真夜中のいたずら
郊外にある自然に囲まれた病院。
数日前から入院している少年は、入院してから仲良くなった友達と毎日秘密の冒険をしていた。
少年は、部屋の照明が消された後にベッドから抜け出すと、いつものように看護師に見つからないようにしながら友達が待つ部屋の前まで来た。
静かに扉をたたくとすぐに友達は部屋から出てきて、見つからないように階段まで行くと、今日は何をするかを話し合った。
少年は今までしてきたことを話しながら指を折るように数えた。
一号棟の屋上にある花壇で泥団子を作った。
夜間に巡回している看護師の人の後を見つからないように後を付けた。
売店にあるお菓子の入れ物を別の入れ物に移し変えた。
食堂にある椅子を積み木のようにして遊んだ。
他の病室にいるおじいさんに昔の話を聞いた。
病室のベッドでアスレチックのように飛び回った。
バケツや箒で知っている歌をリズムに乗せて叩いた。
一番長い廊下で走ったタイムを競った。
窓に息を吹きかけて絵を描いた。
わざと扉の音を出して看護師の人が来るのを隠れて見ていたり、
色々やってきたけど病院内でやりたいことはもうないほど遊んできた。
もう外に出てみるぐらいしかやってみたいことがないと話すと、やっぱり友達がだめだよと止めてくる。前に一度話した時も止められたことがあって、その時は普段見れない病院の中が珍しかったからまあいっかと思ったけど、今度は何でダメなのか聞いてみるか。
「どうして、外に出たらだめなの?」
友達が言うには、前にも外に出た子がいたけど、その子は戻ってこなかったからだという。確かこの病院は山の中腹にあるけど道路はあるし迷ったりはしないと思うけど・・・もしかして、熊にでも襲われたのか、そういえば入院する前に学校で熊の目撃情報があるから気を付けるように言っていたような。
「そ、そうだな。病院の中で遊ぶとするか」
その日以降も2人で遊ぶ日々が続いたが、友達は退院する日が来たらしい。いつものように夜に抜け出して友達の所に行くと、友達の両親が荷造りをしていた。友達が僕に気付いて会いに来た。
友達は、僕と遊べた事が人生で一番楽しくて嬉しい日々だったと言って、最後に後で〇〇〇号室にいる人のもとに会いに行ってほしいと約束して、病院の出入り口で去り際に一言いってから病院の外へ両親と一緒に出ていった。
突然すぎてまた会う約束が出来なかったと落ち込んでいたが、さっき言われた約束を守ろうと思って友達が言っていた病室を探した。
部屋に入ると、一つのベッドを囲うように両親と妹が立っていた。何しているんだろうとベッドを見ると、僕がベッドで眠るように横になっていて、いろんな管のついた紐が僕の体についていた。
「な・・・に、・・これ?」
見た光景の意味が分からず部屋の外へと飛び出ようとしたが、別れ際の友達の言葉が頭によぎった。
「思い出して」
扉の前で立ちすくんでいたが、勇気を振り絞ってベットに寝ている僕と周りで泣いている家族をみた。
両親は早く目を覚ましてほしいと願うように声をかけていて、妹は泣きながら僕に謝っているのが聞こえてきた。家族の話を聞いているうちに、僕に何があったのかを思い出してきた。
学校からの帰り道。妹と2人で帰宅中に信号を渡っていた時、歩行者用の信号が点滅しているのを見て走り出した妹を追いかけた。その時、妹と曲がってきた車が衝突しようとしているのを見てとっさにかばった事。
「そうか、あれから僕は・・・戻らないと・・・・・」
翌日、もしかしたら目を覚まさないかもしれないと言われていた少年の意識が戻った。家族は喜び、医者は奇跡だと言った。
少年は順調に回復していくと、ずっと聞きたかった事を看護師の人に聞いた。ある病室にいた入院患者の事を、看護師の人は少年が入院する前からずっと病院に入院していた子供のことをなぜ知っているのか不思議に思ったが、少年があまりにも真剣に聞いてくるので話せる最低限の事だけ話した。
体調の確認も終わって一人になると、先ほどの会話で聞いた話を考えていた。
僕が目を覚ます前の日に亡くなった子がいた。その子はもう何年も寝たきりだったが、まだ元気だった時には、一度も学校に言った事がないから友達と遊んでみたいと言っているのを聞いた事。
「そういえば、あんなに一緒に遊んだのに、一度も名前を呼んだ事がなかった、な」
僕がもどってこれたのは、君が止めてくれたからなんだよね。また一緒に遊ぶのはまだまだ先になるだろうけど、今度会った時は外でたくさん遊ぼう。
夜のいたずら友達より。
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少年が入院中の出来事。
看護師や医療従事者の間で心霊現象が起こったり、背後に誰かがいるような気配がすると言い出す人がいきなり沢山現れて、その事が噂になり一時期本当に幽霊が出る病院として有名になった。