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傷物令嬢は婚約者の気持ちを教えてくれる不思議アイテムで溺愛されていることを知る  作者: 桜枕


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第10話 RADIO

 ある日の昼下がり。

 今は侍女のセラが公爵家に仕える侍女やメイドたちと一緒に、わたしの部屋の掃除をしてくれている。


 わたしはといえば、彼女たちの仕事っぷりを眺めながら捨てて欲しくない本や嫁入り修行前にお母様からもらったお手紙を入れた箱を持って邪魔にならないように広い部屋の中を移動し続けていた。


 もちろん、ケネス様からの贈り物であるドーム型の置物も持っている。

 彼女たちだって勝手に人の物を捨てるようなことはしないでしょうけど、万が一、落として壊れてしまうことがあるかもしれないわ。

 用心することに超したことはないと思うの。


 あのマジックアイテムはナイトテーブルの上に置いたままだけど、どこに移動しても常に視界の中には留めている。

 宝物にはならないけど、わたしの大切なものに変わりはないから片時も目は離さないでおいた。


 ふと、腕の中にある宝物コレクションを眺めて思う。


 ……わたしの大切なもの少ないわね。


 それは公爵家にお邪魔する前から分かりきっていたことだ。

 こうしてまじまじ見つめていると、わたしがこの身一つで公爵家にやってきた頃を思い出す。


 なぜ、物が少ないかって?

 酷なことを聞くのね。


 答えは一つ。

 わたしが一度、婚約破棄されているからよ。


 一式揃えた嫁入り道具も洋服もドレスも全て捨てたわ。

 別の家に嫁ぐために購入したものを持参して、新しい婚約者のご実家である公爵家に上がり込めるほど、わたしの神経は図太くないし、わたしの両親は非常識ではない。

 だから、成婚に至ったその日に全ての家具を買い直すと決めているの。


 これは我が家が決めたことではなく、あろうことかユミゴール公爵様からのご提案だった。

 お話を聞いた時は驚いたわ。こんなにも寛大な御心を持っておられる方が存在しているなんて思いもよらなかったもの。


「ウィリアンヌ様、ウィリアンヌ様。この箱ですが、裏側に文字が書かれていますよ」

「そうなの? どこ?」


 セラがナイトテーブルの拭き掃除をしている際に気づいたらしい。

 一緒に見てみると確かに魔法具の裏には『RADIO』と表記されていた。


「らでぃお? でしょうか」

「ラジオじゃないかしら」

「これの名称ですか? あの老婆からは何か聞いておられますか?」

「さぁ。これに関しては何も教えられていないわ」


 不思議アイテム改め、魔法具マジックアイテム改め、ラジオは日中はただの置物と化している。

 これの真価を発揮するのは夜だからセラにも使用方法や活用方法は明かしていなかった。


「ウィリアンヌ様はこちらを使っておられるのですか? もしも不要でしたら返品あるいは破棄しておきますが」

「とんでもない! あ、失礼……これは手放さないわ。くれぐれも丁重に扱ってちょうだい」

「かしこまりました」


 ふぅ。危ないところだったわ。

 今ここでコレを手放すわけにはいかないのよ。



 その日の夜も深夜になって話し始めた魔法具ラジオの声に耳を傾ける。

 こんな姿はセラに見せられないわね。


『今日は部屋の掃除をしたらしい。ウィリアンヌは鞄一つで公爵家にやって来たから必要な物があれば何でも買い足してくれて構わないのだが』


「お気遣いありがとうございます、ケネス様。ですが、わたしは満足しているのです。ベッドもテーブルもクローゼットも全てご用意していただき、何不自由なく生活させていただいていることに感謝しています」


『そうだ。買い物に行こう。俺一人ではウィリアンヌの好みが分からないから誰かについてきてもらうか……いや。いっそのこと、ウィリアンヌを誘ってみるのも手か』


 ふぁ!?!?

 わたしを、か、かかか、買い物に誘ってみる!?


 とんでもない発言に思わず、掛け布団を蹴り飛ばしてしまった。


「正気ですか、ケネス様!?」


『でもなぁ。一緒に王都の町を歩いてくれるだろうか。それよりも多忙な身だからレッスンを理由に断られたり。断られるか……誘うのは止めた方がいいか』


「嫌ではありませんわ! ただ、男の人と二人きりでお出かけというのは……今のわたしにはハードルが高いのです」


『やっぱりやめるか、迷惑だよな。うん、迷惑だ。迷惑に違いない。それなら何か贈り物を。いや、待て待て。あの土産物だって受け取りを渋られたのだぞ。何を贈っても同じか』


 あぁ……ケネス様のネガティブスイッチがオンになってしまいましたわ。


 こうなると長いの。

 きっとケネス様から買い物に誘っていただけることはないでしょう。


 では、あなたはどうしたいの、ウィリアンヌ?

 あなたが決めなさい。


 今宵も一人反省会を開催するケネス様の声を聞き流しながら、自問自答を繰り返したわたしは意を決して答えを出した。



「……ケネス様ともっとお話ししたい」



 ノイズ混じりのケネス様の心の声は十分すぎるほどに聞いているけれど、肉声で聞いたことはない。

 場所はどこだって良いけれど、お屋敷ではない方が開放的な気持ちになってお話ししやすいかも。


 それに――


 一度でいいから誘われてみたいな。


 これが嘘偽りのない素直な気持ちだ。

 では、どうすれば誘っていただけるのか。



 翌日、わたしは早速行動に移すことにした。


「ケネス様、今日は良いお天気ですね」

「あぁ」


 恒例となった庭園での読書会。

 わたしは過去の失敗を生かして、二人分の紅茶を淹れながら何気ない会話を振ってみた。


 紅茶を淹れると行ってもセラが用意してくれたティーポットの中身をティーカップに注ぐだけ。これで満足されるのが不思議でたまらないわ。


「この空なら明日も良い天気でしょうね」

「あぁ」

「お出かけ日和というのでしょうか。気分転換にはもってこいですね」

「あぁ」


 もう! じれったいですわ!

 わたしからのパスを華麗にスルーされるのはわざとなのかしら。


 さっきから本のページをめくる手が止まっているから読書に集中しているというわけではないと思う。

 今、ものすごい勢いで思考されているのかもしれないわ。


 紅茶を飲んだり、空を見上げたり、盗み見たりしているとケネス様が動かれた。

 大きく息を吸い込み、視線を逸らしたままで一言。


「出かけるか?」


 わたしが思っている以上にわたしの心は跳ねていたらしい。

 自分で制御できないほど口角が上がり、これまでに聞いたこともない高い声で二つ返事していた。


「はい! お願いします」



◇◆◇◆◇◆



 夜はワクワクして寝付けなかった。こういう日は魔法具ラジオを聞くと知らぬうちに眠りに落ちているが、それも期待できそうにない。

 今日は魔法具ラジオがお話ししてくれないから室内は静まり返っている。


「ケネス様はもう寝ちゃったのかしら」


 意外とあっさり眠れるタイプなのね。

 いつもは夜遅くまで起きておられるのに。


 わたしも早く寝ないと。


 明日の服はケネス様からいただいた洋服と決めている。

 髪留めはいつも身につけているお母様からの贈り物。他にも髪留めはあるけれど、やっぱりいつもの物が落ち着くと思うから。


 明日のことだけを考えながらまぶたを閉じたのだが、翌朝、わたしは絶叫したがる口を押えて右往左往していた。

 探し物は宝物の一つであリ、今日も身につけると決めていたバレッタ。


 就寝前にドレッサーの上に置いたはずなのに影も形もなかったのだ。

 一人では埒が明かないと諦め、すぐにセラを呼び出して部屋中を探し回った。



 ケネス様とのお出かけまであと3時間――

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