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草原を越えた先 

作者: 藤乃花

春がもうすぐ訪れるという二月の終わり頃、朝から細かい雪が降り注いでいる。

梅林の木陰に羽根を休める若い鶯は、鳴き声の稽古を中断し、雪がやむのを待っている。


(風が冷たい……暖かい場所へ移動しよう)

この梅林よりも心地がよい場所を知っている鶯は、そう思い立つとお気に入りの場所へと翔んでいく。


梅の仄かな匂いを羽根に滲ませ、鶯は近々訪れるであろう春を想像してみた。

思い描いた春は、鶯の気持ちを鮮やかに染めていく。

(楽しみだな……暖かくなったら、思う存分歌声を披露しよう)


どれくらい飛び続けただろうか。

鶯は羽根に疲れを感じ、今翔んでいる風景を見下ろして確かめた。

(こんな風景だったかな?

違うような気がするけど……もしかして、来ない間に変わってしまったのかな?)


正直云うと、風景の記憶に絶対的な自信はない。

引き返そうかどうか迷ったが、鶯は疲れていたので近くに羽根を休ませる場所があるか探し始めた。

「!」


少し先に草原が見えてきた。

近くには小川が流れ、休むのにはぴったりの場所。

(助かった!

暖かそうな場所だ。

雪がやんで、丁度良い天候となっている。

止まり木も幾つか生えている!)


並ぶ木に咲いている花は、鶯の見た事がないそればかりだ。

以前見付けた場所とは違うことが分かったが、ここも居心地が良さそうなので休む事にした。


(小川の向こうに茂っている木が良さそうだ)

鶯が小川の上を翔ぼうとしたその時、風が強く吹いた。

《戻りなさい……アナタはまだ、ここに来ては行けません!》


懐かしい声がした。

「……!」

川の向こうの木に、知っている鶯が留まっていた。

(父……上!)

心で叫んだ瞬間、鶯の意識が遠のいた。

風景が掠れ、辺りが白くなる。


気が付くと鶯は、雪が降る梅林にいた。

暫く夢を見ていたらしい。

(……なんだろう、何か、夢を見たような気がする)

分からないが、鶯の瞳から一筋の滴が流れた。


少しの間考えていたが、思い出せない。

そのうち雪はやんで、代わりに透き通る光が降りだした。

「~♪」

鶯は歌い出した。

暖かい梅林の心地がよい場所で。

弾みをきかせた春の歌を、いつまでも響かせていた。








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