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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
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60.踊り場の休憩

俺は黒沢と会談の踊り場で、二人で頭を寄せ合い、壁に沿って90度の角度で寝転んだ。

窓が少し開いていて、隙間風が入り涼しい。


「死ぬかと思ったー。」

と俺が言うと、

「ほんと、きついわー。」

と黒沢が返した。


黒沢はなぜかキッチンタイマーを持っていて、15分にセットした。


「なんでそんなの持ってるの?」

と聞くと、

「練習と休憩にメリハリつけるためよ。

練習に夢中になると唇が腫れて戻るのに時間がかかったりするし、

休憩も先輩とかと話してると気づいたら30分過ぎてたりするから。


あと普段の勉強でも使ってる。

ダラダラやっても仕方ないから、

『10分でこのページを終わらせる!』って決めてやってるの。」


いいアイデアをもらった。

スマホにもタイマーはついてるけど、タイマーのつもりが色んなことが気になって勉強に戻れなくなりそうだから、

タイマーだけのシンプルなやつはいいかもしれない。

100円ショップで買おう。


「15分、今からセットするから少し休もう。

目を閉じて横になるだけでも回復するからさ。」


そう言って黒沢は寝転び、ピッとタイマーをスタートさせ、顔にタオルをかけて寝始めた。


俺も同じように顔にハンカチを広げ、目を閉じる。


風の音、どこかの建物の放送、子どもの声、犬や鳥の鳴き声、走る人の足音…。


学校の木の揺れる音と、そばを流れる川の音。


床の薄いワックスの匂い。

ハンカチのほのかな洗剤の香り。


自分の汗の匂い。

緊張による口臭。※やばいと思う。恥ずかしい。

あとで水を飲みに行こう。


…。


ピピピピ ピピピピ ピピピピ…。


…もう時間か。

ちょっと寝てたな。

二人で起き上がり、ぼーっとする。


「あと10分後に再開だ。」

黒沢が言った。


俺は軽くストレッチを始めた。


「慣れてるなあ、いいなあ。」

と言って、黒沢も俺の真似をしてストレッチを始めた。


「あーいた!たくみん!」

クラスの女子二人がやってきた。


「たくみん、あのホルンのOBの先輩、かっこいいよね!」

「彼女いるのかな?知ってる?」

「もしかしてのぞみ先輩かな?なんかいい雰囲気だったよね~!」

「たくみん、『付き合ってるんですか?』って聞いてみてくれない?」


…せっかく休憩して、さあこれから、って思ってたところだったのに。

くだらねえことを…。


と思ったら、口から出ていた。


「ひっどーい、たくみん!すばる先輩と仲良くなってるから、

聞いてほしいだけなのにー!」


「…あ、いや…。」


自分が招いた思わぬ事態に黒沢がフォローに入ってくれた。


「仮にすばる先輩に彼女がいてもいなくても、おめーらに関係ないだろ。

もっと言うと、その話題にたくみんはもっと関係ない。

内田先生の依頼で今日手伝いに来てくれてるんだよ。

聞きたいならおめーら自分で行けよ。

なんて迷惑な…。

コンクールの曲でいっぱいいっぱいなんだよ。

特にたくみん、午前中緊張でトイレで吐いてるし、

そのフォローをしたんだし、内田先生の演奏箇所変更指示で色々対応してるんだ。

ただでさえホルンは大変で、フォローしてくれる人が必要で、

忙しいところ来てくれてる先輩に聞く質問じゃねえ。

たくみんがすばる先輩に聞いてるのは全部コンクールに関することだけだ。

だから、すばる先輩がサポートしてくれてるだけだ。」


そう言われて女子二人は口をへの字に曲げて黙り込んだ。

その様子を見て黒沢はさらに続ける。


「せっかくの休憩が台無し。

おめーらのせいでまた疲れたわ。

この後まだ10回は通すんだぞ。」


場所が踊り場だったせいか声がいろんなところに響いていたようで、


宮田先輩がやって来た。


「すばるとのぞみちゃんは付き合ってないよ。

さっきはのぞみちゃんがどえらく落ち込んでたんだけど、

ガチの説教してて怖かったぁ。

てっきり慰めに行ったのかと思って、勉強になるかもと思って教室行ったら、

『頑固なだけで、協調性を無視していいのか?』って詰めてた。

怖くて逃げて来たよ。」


俺と黒沢、女子二人は血の気が引いた。

すばる先輩に怒られたら…色々もうだめかもしれない。


宮田先輩が、

「まあ、真相はわからないけど、そんな内容やきつい言い方って、彼氏が彼女に言う言葉だと思う?」

と聞くと、女子二人は冷静になって、

「ないかも…。」

「そうだね…。」

と落ち着いた。


さらに宮田先輩は続けた。


「吹部内で付き合うのは否定しないけど、『覚悟』は必要だよ。」


…は?

この先輩はいきなり何を言い出すの?

女子ってこうなの?

同期も、先輩も。


宮田先輩が続ける。


「前に、先輩後輩で付き合った人たちがいたんだ。

でもちょっとしたことで揉めるんだよね。

男子の人数が少ないから、どうしても女子との交流が増えるじゃない?

そうなると彼女が不安になって、彼氏を問い詰めればいいんだけど、

なぜか女子を責めたりするんだよね。

彼氏に嫌われたくないからって。」


「えー、感じ悪くない?」

「普通の会話もできなくなる感じ?」


「うん、そうだね。でも音楽には影響ない。

なぜかよくなる。だからその人の時は先生知ってたけど黙ってた。

周囲に認めてもらえるように、

どうにか自分に振り向いてもらえるように頑張る方向になれば、問題はないけど…。」


「問題あったこととかあるんですか?」

「何、何?修羅場?」


「修羅場てw。まああったみたいだよ。詳しくは知らないけど。

片方が辞めるって言い出したり、部活に来なくなったりとか。」


「えー!」

「こわーい!」


「誰すか?その人?」


若干引いて距離を取っている俺とは対照的に、

黒沢は女子二人に交じって話を聞いている。


宮田先輩が、

「私の上の学年でそういうことがあったから、

名前言ってもわからないと思う。

まあ何年かに一度、周期的に来るみたい。

反面教師が卒業すると、湧いて出るから。

気をつけてね。」

そう答えた。


女子二人と黒沢は、「はーい!」と元気に返事をした。


宮田先輩は、

「たくみ君も、付き合うなら覚悟は持つんだよ。

あ、吹部じゃない方をおすすめするわ。

多分、主張強い子より穏やかな子の方がタイプでしょ?」

と言った。


急な振りに黙ってしまうと、

「あ、ごめんごめん、こういうのセクハラになるね。

恋愛は自由!以上。」

そう言って宮田先輩は音楽室の方へ歩いていった。


俺は黒沢にだけ聞こえる声で、

「竈門禰豆子がタイプ」

と言うと、黒沢は噴き出した。


「これからたくみんじゃなくて、善逸って呼んでいい?」


「それはやめて。」


「意外だなー。どっちかっていうと甘露寺さんかと思ったー。」


本当ならアイドルとか俳優さんとか、そういう人を挙げたほうがわかりやすいのかもしれないと思いつつ、まだ見分けがつかない人も多いから、誤解されるより確実に伝えたかった。


あんな優しくて健気な子、見てたら泣いてしまう…。



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