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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第4章 吹奏楽コンクールへ練習と準備の日々
96/132

96.練習と勉強に追われる

「今日の練習は終わる。じゃあ帰りのミーティングだ。」

内田先生がそう言った。


え? まだ午前中なんだけど……。


「急遽、警察から学校へ連絡が来た。 今日は花火大会があるだろう。

『混雑が予想されるため、学校の活動は控えてほしい。 下校時刻が混雑と重なると、交通整理の都合上、 帰宅のルートを遠回りせざるを得なくなるから』

ということだった。

明日はもともと休みだったので、これまでの疲れを取り、 今後の厳しい練習に備えて体力・気力をつけておくように。

また、夏休みの課題もあるはずだから、それも同時に進めること。

吹奏楽部に毎年、コンクールを言い訳にして、 課題提出を遅らせる者がいるようだが——

今年、それがあったら……。」


ふっと黙る。

内田先生が歯を食いしばっているように見えて、少し怖い。

「ただじゃ済まさない。

私が!職員室でどんなさらし者にされるか、考えてみろ。

また、一部の愚かな未熟者のせいで、 『吹奏楽部だけ優遇されているのではないか』 などと言われ、活動しにくくなるのだ。

わずかな者のせいで——。

一生懸命やっている生徒の足を引っ張ることのないように、 全員、部活も勉強も全力でやるんだ!」


部員全員が気合の入った「はい!」の返事をする。

途中から内田先生は、少しキレ気味だった。

去年、こういう問題があって、相当ストレスだったんだろうな……。


そういえば、課題……忘れてた!

全く手をつけていない!

部活やその他のことに追われて、完全に頭から抜けていた。

ちょっと確認しないと……。

分量がえらいことになっていることは分かっているけれど、 全体像が漠然としている。


部活どころか、帰りのミーティングが爆速で終わった。


楽器のつば抜き、オイル差し、磨き上げを丁寧にやると、 意外に時間がかかった。


帰り支度を終えた花火メンバーが待っていてくれた。

合流すると、家に呼んでくれた藤井が言った。

「朝、学校に来る途中で、もう場所取りとかしてるのを見たんだ。 多分、帰りはもっと人が集まってくると思うし——。

宿題とか、スコアとか、弁当をちょっと多めに持って、 昼も夜もうちで過ごそうよ。」


黒沢:「家は大丈夫か? いきなり中学生男子が4人も押しかけたら、親怒るんじゃね?」


藤井はあっさりと答えた。

「あ、多分気にしない。 むしろ喜ぶだろうし——酒でご機嫌だろうから。」


「それならいいけど……。」

黒沢はまだ心配そうだった。


小松:「クロ、課題どう? 一緒にやろうよ。」


黒沢:「自由研究レポート以外は終わった。 今、それに関する本を読んでいるところ。」


「え?」

俺、藤井、小松、斎藤——同じリアクションだった。


黒沢:「午前中、病院に行ってるって言ったじゃん? 待合室とかで進めてたのよ。

吹部の練習後に家帰ってから課題やるなんて、もう無理じゃん? 体力も気力も使いきってるし、時間的にも厳しい。」


みんなヘドバン状態で「うんうん」とうなずいた。


黒沢:「それに、授業中に先生たちが、 『夏休みの課題は』って言ってたのを聞いてたから、 先に進めてたのもある。

あとは……俺、絵が下手で時間かかるから、友達と交換条件出して、 ポスターの課題は、考えた標語とイメージだけ伝えて、 得意な奴に鉛筆で下書きしてもらった。

代わりに、感想文の課題をやって、スマホでそいつに送信して、 あとは、そいつがタブレットで入力して提出するだけにしたりとか。」


藤井:「誰だ、その相手は?」


黒沢:「言えねえ。てか、これがギリの情報。 手段を選んでる場合じゃないぐらい、課題があるぞ。」


斎藤:「俺、問題集……答え見ても分からないから、 ほぼ丸写し状態なんだけど……。」


小松:「げ、俺も多分そうなる。」


俺もだ……。課題にポスターとかあったのか……。


小松:「クロ、俺の感想文もやってくれよ……。 なんかするからさ……。」


黒沢:「なんかって何だ? 俺も得がなきゃやらないぞ。」


小松:「……思いつかない……。」


黒沢:「自分でやれ。」


小松:「ですよね……。」


黒沢:「それに、新学期早々、課題のテストあるって。 テスト勉強として、やっておいたほうが良さそうな気がする。 成績に反映するって書いてあっただろ?」


黒沢以外の4人が、ムンクの叫びの顔になった。


斎藤:「部活で死ぬほど忙しいのに、課題なんてやってられるかよー!」


と言うと、黒沢は冷静に答えた。


「あのさ、部活ってコンクール終わったら、それで終わりじゃないぞ。 全国大会は10月にあるから、多分夏休み、つぶれるよ。」


4人とも黙り込んだ。

知らなかったことが、次々と出てくる。

部活のスケジュールも課題のことも——

コンクールのプレッシャーもあって、 色んなゴタゴタに巻き込み、巻き込まれ、全く落ち着かない。


黒沢:「分かった。基本はおのれらでやることだけど、 なんか手伝うわ。

ポイント押さえて、あとは進めろよ。」


俺を含め、4人の顔がぱっと明るくなった。

おのれら——内田先生のものまねだ。


小松:「ありがてえ。あとでクロの分、チョコ持って行くわ。」

斎藤:「クロ、助かる、何か持って行くね。」


俺も、頼らせてもらおう……。

色々見通しが甘かった。


藤井:「まあ、今日はとりあえず、課題とスコアを見るのと、 うまいもん食って花火見ようぜ。

考えても、しゃーないことってあるじゃん。」


それもそうだ。


途中で「じゃあ、後でなー!」と言い、 一人で帰る道——。


学校も部活も、課題が多い。

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