女の子とミルクティー
「珍しいね」
自動販売機の側のベンチに座ってコーヒーを飲んでいた青年は、声を掛けられると立ち上がった。少女が次の言葉を発する前に青年は小銭を投入するとカフェオレのボタンを押した。続けてミルクティーのボタンを押す。
「……」
お互い無言で少女は二つの飲み物を受け取った。少女は二つを見比べて、ぼそりとお礼を告げる。そのまま、飲み干した缶をゴミ箱に捨てると青年は立ち去る。その背中に少女はもう一度、同じ言葉、珍しいね、と呟いた。
「純ちゃん!」
「理佐」
ぱたぱたと、駆け寄って来た仲の良い友人は息を切らせながら手に持っていたお弁当を掲げた。これから、一緒に昼食を取るのがあの男には分かっていたのだろう。
「はい」
「これは…?」
「高田先生から」
「え! 先生いたの?」
「さっきまで、ここでコーヒー飲んでた」
「そっか、…会いたかったな…」
最後の言葉は小さく少女の耳には微かに聞こえる程度だった。すると、その手にまだ温かいミルクティーが乗せられた。
「純ちゃんが買ってくれたの?」
「高田先生から」
「私に?」
「女の子にはミルクティー渡せとけば喜ぶと思ってる」
「純ちゃん?」
「私は女の子じゃないみたい」
手に持ったカフェオレの缶を見つめて呟く。そのカフェオレもまだ、少し温かかった。それに、気付いた少女は笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。ちゃんと、女の子だって認識してるよ。だって、甘いカフェオレだよ? それに純ちゃん、ミルクティー飲めないじゃん」
「カッコつけすぎ」
「うん、翔くん、カッコいいよね」
ふわふわの茶色かかった癖毛の女の子は昔から長身のひょろりとした、眼鏡の男の子が大好きだった。彼と同色のサラサラの髪のやっぱり背の高い少女と一緒にいつも遊んでいた。
高田翔太郎と高田純子、村山理佐は幼馴染み。翔太郎と純子は年の離れた兄妹で、隣家に住んでいた一人っ子の理佐と小さい頃から翔太郎が小学校高学年の頃まで一緒に遊んでいた。それから、一緒に遊ぶ事は無くなったが純子と理佐は高校生になるまでずっと仲の良い親友同士になった。翔太郎が大学生になり、家を出るまでは顔を見合わせて話す事もあった。
小さい頃から理佐は翔太郎が大好きだった。あの大きな背中を追いかけて大きくなっていった。
「時間なくなるよ、理佐。お昼食べちゃおう」
「うん、天気が良いから外に行こうよ。街路樹脇のベンチが空いていたよ」
緑が多い校内には至る所にベンチが置いてあり、生徒たちは自由に利用している。夏場の天気の良い日は木陰に人気が集まりやすい。夏が終わり秋に季節が移り変わると、色んな場所のベンチに人が集まる様になった。季節はまだ、十月の半ばなので、街路樹脇の木陰のベンチでも、寒くはないので、気にする事なくお弁当が食べられる。
「少し肌寒かったね。膝掛け持って来て良かった」
「うん、理佐は気が利くね、ありがとう」
理佐の用意した膝掛けは二人で使っても十分温かった。ふと、理佐は視線を二階に向けて、嬉しそうに笑う。小さく手を振る。そして、唇の動きだけで「ありがとう」と告げる。その様子を見ないふりして、純子は大好きな卵焼きを頬張った。今頃、二階の窓際でお弁当を食べていた翔太郎も、同じ母特製の卵焼きを頬張るのだった。




