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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
65/132

65.その音は、まだ届く?

以下に、あなたの文章を丁寧に校正・推敲したものをお届けします。元の雰囲気や語り口を大切にしつつ、読みやすさや表現の自然さを向上させました。ご確認ください。


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### 校正後の文章


---


三連休の最終日は、三年生の指揮練となった。


朝9時からミーティングが始まった。


山田先輩が今日のスケジュールを説明し始める。


「10時までは各自パート練の部屋で音出しや音階練習。必要に応じてパート練習もOK。10時には音楽室に集合して、全体でいろんなパターンのスケール練習をする。」


スケール練習では、みんなに配られている教則本の内容をすべてこなせることが基本とされているが、正直、自分はまだそこまで到達していない。


そこで内田先生に相談してみたところ、「まずはコンクールで使う調だけでいい。短い転調を含めて、4つくらいをきちんとできるようにしておくこと」と言われた。


相変わらず、音名のカタカナと指番号は楽譜に書き込んだままだ。


宮田先輩に「それはやめた方がいい」と注意されたときの顔が浮かぶ。でも、自分にはまだそのくらいの準備が必要だった。不安なまま臨むより、少しでも備えておこうと思ったのだ。いきなり読めるわけじゃないし、理解できるわけでもない。


全体でのスケール練習の後は、三年の先輩による指揮練合奏になる。


ミーティングが終わり、俺は楽器と楽譜、チューナーを持ってパート練の教室へ向かった。少し遅れて絵馬先輩が入ってきた。


「おはよう、たくみん。」


「おはようございます。」


「今日ね、のぞみ先輩、お休みだって。」


「え!」


「体調不良って連絡あったよ。さっきタブレットで確認したら、連絡が入ってた。」


「あー、そうなんですね…。もしかして…メンタルの方じゃないでしょうか?」


「…うん、そんな気がする。」


「俺、どうしたらいいんだろう…。」


「たくみんは、まず自分の2ndパートをしっかり吹けるようになろう。私は3rdだけど、いざというときのために1stもできるようにしておく。たくみんは、3人のうち2人になっても2ndを合わせられるように、暗譜、音を聴くこと、そして指揮を見ること。できることからやっていこう。コンクール本番まで、いろんなことが起こる。音楽に関係ないことでも、それを乗り越えると音が良くなったり、合奏の響きが変わったりする。不思議だけど、そういうものなんだ。いろんな出来事をゲームをクリアしていく感覚で乗り越えていくといいよ。」


「はあ…。」


俺は少し落ち込んだ。もし俺にもっと力があれば、先輩たちがあんなに揉めたり、演奏がカットになったり、のぞみ先輩が落ち込んだりすることもなかったかもしれない。昨日は疲れて眠ってしまったけど、その気持ちはずっと残っていた。


「たくみん、今『自分のせいだ』って思ってるでしょ?」


絵馬先輩に見抜かれた。でも俺は、とっさに


「いや、思ってないです!」


と強く否定した。


本当は思っていた。でも、どうすればいいかも分かっていた。上手くなるしかない。それだけだ。


「のぞみ先輩、ちょっと大変な状況でね…。みんなにはいずれ話すつもりだったみたい。でも、部活中に話すのも違うし、帰り道に引き止めてまで話すのも…って悩んでた。たくみんが不登校から復帰したこともあって、あまり心理的負担をかけたくないって言ってたよ。」


「え?何があったんですか?」


「のぞみ先輩のご両親、離婚するんだって。」


「え…。」


「それで、のぞみ先輩、いろいろ悩んでる。高校進学のタイミングで引っ越しや苗字の変更とか、生活が一気に変わるみたい。本人は卒業まで黙ってるつもりだったんだけど…。一昨日、『どっちの親と暮らす?』って突然聞かれて、『どっちも嫌だ、一人暮らししたい』って答えたら、『そんな余裕はない』って言われたらしくて…。それなら施設に行くって言ったんだって。」


「うわぁ…。」


「小学校の頃からあまり仲が良くないのは察してたらしい。でも、演奏会とかに夫婦で来てくれていたから、音楽で家族をつなごうとしてたみたい。今年は二人とも来ないって言われて、それで察したみたい。」


何も言えなかった。


家にいても家族の支えがないのって、どんなにつらいんだろう。


「この話、内田先生は知ってますか?」


「たぶん、知らない。」


「話に行きませんか?」


「のぞみ先輩の家庭のことを、私が勝手に話すのはちょっと…。」


「でも、今のぞみ先輩が頼りたい親に頼れなくなってる。そんな状況を知ってる俺らができることって、他の大人に頼ることじゃないですか?」


絵馬先輩は黙り込んだ。責めるつもりはなかった。でも、俺は思っていた。


俺は、親や先生、仲間に助けてもらってここまで来た。


のぞみ先輩も、きっとそうできる。


「後輩の俺が恩返ししたいって言うのは、おこがましいでしょうか?学校に来られるようになって、しかも吹奏楽部に入って、コンクールまで一緒に目指せるって、当たり前じゃないって思います。すごく特別なことです。ホルン、楽器屋で見たけど、すっごい高い。それを部活で借りられて、先輩や先生に教えてもらえる。中学生だけじゃできないことです。だから、大人の力を借りるべきだと思います。いろんな大人がいるけど、内田先生は、信じられる人です。」


言葉が止まらなかった。


自分が助けられたように、今度は自分が誰かを助ける番だと思った。


「…そうかもね。たくみん、一緒に来てくれる?」


「はい!」


俺たちは楽器と譜面を持って、職員室へ向かった。


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絵馬先輩と一緒に職員室のドアをノックし、内田先生のところへ向かった。


絵馬先輩が、


「のぞみ先輩のことで相談があります。」


と言うと、内田先生は、


「なんだ、また揉めてるのか?」


と聞いてきた。


絵馬先輩は、


「そうじゃないんです…。」


とだけ答えて、言葉に詰まった。


俺は小さな声で、


「のぞみ先輩、ご両親の離婚に巻き込まれて大変なことに…」


と言った瞬間、内田先生はすっと立ち上がり、


「二人とも、生活指導室へ来なさい。」


と告げた。


――ひえぇぇぇ……。


問題を起こした生徒が連れて行かれて、めっちゃ怒鳴られてるあの場所……。


絵馬先輩と俺は思わずビクついたが、内田先生は、


「あの教室は不思議でな、怒鳴り声は外まで響くのに、普通の会話は一切漏れないんだ。」


と言った。


配慮してくれていることが、よくわかった。


でも……あの教室から出てくる生徒は、みんな死んだ魚みたいな目をしていて、周囲からも「何しでかしたんだ」って目で見られる場所なんだよな……。


今日が休日で本当によかった。


先生は入口の札を「使用中」にひっくり返し、ドアを開けた。


中に入ると、きれいに掃除された空間に、壁沿いに低めの本棚が並んでいた。真ん中には白い椅子とテーブル。


保健室のような、やわらかい空気が流れていた。


問題を起こした生徒でも、ここなら気持ちが落ち着きそうだと思った。内田先生がここに連れてきた理由がわかる気がした。


「そこに座って。楽器もそのへんに置いて。」


促されるまま、俺と絵馬先輩は荷物を別の椅子に置き、テーブルを囲むように座った。


「それで、高橋のぞみの家庭に事情があるという話だったな?」


「はい」


と絵馬先輩が答え、先ほど俺に話してくれた内容を、そのまま先生に伝えた。


ひととおり聞き終えると、内田先生は腕を組み、表情を変えずに「そうか……」と呟いた。


俺は思いきって聞いた。


「先生、手を貸してくれませんか? それとも、俺にできることってありますか?」


その瞬間、内田先生は少し目を見開いた。


「……何ですか?」


「いや、鈴木がそんなことを言うようになったとは……ちょっと驚いてな。」


そして少し早口で、


「いや、悪かった。悪気はなかったが、今のは配慮に欠けた発言だった。申し訳ない。」


と言った。


表情は変わらないけど、かなり動揺しているのが分かった。

俺に対して、失礼なことを言ったと感じたんだろう。

思わず本音が出たんだと思う。


先生って、あんまり本気で謝らないイメージだったけど、この先生は違う。

本音で、生徒に本気で謝れる大人なんだ。


……素直に尊敬した。


こんな大人になりたいと思った。


内田先生は言った。


「小学生の頃からそんな状況だったとはな……。

最近、音が少し荒れていたり、自己主張が強くなっていたりしたのは気になっていた。

思春期特有の感情の揺れかと思って、見守るスタンスでいたが……これは一歩踏み込む必要がありそうだな。」


そして続けた。


「話しにくいことだったろうに。

よく話してくれた。この件は私が引き受ける。

君たちは安心して練習に専念しなさい。」


「先生、何をするんですか?」


俺が聞くと、先生は答えた。


「まずは状況を把握すること。

それから、今何ができるのかを分析する。

のぞみがコンクールに出場できるよう最大限のサポートをしたい。

あと、夏休みは受験に向けて夏期講習を受ける中学生も多いから、進路希望などの確認も必要になる。学校として、できることは全部やる。

顧問としても、場合によっては学校の枠を越えてでも対応するつもりだ。」


……すごい人だと思った。


でも、俺にはまだ不安があった。


「のぞみ先輩、不登校になっちゃったりしませんよね?」


俺の問いに、内田先生は冷静に答えた。


「鈴木の場合は、学校の中に問題があって不登校になった。

だが、高橋の場合は家庭が原因だ。

家で過ごすのがつらい分、学校や部活が彼女の居場所になっていたかもしれない。

けれど今、その居場所もうまく機能していない。

だから心配なのは、家にいたくなくて、どこか他の場所に逃げて、そこでトラブルに巻き込まれることだ。」


絵馬先輩は、ぐっと息を飲み、俺は一瞬呼吸が止まった。


背中に嫌な汗が流れた。


「あとは、私の仕事だ。

君たちは練習に戻りなさい。」


「はい。」


俺たちは返事をして、楽器を持って生活指導室を出た。


するとすぐに、山田先輩が駆け寄ってきた。


「あー、いた! 探したよ! あとホルンだけだったんだよ!」


気づくと、合奏の集合時間を10分も過ぎていた。


音出しどころか、楽器の準備もしていない。


そして、その後の全体スケール練習は散々だった。


他のパートからの視線が冷たかったのは、言うまでもない──。



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