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旅立ちの日

新幹線が発射するまでもう間が無い。

今日は俺を見送るために友達が集まってくれた。


「向こうの大学に行ってもがんばってね」

俺の彼女のチヒロが心配そうに言う。

チヒロは地元の短大に通う事になっている。

今日から始まる遠距離恋愛が不安なのだろう。


「そうだよ、都会に負けんなよ?」

大きな体躯を揺さぶってニヒヒと笑いながらケンジロウ。

小中高と同じサッカー部で汗を流してきた大親友。

照れくさいからどちらもそんな事は言わないが、向こうもそう思ってくれているはずだ。


「いや、むしろ負けて来な。爆笑してやるから」

高校のサッカー部のマネージャーだったサオリ。

やたらと、俺とケンジロウとは気があってよくつるんでいた。

チヒロの幼馴染で、噂ではケンジロウが好きなんだとか。

俺はチヒロと付き合う前にこいつに一回振られてる黒歴史があったりする。


「その流れだと、今度会う時は『だから田舎は嫌いなんだ』とか言いそうだな」

眠たそうに話すイチ。こいつはいつもこんな感じ。

クラスメイトで中高同じサッカー部。

そういえば出会った頃は仲悪かったんだよなー。


「そんときゃ俺が『バカ野郎が!都会に染まっちまいやがって!』とか言いながらぶん殴ってやるよ」

ひとりで爆笑しながらサノスケがシャドーボクシングを始める。

こいつとは小学校が同じで中高と違うんだが、いまだに仲がいい。

ちなみに町のボクシングクラブに通っていて、目下プロライセンス取得を目指している。


一同声を上げて笑う。

なんだかんだ小競り合いはあったが、やっぱりいい友達だとおもう。

コイツらとは一生の付き合いをしたい。




「でも、こないだの卒業旅行は楽しかったよなー」

イチがポツリと呟いた。

え?卒業旅行?

「そうだなー。俺、ネズミ-ランド初めてだったから、前日とか寝つけなくってさ」

ケンジロウがもうすでに若干懐かしそうに語る。

「私もそうなの。友達との外泊初めてだったから。ほら、うち親が厳しいでしょ?」

チヒロも行ったんだ。

「そういえば、あたしとチヒロがヘンなヤツに絡まれた時、サノスケが暴れて大変だったよなー」

「バカ、威しだよ。威嚇だよ。ボクサーはやたらとこぶし振り回したりしねーんだ」

「えー?振り回してたよなぁ?チヒロ?」

「うん♪」

一同声を上げて笑う。この場合の一同は俺以外。


キョトンとしている俺をサオリが発見する。

しまった!と言う顔をして、

「そういや、タカは受験で来れなかったんだっけ」

一同顔を見合わせ、

「え?そうだっけ?」

「あ、そういえば居なかったような……」

計画自体を知らなかったんだが。

そのうち、チヒロがおずおずと手を上げた。

「私が、タカちゃんに言わないでって皆にお願いしてたの。その日二次試験あるって知ってたから、余計な事考えずに集中して欲しかったから」

気を使ってくれたんだな。

若干引っかかるが、そういうことにしとこう。


プルルルルルと電子的なサウンドと、抑揚の無いアナウンスが聞こえる。

もうすぐ出発する新幹線に乗り込んで最後の別れを俺が言おうとした時、チヒロが俺の発言をさえぎった。


「タカちゃん、実は私ケンジロウ君と付き合うことになりました」


「俺たちあんまり仲良くなかったけど、チヒロとめぐり合わせてくれた事だけは感謝してるよ」


「あの時はビックリして断っちゃったけど、私実はずっとあんたのことが好きだったの」


「最初サノスケからすげー嫌なやつだって聞いてて印象悪かったけど、そんなでも無かったよ。普通だった」


「今度会ったら、都会に染まって無くてもぶん殴るから。もう顔見せんなよ」


えーーーーーーーーーーーーーーー!

全体的に今言うな!


俺が発言する間もなく、ドアが閉まる。


ケンジロウが取り出したダンボールに

『向こうに行ってもがんばれ!タカフミ!』

と書かれてあった。


こうして新幹線は銀河系脱出を目指して発射したのだった。





「タカアキだよ、バカヤロウ。」


俺の発言は虚空に消えた。



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