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アンジェラ

読み切りで終わらなかった

 わたくしには自慢の姉がいる。もっとも実の姉ではなくわたくしのお兄さまの婚約者で、義姉になる人なのだが、大好きなお兄さまと大好きなお義姉さまと一緒に居られる時間が大好きで、お義姉さまが遊びに来たと聞いたら課題を早く終わらせて挨拶に行こうとするほどだ。


 そんなお義姉さまが早く我が家に嫁いできてほしいと指折り数えていた。


 婚約者はそんなわたくしを見て、家族の時間を増やしたいから結婚を遅くするとか言わないでよねと拗ねていたのがとても可愛らしいと思いつつ、必死に慰めるのもお約束だった。


「あら……あれは……」

 そんな矢先、友達に誘われて最近評判のお菓子のお店に馬車で向かう途中で、あるお店の窓際の席にお義姉さまとお兄さまが居るのが見えた。


 お二人はデートなのかしらとまだ時間が余裕があるので覗いてみましょうとはしたないと思ってしまったが馬車を停めてもらい、隠れて覗きに向かうと、お兄さまが遅れてきたのかお義姉さまがテーブルの席に腰を下ろして、飲み物を注文してあったのかカップが置かれていたが、お兄さまは立っていた。


 そこで腰を下ろしてお兄さまも注文するのかなと思っていたら席に着くこともなくお兄さまはすぐに一言二言告げて去って行く。


「んっ?」

 お義姉さまは席を立たない。ただ悲しそうに顔を歪めていたのが気になってしまう。だけど、店の外に出るお兄さまの顔は朗らかですごく嬉しそうな顔で溜息を吐く。

 何か見てはいけないものを見てしまったのではないかと思って、お兄さまに見つからないように隠れて、お兄さまの姿が完全に見えなくなったのを確認して、そっと店に入る。


「お義姉さま」

「アンジェラさま? ロバートさまならすでに帰られましたよ」

 店の中にいたお義姉さまに声を掛けるとお義姉さまが意味不明なことを告げてくる。


「帰られたって、お義姉さまとデートでは……」

「えっ? アンジェラさまが体調を崩して心細くなっているのでデートをキャンセルしたいと言われたばかりですが……」

 不思議そうに首を傾げていたお義姉さまの言葉に、

「わたくしこの通り元気ですけど……今から友達に誘われてお菓子屋に行くつもりなのですが……」

 意味が分からないと同じように首を傾げて、とりあえずここで話をするのもなんだからと一度お店を出て、友達と待ち合わせしている店に行くことにする。


「お義姉さまの馬車は……」

「デートの待ち合わせだったので先に帰しました。一時間前に」

「それって、一時間も前からいたと言うことですよね……」

「ええ。ロバートさまが約束の時間になっても見えないし、馬車も帰してしまったのでどうしようと途方に暮れていたのですよ」

 で、待っている間に飲み物を注文していた。


「侍女を連れてくるなり、護衛を連れておけばよかったのですが、お店に連れてくるのは他の客の迷惑になると以前言われたから表向きは連れて来ていないので……」

 陰に隠れている護衛はいるというのは分かったが、それでも急の時間変更を伝えることが出来なかったのか。

 

 馬車で拾って正解だった。


「アンジェラさまのお友達が驚かれないかしら」

「説明して許してもらいます」

 それに彼女ならきっと親身になってくれるし、わたくし達では分からないお兄様の行動を説明してくれると思うと告げた。



「……フローレンスさま。アンジェラ。今回だけですか?」

「セレッソさま? どういう意味でしょうか?」

 友達のセレッソはわたくし達の話を聞いてもともときつい眼差しだと勘違いされる目を鋭くさせている。


「フローレンスさま。アンジェラが我儘を言っているからと言われてデートのキャンセルは?」

「えっと……三回ほど、一番最近だと先月の……」

 日付を伝えられて、

「えっ? その日はわたくし図書館で本を借りて、その本の内容に感動して本の舞台になった公園を〈聖地巡礼〉していましたけど、護衛と侍女を連れて」

 図書館から近い場所だったのですぐに行けてよかったとその日に想いを馳せるが、

「確かお兄さまは劇を観に行くと……」

 お土産も買ってみえたのに、


「どちらにも【嘘】を言っていた。――確信はないのであくまで予想ですが」

 そんな前置きをして、

「秘密裏に会う人が居て、そのカモフラージュに使われたと……」

「「秘密裏?」」

 何でそんなことをして会う人がいるのか。


「今はまだ証拠不十分だけど、しばらく様子を窺ってみた方がいいわね。アンジェラだったら真っ先に突っ込みそうだし」

 意味不明なことを言われてどういうことかと尋ねる前にお兄さまを調べるようにと、調べてその報告は自分とお義姉さまがいる時に聞くようにと耳にタコが出来るほど言われた。


 どういうことなのかと理解できなかったが、セレッソの告げることだ。守らないといけないことだと気を付けていたのだけど。



「と言うことなんだけど……」

「なんでそこでセレッソ嬢に相談するのかな。寂しいけど……」

「だって、セレッソと会う約束があった矢先だったし……」

「アンジェラはセレッソ嬢ばかり頼ってるし、僕よりもフローレンス嬢と家族になるのを楽しみにしている気がする……」

 そんなことはないのだけど……。


「ねえ、アーノルド」

 本当はアーノルドに頼むのは間違っているような気がする。いや、伯爵家の娘が公爵家の子息(アーノルド)に婚約者だからと言ってその力を利用するのはいけないと思うのだ。


 婚約者に決まった時に伯爵家でも利益も何もない娘がなんで公爵子息の婚約者になれるのかと散々言われた。アーノルドに甘えて甘い汁でも啜るんだろうと。


 だから、甘えないように自制した。


「わたくしは貴方の妻になるにはあなたの力を借りないで何でも乗り越えないといけないと思っていたの。だけど、この件は貴方の力を借りたくて……」

 虫のいい話だけどと申し訳なく思いつつ告げると、

「何言っているのっ!! 僕にいくらでも甘えてよっ!!」

 嬉しいな甘えてくれたと喜んでアーノルドはわたくしをさりげなく自分の膝に乗せようとするので、

「はしたないわっ」

 慌てて注意するが、

「嫌がってるのなら降ろすよ」

 どこか見透かすような笑みを浮かべて、実は嫌ではないので降参するしかなかった。




「ああ、やはりね」

 セレッソの苦笑い。それがわたくしをずっと抱っこしてご満悦のアーノルドに向けている物だったのがかなり恥ずかしかった。


「いいだろう。調査したのは僕の部下だし、報告をするのなら僕もいないとね」

 セレッソの冷たい視線も気にせずにセレッソとお義姉さまに微笑みかける。その笑い掛ける様にお義姉さまは困ったように視線を泳がせて、

「人形子息の笑みを見るなんて……厄日かしら……」

「何を言うんですか。アンジェラの義姉なら僕にとっても義姉ですよ」

 もっとも予定通りならばと前置きして、アーノルドが報告書を差し出す。


 それはお兄さまの浮気報告。

 

 お兄さまはわたくしにはお義姉さまとデートと告げて、お義姉さまにはわたくしが体調を崩したからデートをキャンセルと伝えての浮気相手とのデートをしていた。


 劇を観に行ったのもそれ以外もお土産はすべてその浮気相手と購入したとか。


「お義姉さま……兄が申し訳ありません」

 お義姉さまとデートで買ったと思った品々が知らない女性と買ったものでわたくしとお義姉さまを騙していたと思った瞬間。見るのも嫌になった。


 お義姉さまと相談しながら購入したのかと思ったからこそ。


「アンジェラはフローレンス嬢に確認しなかったんだね」

 アーノルドの問い掛けに目を下に向けて、悔しく思いつつ、

「……ええ。お土産を一緒に選んだことでお礼を告げたらお義姉さまは恥ずかしがってしまうからやめてほしいとお兄さまに言われて」

 お礼を言うのを事前に止められた。恥ずかしがってしまうのなら仕方ないかと諦めてしまった。


「フローレンスさまは?」

 セレッソがお義姉さまに尋ねると、

「アンジェラさまが自分の都合でデートをキャンセルさせたことを反省して落ち込んでいるから触れないでほしいと頼まれて……。それでも体調を気遣うような声を掛けておけば良かった……」

 二人で猛省してしまう。


 そして、それをお父さまにすべて報告することになった。






「父上!! 何で、私の有責でフローレンスとの婚約を破棄なんてっ!!」

 お父さまを誘ってお茶会を楽しんでいたら……いや、お茶会をしつつ釣りをしていたのだが見事に引っかかった。


「――報告通りだ」

「何かの間違いですっ!! アンジェラもおかしいと思うよな。フローレンスと義姉妹になれるなんてと喜んでいたのにっ!!」

 お父さまはわたくしに甘い。だからわたくしを味方にすれば婚約破棄の話を無しに出来ると思っているのだろう。


 でも、報告を受けたという言葉に突っ込みを入れたい。なんで直接話に関わっていなかったのか。


「ねえ、お兄さま。一昨日はどこにいましたか?」

「どこって、フローレンスと図書館でデートを」

「その日に婚約破棄の話をしていましたよ」

 お兄さまの行いはまた繰り返すだろうとセレッソが予想を立てて、アーノルドがお父さまとお義姉さまのお父さまを権力を使ってこっそり呼び出して、待ち合わせの場所に隠れて待機させた。


 そこでお兄さまは気付かずにいつもの言い訳でわたくしの名前を使ってデートの断りを述べた時にお父様方が怒りで殴りに行こうとするのを抑えるのが大変でした。


 その後当然のように話し合われた婚約破棄。ちなみにその日はお父さまの信頼できる部下を使ってお兄さまの行き先をしっかり調べ上げていた。


 お兄さまの言葉を素直に信じたわたくしも愚かでしたが、それでも言わせてもらいたい。

「お兄さま軽蔑します」

 お義姉さまを傷付けたこと。そして、わたくしの名前を使ったこと。

 もう絶対お兄さまの味方にならないと宣言したのでした。







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