそろ身の危険を感じる。

 ぶちぶち愚痴りながら肩を落として歩くメリルを一瞥し、ため息を吐く。



 既に宿命値は紋章の報酬で上げられる限界まで上げてしまったので、換金をメリルに任せて、廃屋の壁に寄りかかりインベントリページを開く。

 アトラスでは、所持品は全てミスティックキューブと呼ばれる魔法の小箱に収納される。

 これは所謂四次元ポケットのような物で、どんな大きさの物でも収める事が可能だ。

 しかし、自分のSTRとVITに基づいた重量制限を超えると移動時や戦闘時にペナルティがつき、所持重量制限を超えると、それ以上収納する事は出来なくなる。

 重量ペナルティを受けて歩き回るのはSTRとVITを鍛える良い修行方法なのだが、普段はなるべくミスティックキューブ内のアイテムは整理しておくに限る。

 そろそろキューブ内を空けないと、近いうちにドロップアイテムの回収も出来なくなってしまうのだが、現在所持重量の大半を占めているアイテムは、どう処分した物かと頭を悩ませる代物なのだ。

 それは、ボスゴブリンのドロップアイテムである【輝く鉄鉱石】。

 生産スキルにペナルティが発生する俺とメリルでは、鉄鉱石を利用できる鍛冶スキルを修行する意味がないので、雑魚ゴブリンからドロップした鉄鉱石は全てエドワードに買い取って貰っている。

 しかし、この【輝く鉄鉱石】は、明らかに通常の鉄鉱石より価値がありそうだと言うのに、NPCの買い取り価格が通常の鉄鉱石と殆ど変わらないのだ。

 wikiなどで検索してみたものの、輝く鉄鉱石に関する情報は殆ど出回っていなかった。

 唯一得られたのは、通常の鉄鉱石よりも品質が良い素材アイテムであるという事だけ。

 ボスドロップであるだけに、もしかしたら貴重なレア素材ではと思って取っておいてあるのだが、はっきり言って良い加減邪魔になってきた。

 いっそペナルティ覚悟で鍛冶スキルを上げる事も考えたが、すぐ諦めた。

 生産設備自体は、アーカス村時代の物が残っているので、前線基地でも生産スキルを使用する事は可能だ。

 しかし、現在の前線基地には生産スキルのトレーナーがいないので、0.0から地道に生産をして上げなければいけないのだが、生産ペナルティのスキル値-30.0のせいでそれもままならない。

 ボスドロップとは言え、部隊長を倒せば必ず五個から十個はドロップするアイテムなのだし、活用出来ないのであれば、もう捨て値で処分してしまうべきだろうか。

 インベントリページの【輝く鉄鉱石】のアイコンを眺めながら唸っていると、遠くから何か硬いものを叩く様な音が聞こえてきた。

「おまたせー。はい分け前。何?どしたの?」

「いや、この音……」

 虚空を指差し、注意を促す。

 メリルは首を傾げて耳をひくつかせる。

「何この音」

「……あっちからだ。行ってみよう」

 俺達は前線基地の北西エリア、今は廃屋が並ぶ、かつてのアーカス村の生産者街へと向かう。



 音の発生源は、一件の廃屋だった。

 崩れかけたその廃屋からは、煌々とした明かりが漏れている。

 入り口から中を覗いてみると、熱気が顔を叩く。

 そこには、赤く燃える炉の傍らで、金床にハンマーを振り下ろす人影があった。

 金床の上で赤熱を放っている鉄の塊が、ハンマーで叩かれるたびに見る見る形を変えてゆく。

 あっと言う間に一本のロングソードとなったそれを、満足そうに眺めているのはグリーンスキンの男性プレイヤー。

 破壊神を祖に持つ闇の民は、基本的に生産活動に不向きだ。

 しかし、鍛冶スキルは唯一、闇の民でグリーンスキンの種族だけが適正を持っている。

 彼らは生産ペナルティなしで鍛冶スキルを習得する事が出来るのだ。

「ん?」

 ショートソードを傍らに立て掛けた男が、廃屋の入り口で彼の業に見入っていた俺達の姿を見止める。

「こんにちは」

 破顔して立ち上がった男が、廃屋から出てくる。

「何か御用かね?ああ、もしかして鉄を叩く音がうるさかったかな?」

 見上げるような巨体に丸太のような腕。

 いかにグリーンスキンと言えど、これ程の巨体のキャラクターを作るには、リアルでも相応の鍛え上げた身体が必要だ。

 禿頭と顔に刻まれた皺は、彼がかなりの年配プレイヤーである事を物語っている。

「いえ、うるさいとかじゃなくて、ただ何の音なのかなーって気になって」

 メリルが慌てたように説明すると、男は苦笑する。

「やっぱり気になる物かね。バスタニアではそこら中で金槌の音が響いている物だから、感覚が麻痺してしまったよ」

 バスタニアはグリーンスキンとダークエルフが中心となって建国した軍事国家で、ここ前線基地の騎士団もバスタニアの所属だ。

 鍛冶の才に恵まれたグリーンスキンを数多く擁しているため、大陸最大規模の武具生産国でもある。

「あなたは鍛冶職人なんですか?」

「ダルヴァだ。好きに呼んでくれていい。出来れば敬語もやめてもらえれば有難いな。ゲームの中でくらい歳を忘れたいからね」

「何歳なの?」

 メリルの不躾な質問にぎょっとするが、ダルヴァは気にした風も無く笑う。

「去年に定年退職して、今は悠々自適の身だよ」

「て、定年!?全然そんな風には見えないよ。ねぇ?」

「ああ……えらく体格もいいし、四十代と言われても信じるよ」

「ありがとう。若い頃から健康だけが取り得でね。先程の質問だが、君の言う通り俺は鍛冶職人をやっている。戦闘スキルも一応上げてはいるがね」

 そういって廃屋の壁に立て掛けられた巨大なハンマーを指す。

「ゲームなんて若い頃にやったきりで、仕事を始めてからはからっきしだったんだが、昔から日本刀とか、西洋の剣とか、鎧兜なんかが好きでね。自分で武器を作れると聞いて老後の趣味に始めるのもいいかと思って始めたんだ」

「鍛冶職人がなんで前線基地に?」

 確かに前線基地にはプレイヤーの生産者がいないので、それなりに稼げるだろうが、わざわざこんな辺境の地に来る程ではないだろう。

「バスタニアからここに派遣された騎士団に着いて来たんだよ。期間限定だが、お抱え鍛冶屋のようなものだな」

 先日騎士団隊長から聞いた、北の遺跡周辺の巨大モンスター討伐のために、騎士団の増援を呼んだという話を思い出す。

 どうやらダルヴァはその騎士団と一緒に前線基地に移ってきたようだ。

「騎士団の専属鍛冶師って、宿命値かなり高くないと受けられないんじゃないの?」

 基本的に騎士団に関するクエストというのは宿命値が高くなければ受けられない。

 前線基地のちょっとした依頼程度であれば俺達でも受けられるが、騎士団専属の鍛冶師ともなれば相当宿命値が高くなければなれないはずだ。

「職人ギルドのクエストをこなしていると、騎士団や国から生産依頼を受けられるようになるんだが、それの宿命値報酬がかなり良くてね。今は宿命値1500を少し超えた所かな」

 初期宿命値が比較的高めのグリーンスキンとはいえ、闇の民で宿命値1500超えというのは驚異的だ。

 しかし、それだけあれば騎士団専属になれるのも頷ける。

「けど、騎士団の専属とか大変そうだなぁ」

「お抱えと言ってもそれほど行動が束縛される訳じゃないからね。かなり報酬のいい依頼が受けられるし、それに別件でも前線基地に来ようと思っていた所だったから丁度良かったんだ」

「別件?」

 首を傾げるメリルに、ダルヴァは周囲を見回し声を潜める。

「出来ればこれはあまり言い触らさないで欲しいんだが、ここの南西にある廃鉱で魔鉱石が取れるらしいんだ」


 ダルヴァが言うには、魔鉱石とは長い年月を掛けて地脈を流れる魔力が溶け込んだ特殊な鉱石らしい。

 アーカス廃鉱に、鉄鉱石の魔鉱石が埋まっているという情報を得たので、真偽を確かめるために前線基地に来たのだという。

「鉱石知識スキルの修行のためにバスタニアの図書館で調べ物をしている時に、偶然その記述を発見したんだ。未だ魔鉱石は市場には全く出回っていないから、それで一本武器を打ってみたいんだよ」

 どうやらダルヴァは純粋に珍しい素材で武器を作りたいだけらしい。

 レア素材を使った装備であれば、売ればかなりの金になりそうなものだが。

「けど、廃鉱はゴブリンの巣窟になってるから、一人で採掘しに行くのは大変かもよ」

「そうだな。レア素材求めてそこらじゅう掘り返すとなったら、片っ端から敵を倒さないとならないだろうし」

 採掘作業がどのようなものかわからないが、廃鉱内の敵を片っ端から倒すとなるとかなりの労力だ。

 それも生産スキル持ちの鍛冶戦士ではゴブリンエリートを相手にする事になれば、一対一でも危ういだろう。

「このあたりの敵は他所と比べて強いとは聞いているが、そんなに危険なのか?」

「いやぁ、私達は最初から前線基地スタートだから、他所との違いはわからないかな。それに、開始してすぐにペア組んでやってたし、そこまで苦労はしなかったけど……」

「開始してからこっち、大規模掲示板で「闇の民無理ゲーすぎ」って書き込みを見ない日は無いからな。初期からペアでやってる俺達も何度か危ない目にあってるし」

「なるほど……予想はしていたが、やはりそう簡単には手に入りそうにないな」

 思案するように腕を組んで唸るダルヴァ。

「あ、そうだ。最近廃鉱に行くプレイヤーも増えて来てるし、鉄鉱石買い取りますとかやってみたら?ゴブリンも鉄鉱石ドロップするし、もしかしたら魔鉱石ってのも混じってるかも」

 しかし、ダルヴァはメリルの提案に首を振る。

「いや、俺ももしかしたらと思って中央区で鉄鉱石の買い取りをやってみたんだが、プレイヤーが持ってくるのは全部普通の鉄鉱石だった」

「……ちなみに、その魔鉱石ってのはどんな物なんだ?普通の鉄鉱石とどう違う?」

「性質的には全く別物だな。魔力を含んでいるからエンチャントをしやすいし、武器としての性能も格段に良い物になる。後は……そうだな、魔鉱石は普通の鉱石よりも輝いて見えるそうだ。実物は見た事ないが、本の記述にはそうあった」

 ……輝いている、鉄鉱石?

「それは……もしかしてこれの事だったり?」

 俺の言わんとしている事を察したのか、メリルが【輝く鉄鉱石】をダルヴァに差し出す。

「……ちょっと失礼」

 暫し呆然と【輝く鉄鉱石】を見つめていたダルヴァは、割れ物を扱うようにそっと摘み上げる。

 たっぷり数十秒【輝く鉄鉱石】を見つめていたダルヴァは、信じられないと言った表情で顔を上げる。

「……魔鉱石だ。君達、これを一体どこで?」

「アーカス廃鉱の最深部にゴブリンのボスがいる。そいつがドロップするんだ」

「むぅ、ボスのドロップなのか……となると自力で集めるのは余計に絶望的だな……いや、もしかしたら廃鉱を掘れば手に入れる事も……」

 ダルヴァは目を輝かせていたが、ボスドロップと聞いて再び渋い顔になった。


「ねぇ、装備作るのって鉱石何個位必要なの?」

 メリルの問いに、ぶつぶつ呟きながら俯いていたダルヴァは顔を上げる。

「ん?ああ、そうだな……作る物によってかなり必要な素材の数は変わってくる。ダガーであればインゴット二本程度、鉱石だと四個だな。大剣であれば大型の物ならばインゴットで三十本近く使う物もある」

「じゃあ格闘武器は作れる?」

「格闘武器は、厳密には防具のカテゴリーだな。俺は刀剣と鈍器が専門だが、一通り熟練度は上げてある。依頼があれば作るが」

 生産スキルは、スキル値の上昇と共に製作出来るアイテムの種類が増えていく。

 そして、生産品は様々なカテゴリーに分かれており、それぞれに熟練度が設定されている。

 刀剣を作り続けても、必要な技術が違う鈍器や防具では品質の良い装備は作れないという訳だ。

「格闘武器はボスドロップで手に入らないんだよね。もし作ってくれるならお願いしたいんだけど」

「それは構わないが……魔鉱石でか?グローブとブーツで今作れる最高の物となると、かなりの数が必要だが」

「七十個で足りる?」

「結構な数だな。しかし、インゴットにすると半分になってしまうからな。少し足りない」

「こっちに八十個ある。それでいけるだろ?」

「ああ、それだけあれば十分だ。だが、確認したい事がある。ちょっと待ってくれ」

 ダルヴァは魔鉱石を受け取ると廃屋の中へと入って行った。

「ガイ、いいの?」

「ああ、俺はボスドロップ装備があるからな」


 暫くして、ダルヴァが戻ってきた。

「予想はしていたが、やはり魔鉱石を素材にすると製作難易度が跳ね上がるようだ。もう少し熟練度を上げれば高品質が出来る目もあるが、急ぐのか?」

「メリル、どうする?」

「んー、良い武器が手に入るならもうちょっと我慢する」

「良いのか?あれだけ新しい武器が欲しいって騒いでたのに」

「ふん、すぐにあんたの武器より良い奴が手に入るわよ」

 からかうように言うと、ローキックが飛んできた。

「では、依頼を受けた事だし、熟練度の修行のためにも鉱石を掘りに行きたいんだが。もしよければ、手伝ってくれないか?」

「手伝うって、私達採掘スキルなんて上げてないよ?」

「いや、掘るのは俺がやる。君達にはその間の護衛を頼みたい」

「俺達は構わないが、ダルヴァはいいのか?一応騎士団の専属なんだろ?」

「さっきも言ったが、お抱えと言ってもそこまで行動を制限はされないよ。ゲームだしな。気が向いた時に修理の依頼なり受ければ良いんだ」

「生産スキル便利そうだなぁ。裁縫とかやりたくなってきた」

「似合わねぇ」

「うるさい」

 俺の二の腕を殴るメリルを見て、ダルヴァは楽しそうに笑っていた。




 準備を済ませた俺達は、ダルヴァを連れて廃鉱を目指す。

 森の中を進んでいると、前方に二つの気配を感じる。

「メリル、正面に二匹だ」

「おっけー」

 剣と盾を構えると、背負っていた大槌を構えてダルヴァが前に出る。

「試しに戦ってみてもいいかな?」

「構わないが、ゴブリンは割と強敵だぞ」

「いいんじゃない?いざとなったら共闘ペナ覚悟で助けに入れば。今なら共闘ペナありでも勝てるっしょ」

「おい、一応強敵って言ってるのにそんな余裕かまされるとこっちの立場が……」

「気にしない気にしない!じゃ、私が先行して一発かますから、ダルヴァは私が殴った奴とは別のをお願いね」

「ああ、了解した」

 風のように木立の間を縫って疾駆するメリルと、それを追うダルヴァ。

「ったく、あのイノシシ娘め」

 苦笑して二人の後を追う。


「ぬうううううおおおおおおお!」

 ダルヴァが振るう巨大な両手槌がゴブリンの身体を捉えたかに見えた。

 しかし、ゴブリンは槌の直撃寸前に跳ぶ事で衝撃を殺していた。

 攻撃速度が速い片手剣や格闘術であれば、そうそうあのような避け方はされないが、攻撃速度の遅い両手武器でゴブリンを相手にする際は、あの素早い動きが厄介なのだ。

「がんばれー」

 早々にゴブリンを殴り倒したメリルが、巨大な槌を豪快に振り回すダルヴァに声援を送る。

 やはり、スキル構成のほとんどを生産スキルが占めているとあっては、ゴブリンは難敵だろう。

 だが、それでもダルヴァは致命的な一撃を巧みに防ぎ、じわじわとゴブリンを追い詰めている。

「結構やるもんだな」

「ほんとだねー。結構リアルでも鍛えてるみたいだしね」

「【クエイクスマッシュ!】」

 柄での打撃をゴブリンが回避した直後、地面に向かって振り下ろされた大槌が大地を揺らす。

『ギギィッ!?』

「ぬおりゃあああああああ!」

 突然の局地的な地震に足を縺れさせたゴブリンの身体を、今度こそ大槌が直撃する。

 吹っ飛ばされたゴブリンは木に叩き付けられ、地に崩れ落ちると二度と立ち上がる事はなかった。

「豪快だな」

 肩で息をするダルヴァの背中を叩くと、ダルヴァは苦笑する。

「こんな強い敵をあっさり倒すとは、やはり本職の戦士には敵わないな」

「そりゃ鍛冶師兼戦士には負ける訳にはいきませんなぁ」

「けど、ちゃんと勝てるじゃないか。廃鉱でもダルヴァに任せるか」

「勘弁してくれ、もう満足したよ。しかし驚いたな。あの闇ペア狩りの発案者が君達だったとは」

 俺達がペアを組んで以来やってきた戦法は、今は「闇ペア狩り」と呼ばれて広く知られている狩り方だ。

 当然これを広めたのは俺達ではない。

 どうやら鉱山周辺で俺達がゴブリンを狩っていたのを他のプレイヤーが目撃したらしく、そこから情報が漏れたらしい。

 別にペアに限らず、敵の数次第では三人四人でも可能なのだが、語呂が良かったのか、「闇ペア狩り」は共闘ペナルティを回避してリンクモンスターを分担する戦法の呼称となっていた。

「もうちょっとこの情報は隠しておきたかったんだけどな」

 最近はペアを組んで廃鉱に挑むプレイヤーが増えてきている。

 俺達が完全に廃鉱から卒業するまでは独占しておきたかったが、こればかりは仕方ない。



 廃鉱に入ってすぐの採掘場には数人が張り付いていたので、道中のゴブリンは俺とメリルで片付け、なるべく奥を目指す事にした。

 現在、廃鉱内で採掘するプレイヤーはいない。

 そんなプレイヤーを見かければ、何か珍しい物が出るのかと気になる物だ。

 もし魔鉱石が掘れるのであれば、その情報は勝手に広まるまでは秘匿しておくに限る。

「とりあえずボス部屋手前の分岐の先で掘ってみるか」

 ボスの部屋へと続く道には行かず、分岐した先の採掘場を目指す。

「随分と数が多いが、大丈夫なのか?」

 採掘場の様子を入り口から覗いたダルヴァが不安げに尋ねてくる。

「壁際の作業員は弱いから、少しくらいリンクしても大丈夫。中央にいるエリートと取り巻きは近づかなければ問題無いしね」

「とりあえず入り口付近の壁からやってみるか。釣るぞ」

【シャドウアロー】をゴブリン作業員に放ち、こちらに注意を引く。

 突然肩に突き立った矢に顔を歪ませ、ゴブリン作業員が奇声を上げてツルハシを振り上げる。

 それを大剣の腹で防ぎ、弾く。

 体勢を崩したゴブリンの胴を凪ぐ一閃。

 倒れたゴブリンは一撃で絶命していた。


「よし、それじゃ周囲を警戒するから掘ってくれ……どうした?」

「いや、まさか一撃で倒すとは思わなくてな……」

「作業員なら急所を狙えば難しくはない。両手持ちだったしな」

「近接スキルは捨てて鍛冶一本を目指すべきかな、自信がなくなってきた」

 そういって笑うと、ダルヴァはツルハシを取り出して壁に振り下ろす。

「……これだけ音を立てても反応無しってのもちょっと不自然だよね」

「採掘するたびに周囲の敵を全滅させなきゃならないんじゃ、生産きつすぎるだろ」

「妙に都合よく出来てるんだから」

「ゲームだぞ、これ」

 カツンカツンと採掘の音が響いても、周囲のゴブリン達は無反応だ。

 もっとも、ゴブリンの作業員達もツルハシを振っているので、採掘の音はそこら中に響いて区別などつかないだろう。

 しばし採掘を続けると、ダルヴァが歓声を上げる。

「出たぞ、魔鉱石だ!」

 差し出された鉄鉱石は、確かに微かに輝いている。

「鉄鉱石もかなりの数が掘れる。これならスキルもかなり上げられそうだぞ」

 魔鉱石を発見した事で、俄然張り切ってツルハシを振るうダルヴァ。

 その後もかなりの数の魔鉱石と鉄鉱石が採取出来た。

「魔鉱石も結構集まりそうだし、俺も大剣頼もうかな」

「ははは、それじゃあ相当掘り続けないとならないな」

「いいじゃん、全身魔鉱石装備にする勢いで掘って掘って掘りまくれー!」

 俺とメリルが殲滅、ダルヴァが採掘という作業は、三人の所持重量が重量制限ギリギリになるまで続けられた。

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