08.朝から全力、吹部女子と黒沢の救い
席に着くや否や——
「ねぇ!吹部来なよ!」
突然、テンション高めの女子2人が目の前に現れた。
昨日の音楽室にいた女子だ。名前はわからない。
朝から元気。朝から全力。
きゃぴっという音が聞こえてきそうな雰囲気だ。
ツインテールとポニーテールの2人。
サッカーをやっていた頃なら、こんな声は応援に聞こえて嬉しかったかもしれない。
でも、不登校明けの今は——追い詰められている気がする。
「男子、黒沢ともう1人ぐらいで、女子が多いけど、大丈夫だよ!」
ツインテールが満面の笑顔で言う。
心の中で「何が?」と聞きたかったけれど——
「楽しいよ!」
「先輩優しいよ!」
「初心者の黒沢もメンバーになってる程度だし!」
「とにかく来てよ!」
「楽器は音楽室にあるんだ!」
怒涛の勧誘マシンガントーク。
口をはさむ隙なんてない。
女子の勢い、つば飛ばしながらの迫力——すげーな…。
顔に飛んできたけど、怖くて言えない。
もう、後半の話はほとんど覚えていない。
そこへ——
「鈴木が困ってるぞ~、話を聞こうという姿勢が足りんのだよ。」
黒沢登場。
女子2人は、はっと気づいて「ごめんごめん。」と謝った。
黒沢が無言で紙の束を机の上に置く。
「ノートのコピー、そして、色ついてるところがテスト出るとこ。」
その言葉に女子2人が興味津々で紙を覗き込んだ。
「黒沢!私もこれほしい!」
ポニーテールが叫ぶ。
「吹部で俺を散々こき使っておいて、いきなりそんなこと言われてもねー。」
黒沢は冷たく突き放し、席に戻ろうとする。
すると——女子2人がノートを持ってきて、素早くメモを取り始めた。
見かねて、俺が言う。
「持って行ってもいいよ。」
女子2人は
「いいの?ありがとう!」
と嬉しそうに言った。
その瞬間——
「これは鈴木へ渡したものだ。
自分らは授業出てるからわかることだろうが。」
黒沢がUターンして戻ってきた。
「見たら、なんか知らないこと書いてある!」
ポニーテールが驚きの声をあげる。
黒沢は冷静に返す。
「全部教科書にあること、先生が言ってたことしか書いてない。」
女子2人は「えー…うそー?」とぼやきながら席に戻った。
黒沢がこそっと近づいてくる。
「テストに出そうなところにマークしてある。
色でコメントしてある。
最悪、ここだけ覚えとけばOK。」
ありがとう。
そう言って、その紙の束をざっくり折り、バッグに押し込んだ。