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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
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83.痛みと気づきと背負うもの

音楽室へ入ると、すぐに声がかかった。


「おーい、鈴木ー!」


呼ぶ声の方を振り向く。

この前、花火の約束をした…けど、名前がわからない。

ちょいちょい、と手招きされ、空いている席へ座る。


??: 「金田と木崎に聞いたんだけどさ…。」


俺: 「?誰それ?」


??: 「マジか。鈴木と同じクラスの女子2人だよ。」


俺: 「あ、そうなんだ。で?」


??: 「何があったんだ?」


俺: 「ロッカールームで絡まれて、スコア破かれて、 黒沢が止めに入ったら、相手が黒沢を殴ろうとして、 それをよけようとしたら当たり所が悪くて…問題になった。」


ざっくり説明した。


??: 「で、黒沢は?」


俺: 「昨日の怪我の痛みが続いてるみたいで、早退して病院行った。 学校指定のところへ行けって。」


??: 「うわ…そんなことになってたのか。」


俺: 「うん、大丈夫だといいんだけど。」


??: 「ひどいのか?」


俺: 「バック背負っても痛いみたいだし、楽器を持つのも辛いっぽい。 ブレスも苦しそうだった。」


??: 「コンクール前なのに…。あいつら何してくれてんだよ…。 で、鈴木は大丈夫なのか?」


俺: 「まあ、俺はスコアは内田先生が新しいのをくれたし、大丈夫。」


??: 「怪我は?」


俺: 「してない。」


??: 「なら良かった。鈴木もあんまり気に病むなよ。」


俺: 「うん。」


??: 「……病んどるな?」


俺: 「大丈夫だよ。」


??: 「まあ、無理すんなよ。 てか、黒沢から俺んちの住所、連絡行った?」


俺: 「あ、確認してなかった。」


??: 「だよな、ちょっと待て、書いて渡すわ。」


そう言って、生徒手帳の空きスペースに書いて、びりっと破いて渡してきた。


俺: 「ありがとう。」


??: 「花火大会当日って、人がめちゃくちゃ多いんだよ。 警察も交通整理し始めるから、部活終わったら速攻でうちに来て。

時間を合わせて来ようとすると、間違いなく遅れるから。」


俺: 「わかった、てか…」


??: 「何?」


俺: 「名前…。」


そう言うと、彼は飲んでいた水をブッと吹いた。


??: 「何、今まで知らなかったの?」


俺: 「うん、もっと言うと、部活の人もほとんど知らないし、 パートもわからない。

かろうじて、自分のパートの先輩と、白川先輩、田中先輩、 部長とコンマスの先輩くらいはわかってきたけど。

合奏の時も先生は、名前じゃなくてパートとポジションで指示するし、 あんまりきょろきょろしてる余裕ないし。」


??: 「…マジか…。指揮練で名前とか見なかったんだ?」


俺: 「名前と顔も一致しないし、楽譜を目で追って音出すので精いっぱい。 パートとか学年まで入ると、もうわからない。しかも気持ち悪くて吐いてたし。OBの先輩の無茶振りで1stとか何回かやったりして。

それに俺、入ったの6月だから…。」


??: 「あ、そか。だよな。鈴木はまとめて覚えなきゃいけないもんな。 俺は藤井、パートはユーフォ。

あと、鈴木のクラスの女子は木崎と金田な。」


俺: 「どっちがどっちだ?」


藤井: 「一本結びが木崎でフルート、二本が金田でクラリネット。」


藤井にもらった住所のメモの裏に、名前とパートと髪型をメモする。


藤井: 「覚えたか?」


俺: 「忘れると思う…。顔と名前だけでも大変なのに、 さらにパートもくっついてくると、めちゃくちゃ大変だよ…。 大所帯だし。」


藤井: 「まあ、そうやってメモしていけば、そのうち覚える。 俺も覚えてない人多いし、大丈夫。

花火大会の日、うちに来るのはあと2人、今、前の方に座ってる。 右が小松でパーカス、左が齋藤でオーボエ。

2人ともいい奴だから安心しなよ。 当日は楽しく弁当食べながら花火見ようぜ。」


俺: 「うん。」


そんなことを話している間にミーティングが始まった。


今日はいきなり合奏になるらしい。

内田先生が話し始めた。


「課題はやってきたな? 今日から本格的にコンクールのための音楽づくりに入る。

各自、音出しの後、基礎合奏。 その後、自由曲と課題曲を1回ずつ通して、その後自由曲の合奏をする。 明日は課題曲をやる。

はい、準備。」


部員は返事をし、音楽室を合奏体形に組み替えた。


…課題、できてないんだよな…。 合奏、ついていけるんだろうか? 不安しかない。


そう思っていると、


「ちわーっす!」


黒沢だ。

すぐに内田先生に衿の後ろを掴まれ、音楽室を出て行った。

休みじゃなかったのか…。

気になって後を追った。

内田先生と黒沢の話に入っていくと、俺の顔を見た先生が言った。


「まあ、当事者だからな。」


そう言って、俺と黒沢を近くの空いている教室へ促した。


内田先生: 「どうだったんだ?」


黒沢: 「聞いてくださいよー、首の骨が1個ずれてたんです。」


そう言うと、黒沢は続けた。

「先生が紹介してくれた病院に行って、昨日起こったことを説明しました。

背中を殴られて、髪の毛を引っ張られたって。

昨日は別の病院で診てもらって、湿布と痛み止めをもらったけど、 首まで痛みが出てきたので、それも伝えました。

それで、肩をもう一回レントゲン撮って、首も撮ったんです。

肩は骨に異常はなかったけど、首の骨が一個、少しずれていたそうです。」


内田先生は驚いた表情を見せた。

内田先生: 「首の骨がずれてた?」


黒沢: 「そうなんですよ。

『急に眠気が来たりしなかったか?』って聞かれて、 昨日も今日もそんな感じだったって答えたら、 この首の骨のずれが原因だったって言われました。

医師曰く、よくあることらしいです。

それで30分リハビリして、もう一回レントゲンを撮ったら、正常に戻ってました。

先生の紹介してくれた病院、すごいところでした。

肩についても、ひどい打撲だけど筋までは傷めていないから安心してって。

重いものを持つとちょっと痛いですが、 超音波治療をすれば早くて5日、まあ10日もかからず治るみたいです。」


黒沢は診断書と領収書を差し出した。

「これが診断書と領収書です。 あと、学校から必要な書類を持ってくるように言われました。」


黒沢の話を聞いて、内田先生は少し眉をひそめた。

「ちょっと危なかったな…。

ということは、髪を引っ張られた時に、相当の力がかかってたってことだな?」


黒沢はうなずく。

「そうみたいです。

衝撃があると、わりと簡単にズレるらしいです。

例えば、人と激しくぶつかったり、急に振り向いたりするだけでも、なることがあるらしくて。

若いうちは簡単なリハビリで治るそうですよ。

自分は運が良かったのかもしれません。」


内田先生: 「肩とか肩甲骨の方は?」


黒沢: 「あ、それなんですが、早く回復させるために 毎朝30分程度、病院で超音波治療を受けてから部活に参加します。

なので、少し遅れます。 後で吹部roomにも投稿しておきます。

演奏は普段通りでOKとのことでした。 今、痛み止めの注射をしてもらってきました。

だから今は痛みはないですが、痛い時は痛み止めと湿布で乗り切るしかないです。」


内田先生: 「わかった。書類は預かる。必要な書類は後で渡す。」


そう言って、職員室へ向かった。

俺は複雑な気持ちになった。

まさか首なんて…。

一歩間違えてたら…俺は…。

すると、黒沢が俺の方を見て言った。


「たくみん、大丈夫だから。」


俺は顔を上げた。


「たくみんは悪くない。俺も大丈夫。

さて、合奏行こうぜ。」


音楽室へ戻り、俺はホルンの準備をしながら黒沢をちらりと見た。

彼は山田先輩と船田先輩に怪我のことを説明しているようだった。


俺は音出しのため、いつもの席に座る。

1stには絵馬先輩が座っていた。


そうだ…こっちも問題が起こっていたんだった。


絵馬先輩: 「のぞみ先輩…連絡が取れないんだ。

LINEも既読にならないし、学校にも来てないみたいで…。 すごく心配で…。」


元気のない声だった。

俺は驚いて言った。

「え、学校も休んでるんですか!?」


その声に反応するように、白川先輩が横から話に入ってきた。

「俺、言い方きつすぎたよな…俺のせいか…?」


いや、そうじゃない。

でも、理由が分からないから何も言えない。

家庭の事情だとは思うけど…。


白川先輩が

「言い方とか、伝え方、難しいな…。」

ぼやくように言うと、絵馬先輩が静かに答えた。

「白川先輩に悪いところはありません。 おそらく、のぞみ先輩の問題なので…。」


「藤村、何か知ってるのか?」


絵馬先輩は黙り込む。

やがて、ゆっくりと言った。


「白川先輩のことは関係ありません。 だから安心してください。

今、私から言えるのはここまでです。 それ以上は…きっとのぞみ先輩が直接話したいはずです。」


白川先輩は少し驚いたような顔をしたが、

「そこまで言うなら、わかった。フォロー、サンキュー。」

と言って、隣に座った。


絵馬先輩も戸惑っている。

それでも、やらなきゃならないことはある。


俺は軽く音出しをしてチューニングを始めた。

船田先輩の指導で、音階練習が始まったところへ、内田先生が入ってきた。


終わったところで、先生が指揮台に立ち、一言。

「アルヴァマー序曲。」

部員たちはどよめき、慌ててファイルをめくった。

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