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傷物令嬢は婚約者の気持ちを教えてくれる不思議アイテムで溺愛されていることを知る  作者: 桜枕


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第35話 ラジオの謎

 社交界からの帰りの馬車の中。

 わたしは膝の上に置いた包みの中から魔法具ラジオを取り出した。先ほど、ルティ様から返していただいたものだ。


「魔法具とはいったい何なのでしょう。勝手に使い始めたのは、わたしですが当初はこんなことになるとは思ってなかったんです」

「俺も詳しいことは分からないが、いにしえの魔法使いが作った、人を堕とす魅惑の道具というのが言い伝えだな」

「そもそもコレは本当に魔法具なのでしょうか。わたしが勝手にそう言っているだけで実際には別物かもしれません」

呪物じゅぶつでないことは間違いない。父上に連れられて一度だけ呪物じゅぶつを見たことがあるが、もっと禍々しいものだった。発しているオーラが違うというか。こんな密室では息が詰まるような代物だ」

「魔法具もご覧になったことがあるのですか?」

「魔力を与えると自動的に火が灯る暖炉だけは見たことがある。確かに人を堕とすを言われるとその通りだ。その家の子供は火のおこし方も、火の偉大さも知らずに育った。火はそこにあって当たり前になってしまったんだ」


 つまり、人間とは楽を覚える生き物ということだ、とケネス様。


「わたしも魔法具ラジオを使用することで、ケネス様のお気持ちを聞くという行為を蔑ろにしていました。おっしゃる通り、コミュニケーションを楽に行っていたことになるのでしょう」

「そうだね。その点に気づき、ラジオを手放すという選択を出来たウィリアンヌは立派だと思う。そのままラジオの存在を隠し続け、俺のご機嫌を取り続けることも可能だったはずだ。そうしなかったのは、ウィリアンヌの心の強さの証明になるだろう」

「そう言っていただけると気持ちが楽になります」

「別の使い方もできるだろうし。危険な品には変わりない」


 わたしはヒビの入った魔法具ラジオを見下ろし、そっと風呂敷の中に戻した。


「また使いたくなっていないか?」

「はい。ルティ様やイザーク王太子殿下、そして王国のために使うことができたので最後に相応しい活躍の場を与えられたと思います」

「では、また廃鉱に封印しに行こうか」

「いえ。ずっと考えていましたが、これをわたしに売ってくれた老婆に返品しようと思います」

「老婆……?」

「公爵邸の近くにある教会に隣接する古びたお店の店主です。その人から金貨10枚で購入しました」

「それはまた、随分と大盤振る舞いだったな」


 ケネス様が苦笑されるのも無理はない。

 金貨10枚をこんな小箱に支払うなんて常軌を逸している。そのお金があれば洋服もアクセサリーも部屋の装飾品も、なんだって購入できるのだから。


「あの時、老婆は『今のわたしに必要なものだ』と言って売ってくれました。今もわたしにとって必要かと言われればそんなことはないので廃鉱に封印するよりも、他に必要としている人の元へ渡った方が良いのかもしれません」

「過ちを犯す人の手に渡るかもしれないよ。コレは所有者次第で善用も悪用もできてしまう」


 魔法具ラジオの使い方は所有者に委ねられる。あの老婆に見る目がなければ、それこそ反逆行為にも加担することができてしまったわけだ。


「やはり封印した方が良いでしょうか」

「ん。一度、元の持ち主に会ってみよう。そこで話をして考えればいいさ」

「分かりました」


 ケネス様は選択肢を多く用意して、わたしが選びきれなくても一緒に考えてくださる。問題を一人で抱え込まなくていいと思えば、心も軽くなるというものだ。


「実はあの教会は取り壊しが決まっていてね。俺も調べてみたが、隣接する骨董屋アンティークショップなんてなかった」

「……え?」

「毎日は出店していないのかとも思ったが、毎日通ってもウィリアンヌの言う店は見つけられなかったんだ」

「そ、そんな……では、わたしが入店した、あの店はいったいなんだったのでしょう」


 わたしだけが入れる不思議な店であれば、実はわたしが教会で気絶していて夢の中で入店したという説明も可能だろうが、侍女であるセラも一緒に老婆の姿を見ている。少なくとも二人は確認しているのだ。


「ウィリアンヌと一緒なら骨董屋アンティークショップに出会えるかもしれないと思ってね。是非、同行させて欲しい」

「それはもちろん。お願いします」

「ありがとう。あの教会はユミゴール公爵家が建てたもので、以前はもっと活気付いていたらしいが、今では人も寄りつかない。老朽化も進んでいるから父が取り壊しを決定したんだ」

「そうでしたか。勝手に入ってしまって申し訳ありません」

「いいんだ。立ち入り禁止の張り紙が破れていたのだろう」


 そこでふと違和感を覚えた。


 そんな張り紙なんてあったかしら。

 それに、わたしが入った時は教会に人はいなかったけど、そこまで老朽化した印象はなかった。花も生けられていたし、来訪者を不快にさせないくらいの清潔感もあった。


 ケネス様のおっしゃる教会とわたしが入った教会は別物かもしれない。


 以前のわたしなら一人納得していたが、今はしっかりと確認作業することを徹底しているから迷惑と分かっていても問いかけた。


「もしや教会は二つあるのですか?」

「いや。一つだ」

「となると、同じ教会でもわたしとケネス様では別物のように見えている可能性があります」

「……そうか。尚更、一緒に行った方がいいな」

「はい。お願いします」


 神妙な面持ちのわたしたちを乗せる馬車は静かに揺れながら公爵邸へと向かった。

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