エピローグ ――竜と乙女の伝説――
戦乱の歳月を越え、季節はめぐり――新たな年の春が訪れていた。
王都は花と緑に彩られ、戴冠の儀を迎える広場には、数え切れぬ人々が集う。
厳かに進められる戴冠の儀。
壇上に立つルイスは、堂々と王冠を戴き、凛然たる眼差しで未来を見据えていた。
その姿はまさしく「国を導く王」であり、民衆は歓呼の声をあげる。
――同時に、人々の視線は、自然と空へと向かう。
青空を裂くように、漆黒の竜が翼を広げ舞い降りる。
その背に立つのは、風になびく黒髪の乙女――ニナ。
シオンと共に空を駆けるその姿は、もはや伝説の頁が、今まさに空に開いていた。
竜は天を翔け、雲を裂き、王都の空に巨大な虹をかけ渡す。
新王の誕生を祝福し、民に寄り添うように。
人々は声をあげ、涙を流した。まるで聖典の奇跡を目の前で見たかのように――。
その瞬間、ごく一部の信仰深き者たちは、違うものを目にした。
空に現れた幻影。
銀の竜と金髪の乙女――かつて教会が伝えてきた神話の始祖の姿。
けれど次の瞬間、それはゆるやかに変化し、
銀は夜の闇に沈むように黒へ、金は深き光沢を帯びた黒髪へと変じる。
――真実の伝説が、彼らの眼前で静かに明らかになった。
祈り人たちは声をあげず、ただ涙に頬を濡らし、地に膝をついた。
その涙は恐れではなく、救いと感謝の証だった。
黒竜と黒髪の乙女。
その姿こそが、国を救い、未来を照らす「真なる物語」だったのだ。
広場に立つルイスは、天を仰ぎ、微かに笑んだ。
祝福の虹は彼を優しく包む――胸にはただ国と民への覚悟だけが宿っていた。
そして、空を翔ける黒竜の背で、ニナはそっとシオンのうなじに手を添える。
竜の鱗の下で鼓動を感じながら、静かに囁いた。
――「これからも、ずっと一緒に」
彼女の囁きに応えるように、竜は虹を貫き、大空を駆け抜けた。
こうして黒竜と乙女の姿は、永遠の伝説として語り継がれる。
それは静かな愛の物語。
そして――この国の未来を誓う、新たな始まりだった。
ここまで読んでくださった皆さまへ、心からの感謝を。
この物語を最後まで見届けていただき、本当にありがとうございました。
この物語が、皆さまの心のどこかに少しでも残ってくれたなら幸いです。




