ダリア
お兄さまの浮気相手の名前です
お金が欲しかった。
お金と一緒に身分も手に入るのなら最高だと思った。
『ねえ、君。貴族のような贅沢をしてみないかい?』
だから仕事を引き受けた。
「ダリア!!」
嬉しそうに手を振ってくる貴族令息の姿を見付けてダリアは可愛く見えるように微笑む。
「遅いよ~! ロバ-トさまっ!!」
頬を膨らませて文句を言うが実際はそんなふりだけ、可愛い怒り方をしておけばそんな様も可愛いと勝手に思って、
「悪い悪い。お詫びにイヤリングでも買いに行こうか。この前ブローチと迷っていただろう」
「えっ⁉ 覚えていたの。嬉し~い♪」
感極まって抱き付くと鼻の下を伸ばしてでろでろになっているロバートさまの姿がある。
ロバートさまをあたしの魅力で惹き付けて、婚約を破棄させたいと頼まれたので引き受けた。でも、あたしの魅力が貴族に通じるならたかが伯爵で終わるなんて勿体ないことはしない。
(ロバートさまの妹は公爵家に嫁ぐ事が決まっているって資料にあったわね)
凡人の妹ならたかが知れている顔つきでしょうね。
なら、あたしの魅力でメロメロになってもおかしくないわよね。
ロバートさまもあたしの幸せのためなら受け入れてくれるでしょうし、話が違うと依頼主が言ってきてもその時には未来の公爵さまの奥さんだもの。手を出せないでしょう。
なんていい考えなのかしら。これもすべてあたしが可愛いから仕方ないわよね。
「楽しそうだね。ダリア」
つい笑みが零れてしまったらロバートさまに突っ込まれてしまった。
「えっ、ええ。ロバートさまと絵画展へ行けるのが楽しみで仕方なくて……」
慌てて誤魔化すと、
「そうか」
とても嬉しそうに顔を歪めてくるが、本当に利用しがいのある男ねと内心嘲笑う。
貴方はただのあたしのための踏み台よ。
あ~あ。あたしに早く公爵子息を会わせてくれないかな~。
気が付いたら手足を拘束されて石畳の冷たい床に転がされていた。
「――僕はね。アンジェラのため以外動きたくないんだ」
金属の柵の向こうが明るくて、そこに人が立っているのが見えるが影になっていて顔が見えない。
「アンジェラが調べてほしいと思ったから調べたけど、アンジェラが兄と義姉を好きだと思っていなかったらどちらも放置していたよ」
淡々と響く声。
「でもね。義姉になる人が悲しむからと言って助けたいと縋るアンジェラは貴重だからね。その原因が君が兄にくっついていたからという理由ならさっさと駆除しないとね」
静かな感情を籠っていない声なのにどうして恐怖を感じるのだろう。
「ああ。――そうそう。君、貴族なんて自分が甘えれば掌で器用に踊ってくれるって豪語していたんだって? 伯爵子息は踏み台であって、公爵子息。王族だって自分にひれ伏すって」
愚かだね。
「そんなハニトラに引っ掛かる方が愚かなんだよ。まあ、それを言うとアンジェラの兄を馬鹿にしているような気がするけどね。事実だし」
顔は見えないのに笑っているのが辛うじて理解できた。笑わない方がましだと思えるほど不気味な空気を残して。
「ああ。君に依頼をした輩はきちんと処分するって言われたから僕も処分しておこうと思ってね」
だから君はここで消えてねと告げられて、それが偽りでもなく事実なのだと感じられた。
「なっ……あたしは……貴族の……公爵の奥さんに……」
「なんで?」
なんで君みたいなものの相手をする必要があるの、意味が理解できないと告げてくる。
「だって、あたしは……ロバートさまから公爵子息を……」
「――アンジェラを手放すわけないだろう。おかしなことを」
殺意を向けられて、その声の恐ろしさで思わず距離を置こうとして後退る。
「こっちはもっと甘えてほしいのに、伯爵令嬢が公爵子息の婚約者なのはおかしいといちゃもん付けられたから僕に頼るのは最終手段になったんだよ。誰もかれも公爵子息を飾りとかトロフィー扱いしていたのに真逆の扱いをしようとするアンジェラを僕が手放すわけないじゃん」
少し体の向きを変えたことで声の主の顔が少しだけ見えた。
綺麗な顔立ちだが、先程の言動の数々から恐怖しか感じない。
「まあ、君がやらかしてくれたおかげでアンジェラが頼ってくれたんだから、少しは妥協してあげる。君のような女性が不足している地域に送り届けるのとさっさと殺すのとどちらか選ばせてあげるから。次くるまでに考えといてね」
それは救いではなく。恐怖の時間を長引かせるだけにしかならない。
「ああ。本当に感謝するよ。お義兄さま。貴方の愚かな行動でアンジェラは僕に甘えてくれるし、貴方との時間を減らして僕に構ってくれるからね」
最後にそんな一言だけ牢屋に響いたのだった。
一応感謝してます。今回の騒動でアーノルドはアンジェラとの時間が増えますので