表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

第02話 王都の光と影 ― 運命の序曲

王都セリオン――竜と伝説が息づく都。

平民の娘ニナ・レイザルトは、伯父に導かれ王宮へ送られる。


使命は――王女を支え、王子の心を味方にすること。


王都の光と影、第二王子ルイス――

何かが、彼女の静かな日常を揺さぶり始める――。


王都セリオン――アヴェルシア王国の心臓にして、“天への架け橋”と謳われる都。


その名は、古き竜と乙女の加護がもたらした、神の愛と祝福に守られた理想郷を意味する。


かつて竜が舞い降りた丘に築かれた城は、今も白亜の尖塔を空へ突き立て、伝承の残響を宿していた。


その壮麗な城門をくぐった瞬間、ニナの胸は自然と高鳴った。


(ここが――王都……)


石畳の大通りは磨かれた鏡のように陽光を反射し、両脇には白亜の壁と尖塔をもつ建物が連なる。


壁面には古い彫刻が残り、ところどころ蔦が絡む。

窓のステンドグラスが光を受けてきらめき、春の柔らかな日差しが冬の冷たさをそっと溶かしていく。


夢の城を思わせる華やかさと、幾世代を経た重厚な時の重み――

その両方がひとつの景色に息づいていた。


色鮮やかな旗が風にはためき、広場からは楽団の音色が流れ込む。


だがその明るさの陰で、路地裏には痩せた子どもが母の裾にしがみつき、人目を避けるように座り込んでいた。


――輝きと影。その両方が、王都セリオンの鼓動を形作っていた。



「止めてください」


馬車の窓越しにその姿を見つけたニナは、思わず声をあげた。

御者が驚き、手綱を引いて速度をゆるめる。


ニナは窓から身を乗り出し、今にも扉に手をかけて降りようとする。


「あの子に……せめて、食べ物を」


小さく漏らした言葉に、王宮からつけられた従者が鋭く前へ出て扉を押さえた。


「おやめください、お嬢様。

施しなどなされれば、侯爵家の軽率と受け取られます。

民は甘やかせば群がり、あなたを利用する者も現れるでしょう」


ニナは息をのむ。


路地の奥で、子どもは細い手をこちらに伸ばそうとしていた。しかしその指先は、馬車の影に飲み込まれていく。

胸が痛む。

もし手を伸ばせていたなら――何かが変わったかもしれない。


やがて、楽団の音と人々のざわめきに、路地裏の影はかき消されていった。

ニナは胸に手を当て、ただ唇を噛む。


(私は、何もできなかった。言い返すことすら……)


胸の奥に痛みが走り、弱い自分を責める声が広がる。

けれどその痛みの奥に、かすかな芽が息づいていた。


(自分が嫌。次こそ――何らかの方法で、助けられるように)

春の香りを帯びた光が石畳を照らし、冬の影を静かに遠ざけていった。


***


やがて、大通りのざわめきがひときわ大きくなる。

騎士団のパレードが始まったのだ。


磨き上げられた甲冑をまとった騎士たちが列を成し、馬の蹄が石畳を打ち鳴らす。


その先頭に立つ銀の髪の青年――第二王子、ルイス・アヴェルシア。


ただそこにいるだけで、空気が変わる。

光を纏ったかのように群衆の視線をさらい、誰もが息を忘れた。


陽光を受けて輝く銀髪は聖竜の鱗を思わせ、澄み渡る青い瞳は湖の静謐を宿す。


その姿に、人々の歓声が溢れる。


「ルイス殿下――!」

「お美しい……!」


女性たちは頬を染め、幼子までもが憧れの眼差しを向ける。

その人気はもはや王族という枠を超え、ひとつの象徴のように輝いていた。


ニナも思わず息を呑む。


幼い頃に絵本や壁画で見た王子、英雄が、いま現実となって目の前に立っているかのようだった。

――同時に胸の奥で、不安も芽生える。


この人と、理解し合えるのだろうか……と。


***


王都の広場には竜伝説を描いた彫像や壁画が至るところにあった。

建国の祖とされる銀竜と金髪の乙女、そして悪しき黒竜を討ち果たす騎士。

壮麗な尖塔には竜の意匠が連なり、人々が竜を敬い続けてきた歴史を物語っている。


(……レイザルト領ではあまり見なかったけれど、この都は信仰が息づいているのね)


なぜか胸がざわめく。

その感覚を押し隠し、ニナは王宮へと足を向けた。



――このとき、彼女はまだ気づいていなかった。


胸の奥に芽生えた小さな違和感が、何を告げようとしているのかを。

読んでくださり、本当にありがとうございます!


まだまだ未熟な部分もありますが、よろしければ、皆さまの感想や評価、ブックマークなどいただけたら、次の物語への大きな力になります。


読んで感じたことをぜひお気軽に教えてください。

これからも、ニナたちの王宮の世界を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ