表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
78/132

78.男二人、涙の後のお茶タイム

※今度は拓海視点


ペーパータオルを持って、黒沢とトイレで顔を洗い、カウンセリングルームに戻った。


男二人で泣くなんて……。


かっこ悪い。


俺が


「黒沢、ごめんな……」


と謝ると、黒沢は


「たくみんが謝ることじゃないよ。悪いのはあいつらだし、それに開き直って警察とか言って大事にしたから、これからは逆に問い詰められる番だ。大丈夫だよ」


と笑った。


良かった、いつもの黒沢だ。


「てか、たくみん、せっかくだからお茶しようよ。ペットボトルのお茶と、多分そこの工場でのセールのクッキーだけど、美味しいよ」


「マジか!」


食べてみると、バニラとチョコのクッキーはサクッとしていて、口の中でふわっと溶けるから、いくらでも食べられそうだった。


「初めて食ったけど、超うまいじゃん」


「でしょ?あそこ、障害者採用してるんだ。その人たちが作ってる。味の評判も良くて、ネット通販もしてるから、これからもっと事業展開するらしい」


「そうなん?この地域でそんなのあるなんて知らなかった……」


「最近、外資系企業が協賛してるプロの演奏会に行ってきたんだ。その時、軽く『障害者雇用とその現実』っていう講演もあってさ。全く興味なかったんだけど、演奏を聞くには……って思って座ってたら、給料めっちゃ低くて生活できないって話でさ。そこでその企業は、障害者の自立支援プログラムや就労支援をしてるんだって。寮を用意したり、スキルアップセミナーをしたり、雇用先を探したりしてて。演奏はその広報活動とか運営資金に充てるためだったらしい。その時に近くにこの施設があるって知ったんだよ。障害者とか関係なく、うまいもんはうまいんだよな」


「うん」


お茶を飲み、クッキーを頬張り、本当にそう思った。


まったりした空気の中、ノックの音が聞こえた。


内田先生が入ってきた。


俺も黒沢も、顔がムンクの叫びになった。


「いや、そのまま休んでていい」


と言われて、少し力が抜けた。


内田先生は


「黒沢、肩は大丈夫なのか?」


と聞いた。


肩?何?


「うーん、楽器を持ってみないとなんともだけど、リュックを背負った時に少しズキズキしたんです。ブレスも素早くするにはちょっと痛むので、痛み止め飲んでます」


と答えた。


「黒沢……肩、あいつらにやられてたのか?」


と聞くと、


「うーん、多分ね。髪の毛引っ張られた時に、肩甲骨のあたりをゴン!ってやられたのよ。手か足かわかんないけど。だから思わず、かかとで後ろ蹴りしたんだ」


「え……全然見えてなかった……」


「あいつら、そういう奴らじゃん。背後を油断したわー」


軽く言ってるけど、コンクール前に練習しにくくなってるのって……。


内田先生は


「コンクール前に怪我をするとは……まさか黒沢が事件を起こすとは……」


とため息をつき、


「いやー。手を怪我したら先生ブチ切れるじゃん?パンチとかして指怪我したら演奏に支障きたすって。だから足を使ったんだよ。まあ、正面の腹は狙ったけど、後ろのかかとでのキックが股間に当たったのは、たまたまなんですよ、たまだけに?」


と言うと、内田先生の目が吊り上がった。


「つまんないこと言ってんじゃない!」


「はい!すみません!」


俺は、思わず笑いそうになるのをこらえた。


重大事態ってこともわかってる。


内田先生は紙を机にバン!と置いた。


「今日は部活休んでここに行け。必要に応じて通え。費用は請求書を学校宛てにもらってこい。電話はしてある。保険証を持って行くように」


と言い、カウンセリングルームから出て行った。


『鶴整形外科クリニック』

チラシには超音波治療の案内が書いてあった。詳しくはクリニックまで、と……。


「まあ、内田先生が言うなら行ってくるよ。なんか考えがあるんだろうし」


そう言って、黒沢はチラシを折りたたみ、ズボンのポケットに入れた。


「朝練でもないのに、7時半から警察と話すとかって……もう、別の意味で地獄。眠い……ちょっと寝る」


そう言って、黒沢はカウンセリングルームのマットに寝転んだ。


「黒沢」


「なんだ?」


「ありがとう」


「おう……」


1分もたたないうちに、黒沢のグォーッといういびきが聞こえてきた。


俺も食べて眠くなって、テーブルの上に伏せて少し眠ることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ