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薬物犯罪が死刑になる国

作者: 浅賀ソルト

 行方不明のダメ息子というのは世の中いっぱいいて、捜索願が出されてもあまり真面目には探さない。

 俺に仕事が回ってきたときも適当に情報を検索して、あとは捜査中にするつもりだった。

 重要参考人として何度か取り調べを受けており、組織の仲間の経歴から判断するに覚醒剤メタンフェタミンの仕事をしている。

「完全に使い捨てのチンピラやんけ」俺は隣に聞こえるように言った。

「どうした?」同僚ヨンスが聞いてくる。

 俺は事情を話した。「行方不明っていうか、隠れてるな」

「事件性もあるんじゃないか?」

「そうだな」

 完全に身柄を拘束されて、運び屋としてやらされているというものである。その可能性はある。こういうのは何回か運んだあとはお役御免と釈放される。たまに間抜けが捕まり死刑になる。ノルマをこなすと友達を誘ってそいつが運び屋を引き継ぐ。

 写真があったので俺はモニターの顔を覚えた。

 どうしようもない奴だ。国内にいてもしょうがないし、だったら中国で覚醒剤を売り捌いて死刑になった方が色々と国益になる。

 捜索願か。親の心、子知らずとはよく言ったものだ。

 俺は麻薬捜査官のチフンを捕まえて事情を話した。

「どうしたいんですか?」

「一応、親が捜索願を出してるぞって話を伝えたくてな。伝える方法はあるか?」俺は言った。

「コンタクトは取れますが。あなたの言う通り使い捨てですからね、使い切るまでは伝言は伏せられるでしょう。そのあとなら逆に足を洗うために伝わるかもしれない」

「そんなことがあるのか?」

「稼ぎにはなりますからね。自信をつけて、俺はまだいけるって強気になる奴の方が多いです。里心がついたらもうけものです」

「どういうことだ? 使い捨てなんだろう?」

「逮捕まではされたくないんですよ。同じやりかたをしたらいずれ捕まるんで」

「ふーん」俺は言った。「親の心配を伝えたら、逆に反発したりしないか?」

「そういう可能性もありますね」

「成り行きに任せるしかないか」

「そういうことです。こっちとしては、捕まって死刑になってくれた方が組織が弱体化するのでいいですけどね。まあ、別の組織がそのうち取って代わるだけとはいえ」

「なるほど。分かった」

「どうします?」

「まあ、伝言は諦めるよ。何もせずに見つかりませんでしたってことにしておく」

「報告は必要ですよ」

「そこはうまく書いておく」

 俺は自分のデスクに戻ると、捜索願の電話をコールした。

「もしもし。警察です。行方不明の息子さんの件で」

「ありがとうございます。何か分かりましたか?」心配そうな母親の声だった。

「犯罪に巻き込まれている可能性はありますね。現在、捜索中です」

「え?」

「何か心当たりはありませんか?」

「……いえ、ありません」

 心当たりがあって、息子を売るわけにはいかないと思って口をつぐんだな。

「そうですか。分かりました。こちらとしても無事を祈っていますが、心当たりがあればいつでも連絡してください」

「はい。ありがとうございます」

 電話を切り、俺はまたモニターの写真を見た。

 無表情で何の目的もなさそうな冴えない顔がずっとこっちを見ていた。

 誰もお前を救わない。俺もお前は死ねばいいと思っている。

 クズはこんな風に見捨てられるんだ。

 やがてこいつは死刑になったが、中国との国交においても何の影響もなかった。


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