やっとめとろん成人
「あー今日もなんにもなかったなぁ。ふぅ・・・明日っからまた仕事かぁ。やだなぁ。・・・夕ご飯でも食べよかぁ!」
重い腰を上げて近くの居酒屋に向かった。
「あんまり食べれんようになったからなぁ。生とつまみだけにしとこっか・・・」
一人ぶつぶつ言いながら、スマホを見ながら居酒屋についた。
「あれ人少ないなぁ」
外から居酒屋を覗き込んでみた。
「あっ。例のやつで酒飲めないんだ。しょうがない。コンビニで缶ビールと何か買って帰るか」
休日の唯一の運動を終えて部屋に帰って来た。
「そう言えば、近ごろ見なくなったなぁ・・・。あれ誰だったっけかな」
部屋の片隅には以前ホームセンターで買った組み立て式の本棚が箱に入ったまま組み立てられずにホコリをかぶっていた。その奥にはいつか役に立つと思ってためておいた書類や雑誌が山をついていた。
「確かこの辺りにあると思ったけどな」
山積みの書類を上から半分くらいを取り置き、残りの書類を上から何枚かをパラパラとめくり一枚の色付きの紙を手に取り、ソファーベットを背もたれにして、床に腰掛けた。一人用のテーブルの上に置いた缶ビールを開け喉を潤して書類に目を落とした。
「あぁマザー・アビゲールだった。そうだそうだ」
以前マスクを着けなくても街を歩けた時代に、街角で呼び止められ興味本位で占っていた時の詳細だった。
「えーっとあなたのラッキーカラーはオレンジ。なるほどそれで紙がオレンジ色なんだ。未来は・・と」
(外に出て、こころをオープンにして興味を持って行動すれば道はひらけます)
反対の行動をしている自分に呆れてしまっていた。
以前の道端
「お兄さん見てあげましょう!今なら安いですよ」
いつもは気にも止めずに通り過ぎてしまう声が、今日は何故か耳に引っ掛かっている。もやもやしてはいるもののその声の元に向かっていた。
「いらっしゃいませ。お兄さんは初めてですか」
「ああ初めてです」
『マザー・アビゲール 希望占い』と描かれた看板を掲げた屋台ラーメン屋を小さくしたような大きさに対面で占ってくれる。
「まず生年月日と名前を教えてください。」
「名前は、ヒムラ オサム。生年月日は2000年9月9日」
「じゃあヒムラさん何を見て欲しいの?」
別に占って欲しいことが特別あった訳ではないので、何を聞いてみようか考えているところへ、マザー・アビゲールが一人話し始めた。
「ヒムラさんのご両親はご健在ですか?」
「いえ数年前に他界しています」
「そうですか。ちょっとそのあたりから見てみましょう」
「ご両親のお墓って今こちらにはないようですね。えー西の方にありますよね」
「そうですね」
「ご両親って戒名をおつけではないようですが!」
「そうなんです。両親とも必要ないと生前言ってたものですから」
「なるほどですね」
マザー・アビゲールはなぜか両親のことを言い当てていた。
「じゃあこの先私は幸せになれるでしょうか」
「何をもって幸せと感じるのかですが、ヒムラさんの場合お金で幸せを感じる方ではないようです」
「もっと人と触れ合うことで幸せを感じるようですね」
「そうですか」
「この世は研修の場なのです。私たちはこの広い大宇宙のさまざまな星から地球に生まれ来て研修をしているのです。そして研修が終わる時つまり命が尽きる時にまた元の星に帰ってゆくのです。ヒムラさんもどこか遠い星から地球に生まれ来ているはずですよ。ただし・・・ヒムラさんは初めてのタイプですね。生まれ来た人は寝ている時は元の星に帰って心のバランスを整えているのですが、日村さんは星に帰っていらっしゃらないようですね」
「あのぉ、それって僕が人じゃないってことですか」
少し嘲笑気味に聞き返した。
「そうかもしれないですね」
「えっどういう事ですか」
「失礼なことを聞きますが、先程ご両親の事伺ったのですが、あなたのご両親って本当のご両親ですか」
「はい本当の両親ですけど」
「・・・あの今あなたをみているのですが、先程仰った生年月日なんですがそれって本当の生年月日ですか」
(そうだあのマザー・アビゲールの話を聞いて訳がわからなくなったんだ)
「あなたの一番古い記憶ってなんでしょうか」
「えー一番古い記憶ですねちゃぶ台でお客さんと難しい話をした事かな」
「それはいつの頃の記憶ですか」
「いつの頃・・・わからないです」
「そうですか。あなたを占うにはまずあなた自身が過去を辿ってみなければならないと思います。これを渡しておきます。何かの折に見てくださいね」
「そうだった思い出した。その後マザー・アビゲールのところを出て、えーっと公園で過去を遡って見たっけ!公園の後どうしたっけ・・・こんな事なんでほっといていたんだ」
マザー・アビゲールの占いの後結局なにもせず時間だけが経っていた。
ここまで大事な事をほって置くなんて異常な事だと思い自分の事を疑った。
「この連絡先ってまだ生きてるのかな」
必ず連絡くださいと書いて連絡先の電話番号が記されていた。
普段なら商売っ気が強い占い師だと思って放っておくのに、今はこの連絡先が生きていて欲しいと願っている自分がいる。
トゥルルル
「おっ!繋がった」
「はい。マザー・アビゲール希望占いです。」
「あのぉ前に占っていただいたものですが・・・」
「この番号はどうされたのですか」
「その時オレンジ色のかみをもらって、そこに占いの結果と一緒に連絡先が」
「・・・しばらくお待ち下さい」
電話を保留にされるとすぐに保留が解かれた。
「お電話代りました。マザー・アビゲールです」
「さっき言ったんですが」
「・・・ヒムラさんですね」
「えっどうして・・・」
「ヒムラさんからの連絡を待ち続けていたんです。その時お渡ししたオレンジ色の紙はヒムラさんだけにお渡ししてまして、他の人には一切お渡ししておりません」
「一切」
「そうです。言葉でのみお伝えしております」
「なぜですか」
「あの時の事覚えていらっしゃいますか」
「なんとなくですが・・・」
「電話ではなかなかわかりにくいと思いますので改めてヒムラさん、見てあげましょう」
「はあ」
「ヒムラさんパソコンかタブレットはありますか」
「パソコンがあります」
「インターネットは繋がってますか」
「はい・・・」
「ではこのままパソコンで今から言う事を入力下さい」
マザーア・アビゲールに言われるままに入力すると、そこにはマザー・アビゲールが受話器を持ってこちらを見ていた。
「ヒムラさん見えますか」
マザー・アビゲールはそのまま電話を切り、改めて生年月日を聞いた。
「1967年9月9日」
「・・・・」
次に左目をカメラに近づける様に言った。
カメラ越しに目の奥を覗きみてきた。
「ありがとうございますヒムラさん」
マザー・アビゲールは何やらノートに書き込んでいた。時折そのノートをこちらに見せるが、文字と言うよりは記号が羅列したどこか数式にも似たよく分からない事が書き込まれていた。
「マザー・アビゲール?何がわかるのですか?」
「はい!」
マザー・アビゲールは画面越しとはいえ、しっかりと見つめてきた。
「ヒムラさんまず最初にあなたの過去を見てみました。前にも言ったのですがこの星は大宇宙にあるさまざまな星の研修場だと」
「覚えています」
「なのでこの星に来るには生まれ来るしかないのです」
「はあ」
「ですがヒムラさん!あなたは、もともとあなた自身備わっている力でこの星に自力で来たのです」
「異質でしか無いあなたは・・・、ちょっと見えないのですが不慮の事故だと思うのですが、その時この星で一度お亡くなりになってます。・・ヒムラさんここからが大事です。大事なことですので、もう一度会ってお話ししなければなりません」
訳のわからに事を言い続けるマザー・アビゲールの話ではあったが、会うことにためらいはなかった。
「一体誰なんだ・・・異質でしか無いと言われる自分とは・・・」
ようやく過去を見つめ始めたヒムラだった。
翌日ヒムラは会社に出社していた。会社では建物管理課の課長をしていた。建物の修繕及び時代にあったシステムの導入検討など多義にわたる管理をしていた。
今日も新しいシステム導入の為に複数の会社との打ち合わせを朝からあわただしくこなしていた。
「ふぅ。もうこんな時間か」
すでに午後の2時を回っていた。
「課長お昼まだですよね」
「今から軽くお昼にしようと思って」
「あーそれなら会社の近くに新しくできたラーメン店美味しいて噂ですよ」
「じゃそこ行ってみるよ」
ヒムラはお昼を食べに席を立った。
「確かこのあたりだったよな」
スマホの地図を確認しながら周りをキョロキョロ見渡していた。
(マザー・アビゲール希望の占い)
突然目に飛び込んできた。
「え?こんな偶然ってあるのか。昨日の今日まさかこんなところで」
ヒムラは、昼食も取らずマザー・アビゲールの占い部屋に入って行った。
「こんにちは、ヒムラと申しますが」
「お待ちしておりました。ヒムラさん」
「えっどうしてここに」
「ヒムラさんあなたの今はここに無いのです。早く気付いてください」
ヒムラは逃げるように部屋を出て会社に帰って行った。
「あれ課長早かったですね」
「すまないが、今日はこれで帰るよ」
「今日の打ち合わせは全て午前中に終わっているから、明日まとめるよ」
そう言うとヒムラは会社を後にした。
「一体どう言う事なんだ。」
帰る途中公園のベンチに座り、昨日のことからマザー・アビゲールとの占いを思い返していた。
画面越しの面会から1週間後マザー・アビゲールの希望の占い事務所で話をしていた。
「ヒムラさんあなたの過去がいまのあなたを苦しめているのです」
「その過去ですが、マザー・アビゲールあなたにはどんな風に見えているのですか」
「以前お話したようにあなたはこの星に来てはいけないのを来てしまったのです。そこであなたにとっては不慮の事故。つまり・・・命を消された」
「わたしにとっては・・・?」
「以前のあなたは邪心の塊だった様です」
「・・・」
「命を消されたあなたは、元の星にも帰れず、この星でさまよっていたのですが、何かの力で肉体を手に入れて今の生活を過ごしていると思われます」
「なので過去の記憶がなく、そして明日を生きる気力もないのです」
「・・・」
「近頃はあなたの様な方は稀なのですが、以前は沢山いらっしゃいました」
「あのーそれって・・・」
過去を思い出せないため、マザー・アビゲールの言うことに反論できない。
「わたし今から記憶をなんとかたどってみます」
「無理です。あなたがたどる過去は全てあなたが作り上げる妄想です」
「そんな事はない。わたしにも過去があり、人生はある」
「わかりました。ではここにわたしが書いたあなたの過去があります。あなたの過去はいつも夕方食事の事と明日の仕事の憂鬱の事だけしかないと思います」
マザー・アビゲールが言った通り思い出すのはそのことばかりだった。
「どうすればよいのでしょうか」
「答えは一つです。あなたが現実を受け入れる事です」
「・・・」
マザー・アビゲールはヒムラに対し結論を言った。
「あなたは元の星から、この星に逃げてきたのです。そして異質なものとして殺され、この星を彷徨っている。どうやらこれがあなたの全てです」
「元の星でどんな悪い事をしたのかは分からないのですが、一度元の星に帰って罪を償っていらっしゃい。私は待っていますよ」
「どうやって帰ればよいのか分からないのですが・・」
「大丈夫今からあなたを元の星に送り届けます」
マザー・アビゲールはノートに記号の様なものを書き入れるとヒムラの目の奥を覗き込んだ。
「うわー、やめて下さい私は・・、助けてぇ・・ボクは。・・・やめろーキサマ・・、よくもオレの正体を見破ったな・・・ぐぉー・・・・・」
マザーアビゲールはヒムラの瞳孔に時空ゲートを開き、硝子体のゲル状の海に潜って行った。ヒムラの体もマザーアビゲールに引き込まれるように自らの目の中に崩れ入って行った。そこに二人の姿はなく、ノートだけが残されていた。
しばらくすると、ノートに書かれた文字がわさわさと陽炎のようにゆらめくとマザーアビゲールが少しずつ浮き出てきた。
「ハアハアハア」
「マザー・アビゲール大丈夫ですか」
周りのスタッフがマザー・アビゲールの背中を摩りながら心配そうに見守っていた。
「大丈夫。彼を元の星に送ってきました。これで彼も罪を償う事ができるでしょう」
ヒムラは自身の本性を隠し自らの記憶を消しこの世界に息を潜めていた。ただ自分の体を失ったためにどうすることもできなくなってしまい迷いの中マザー・アビゲールに導かれ、今自らの星に帰っていった。
3067年9月9日
「この子はオサムと名付けよう」
短編です。
やっとめとろん成人です。
仮タイトルアレが進まない中、こちらをお読みいただければ幸いです。




