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雨の日は嫌い、雨の日はやっぱり嫌、でも雨の日もちょっぴり好きかも

作者: @000ーooo
掲載日:2026/06/14

 和美は雨の日が嫌い。雨の日は何もする気がしない。仕事に行くのも億劫になる。休みの日などは何もせずにベッドから出ないこともある。

 でも反対に晴れた日は好き。今日は雨が降らないと思うと嬉しくなってくる。でも急に雨が降って来た時などは最悪。昔の嫌な記憶がよみがえる。


「私浩のことが好き、付き合ってほしいのだけれど」

勇気を出して告白した。それこそ断腸の思いだった、たまに誘うと付き合ってくれるけど、なぜか心ここにあらずそんな浩がもどかしかった。もうじき卒業そうしたら浩とも会えなくなる。


 外は冬の雨が降っていた。喫茶店の窓から見る外の風景は、冬枯れの灰色に染まっていた。

「ごめん、和ちゃん、俺、今そんな気持ちになれない」

玉砕だった。こうなることは予想がついていたが、言葉に出して言われるとつらい。


 目の前が真っ暗になる。目の前のケーキが色あせて見える。下を向いて涙をこらえる。言葉を出せば浩にもっと嫌われるそう思うと泣くこともできない。


 時間だけが過ぎていく。周りの音が聞こえなくなる。そうやってどれだけの時間が過ぎていったのだろう。見るとこの店にはお客さんは私と浩だけだった。ウェートレスが暇そうにしている。マスターのコーヒーを入れる音だけが静寂の中、響いてくる。


「家まで送っていくよ」

浩がそう言ってくれるけど浩の顔を見られない。たぶん私の顔は涙にぬれている。こんな顔見られたくない。


「ううん、いい、もう少しここにいる。帰りはタクシー使うから。心配しなくていい」

「そう、大丈夫。ごめんね、それじゃ俺帰るから」

これが浩と交わした最後の言葉だった。


 その日はどうやって帰ったのか覚えていない。次の日の朝目覚めるとベッドの上だった。服も着替えずにそのままベッドに横になったみたいだった。


 朝鏡の前で自分の顔を見てみる。泣き濡らした顔がクマになっている。その日はまたそのまま寝た。そしてベッドの中で「雨の日は嫌い」と思った。



 あれから何年経ったのだろう。それでもまだたまに夢に見る時がある。あの時下を向いて涙をこらえずに浩にすがって泣いたら違う自分がいたのだろうか。


 でもその夢は決まって浩が「ごめん」と言うところで目が覚める。そこから先には進めない。そんなもどかしい生活にも慣れた。


 今は違う生活。いつまでも過去の時間の中にいるわけにはいかない。


 最近和美は山登りを始めた。山はいい、自然の中で自分を見つめることが出来る。山は雄大で泰然としている。自分がちっぽけな存在に見えてくる。


 もう浩のことも過去のこと前を向いて歩いて行こう。自然と勇気が湧いてくる。それに山登りは晴れた日にしか出来ない。雨の日は危なくてできないそれがいい。今日は絶対雨が降らない。そんな日を選んで山に行く。だから山登りの日は機嫌がいい。


 久しぶりに北の町の山に行った。すると道端に小さな祠があった。以前来た時には気づかなかったが、今日は見つけることが出来た。「心に余裕が出てきたからかしら」和美はそう思った。


 その祠は高さが1mぐらい屋根は御影石を削って作ったようで、屋根にはそりもある。屋根の厚さは5cmぐらい。そして、その屋根の下にはこれも石の壁と石の扉がある。


 石の扉を開けて中を見てみたかったが鍵がついていて、開けられない。古い鍵なので触れば多分壊れて扉を開けることが出来るだろうと思ったが、そんなことをしたらこの祠を管理している人に申し訳がないような気がしてただ眺めるだけにした。


 しかし、その祠はここ何年も手入れされた形跡はなく、苔がついてさらに落ち葉がたまっていた。これぐらいはいいかなと思って、和美はその祠に付いた苔と落ち葉を取って掃除した。掃除していると、なぜか祠が喜んでいる。そう感じた。



 そして、急に目の前が真っ暗になった。そして気づくと目の前に浩がいた。

「ごめん、和ちゃん、俺今そんな気持ちになれない」


 何年ぶり聞く浩の言葉だった。懐かしさがこみあげてくる。

「でも、もう泣くだけの生活は嫌」

そう思うと


「嫌、そんなの嫌、何でもする。どこへでも付いて行く。だから私を見捨てないで、浩のいない生活なんて絶対嫌」


 そして、浩の手をつかんで思いっきり泣いた。周りのことはどうでもよかった。唯涙が止まらなかった。唯浩にすがって泣いた。そのまま時間が過ぎていった。


 しばらくすると浩が

「ごめん和ちゃん。どこまでも俺についてきてくれる」

うれしかった。今度はうれし涙がこみあげてくる。


 泣きじゃくりながら

「付いて行く、どこまでも、だから私を見捨てないで」

「わかった。卒業したら俺田舎に帰るけど、付いてきてくれる」

「行く。浩のいるところだったがどこへでも行く」


「わかった、卒業したら、俺たち結婚しよう」

「うん。私、浩と結婚する。絶対結婚する。誰が反対しても浩と結婚する」

外は冬の雨が降っていた。しかし、その雨さえも暖かく思えた。


 それから、これまでの二人の懐かしい思い出を話した。うれしかった。もうこれからは浩と一緒の生活を歩んでいくのだと思うと自然と嬉しさがこみあげてくる。


 夕方になって家に帰ることになった。店の中にはお客さんは私と浩しかいなかった。ウェートレスが暇そうにしている。マスターのコーヒーを入れる音だけが静寂の中、響いてくる。


 でも、ウェートレスの仕草もなぜか暖かく感じられる。そして、マスターのコーヒーを入れる音も軽快に聞こえてくる。感情が違うと周りの音も違って聞こえるのだと今更ながら実感された。


 浩と一緒に店を出た。電車に乗って、駅で降りて、横断歩道を渡ろうとしたとき、信号無視の車が突っ込んできた。


 浩が私に覆いかぶさって私を守ろうとした。でも無駄だった。私たち二人は一緒に跳ね飛ばされた。ここで死ぬのだと思うと「雨の日はやっぱり嫌」と思った。そこで私の意識は途絶えた。



 気づくと先ほどの祠の前だった。

「どうしたの、和美、偉く長い間、祠に祈っていたようだけど何を祈っていたの」

聞こえてきたのは浩の声だった。


 嬉しさがこみあげてくる。涙をぬぐって、

「昔のことを思い出していたの」


 すると、後ろから

「お母ちゃん早く行こう、頂上まではまだあるのでしょ」

長女の美佳の声だった。


 浩が

「このあたりは今から1000年以上も前に大きな戦いがあったところなんだ。その際、多くの人が死んだらしい」

「この祠は、その人たちの無念を治めるために作られたのかしら」

「わからない。でも祠には祈ると、その人が一番悲しかった時に戻してくれるっていう話を聞いたことがある。そして祠にいいことをすると願いが叶うと言われているらしい」

「そうなの、願いを叶えてくれるの.ありがとう、祠さん」


 それから頂上まで登った。見ると北の海と中の湖の両方が見える。まさに絶景。360°の絶景が広がっている。山はいいな。「でも雨の日もちょっぴり好きかも」そう思った。

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