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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
64/132

64.明日もやるから

「あと何人?」と数えることもなく、ただひたすら先輩の指揮に合わせて、2ndで合奏を続ける。


長めの休符の時や、指揮が交代するタイミングで、すばる先輩や絵馬先輩から様々な指摘やアドバイスが飛んでくる。


「演奏しているうちに、だんだん肩が丸まってきてる。広げるようにしてみて。息が体に入りやすくなるから、音も出しやすくなるよ。」

「リップスラーをやる時、顎やその周りの筋肉も意識して使ってみて。唇への負担が減るから。」

「音量、もう少し出せるかな?無理だったら、右手で少しだけベルアップしてみて。本番のベルアップに差し障らない程度に、右手を少し前に出す感じで。」


両隣の先輩たちから、次々と指示が飛ぶ。

それを楽譜に書き込み、実際の合奏で試して、失敗して、また試して――繰り返しだ。


ようやく2年生の指揮練習が終わったのは、時計が19時近くを指した頃だった。


駒井先輩が録画を停止し、PCで何か処理していた。

そのまま帰りのミーティングが始まった。


山田先輩が出欠確認をしたあと、内田先生が話し始めた。


---


「明日は本来休みだったが、練習を行う。3年生は準備をしておくように。


明日は長時間の練習ができる唯一の機会だ。

その代わり、火曜と水曜は部活を休みにする。


休みの間は、今日撮影した映像や音源の気になる部分を見返すこと。

お手本の合奏やプロの演奏を聴いたり、スコアを読み込んだり――

楽器を使わない練習を各自で行うように。」


---


「はい」と部員たちが答えたが、少し動揺が走る。


明日休みって聞いてたから、今日ここまで頑張ったのに…。

今日の疲れが、明日までに回復するとは思えない…。


心の中が「げそー…」という感じになる。


先生は続けた。


---


「もう、コンクールまでは3週間程度しかない。


本日昼頃、保護者の方には『明日の練習とお弁当の準備』について、連絡網で伝えてある。

弁当を忘れずに持参するように。


木曜からの練習は、暗譜ができていることが前提になる。

明日はそれに向けた練習だ。


楽器に触れない日でもできることはたくさんある。

暗譜、他パートの譜読み、音源の確認など、できる練習を各自実行するように。」


---


部員たちは再び「はい」と返事をした。


その後、山田先輩の号令で「ありがとうございました」と挨拶し、部活は終了。


明日も合奏があるため、楽器と譜面台、譜面、チューナー、小物類だけを片付け、教室は合奏体形のままでOKとのこと。


ホルンのつば抜きをするため、全6本の管を外して楽器を逆さまにすると――


信じられないくらい、ドバッと出てきた。


「うげ…。」


合奏続きで、つば抜きのタイミングなかったもんな…。

それにしても、こんなに出る?


グリスを軽く塗り直すが、なじませる気力もない。


バルブオイルを差し、レバーを動かす。

表面とベル部分だけクロスでさっと拭いた。

正直、いつもよりかなり雑な手入れになってしまった。


「ホルン、ごめん。」


でも、明日もよろしく。

明日はちゃんとやるから。


つば抜きに使った雑巾をビニールのファスナーバッグに入れ、それをリュックへ。


「はぁ……帰るか。」


リュックを背負うと、後ろから黒沢と同じクラスの女子2人が合流してきた。


黒沢が言う。


---


「たくみん、大丈夫か? ポジション変えられたり、すばる先輩にいろいろ言われて、ちょっとキレてたじゃん?

後ろから見てて、面白かったけど。」


---


「ほんとだよー。いきなり1stとか無理だって…。」

とぼやく。


黒沢は笑いながら言った。


---


「まあ、そうだよな。

でもさ、合奏が進むにつれて、俺もだけど、たくみんも音出るようになってたよ。

後ろにいるからよく聴こえるんだよな。ホルンのベル、後ろ向いてるし。」


---


「え?」


---


「気のせいかもしれないけど、すばる先輩の影響、あるよな?」


…。


ほぼ、そうです。

黙ってうなずいた。


女子2人がふとつぶやく。


---


高橋のぞみ先輩、大丈夫かな?」

「ねー。すばる先輩、なんて言ったんだろう?」


---


明日、のぞみ先輩来てくれるかな…。

コンクール、出るよね?

まさか、出ないなんてこと――ないよな?


自分の未熟さも不安だけど、先輩の様子も気がかりで、不安になる。


途中で帰り道が分かれて、一人になった。


今日の練習で、たくさんのことが分かった。


できないことが山のようにある。

分かってないことも、まだまだある。

それは音楽だけじゃなく、人間的な部分でも足りてないと痛感した。


色んな先輩が引っ張ってくれた。

同期と話すのも楽しかった。

もちろん、それだけじゃダメなんだけど――


今日、少しだけ、自分に足りなかったものを得られた気がする。


お昼休みに男子同士でわちゃわちゃして、楽しいって感じたり。

ものすごく体力は削られたけど。


自宅に帰ってシャワーを浴び、ご飯を食べて、目覚ましをセットして。


明日も朝から夜まで練習――


そのまま、眠りについた。



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