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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第1章 迷い(終了から始まり)
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06.黒沢の提案

帰り道、黒沢がくっついてきた。


「俺もサッカー部入ろうと思ったのよ。

でも、先輩がアレな感じでさ、俺、苦手なタイプだったんだよね。

それで情報技術部か野球部かって考えてた。

そしたら、たまたま吹奏楽部のミニコンサートがあるって、同じ小学校の友達に引っ張られて聞きに行ったら……感動して入ったんだよ。」


初耳だった。


黒沢は「初日から行ってた」と言った。


俺もそうだった。

でも、全く気づかなかった。


「いじられるのも、別にある程度許容しようとは思ったんだけど……下品すぎて引いたんだよね。」


思い出した。


「お前、結構先輩に体当たりしてたよね?仮入部の時!」


「サッカーってそうだろ? ていうか、入部させるために接待されてんのか?って思ったんだけど……本当に弱かったんだな。

あんだけ練習してて負けるって、どんな練習してんだ? バカなの? 効率悪!って。

そこもドン引きポイント。」


……何も言えなくなった。


ちょっと前まで、俺もその一員だった。


「まあ、吹奏楽部入っても入らなくてもいいよ。

でも、強引に誘ったのに来てくれてありがとう。」


え?


戸惑っていると、黒沢は少し真面目な顔になった。


「俺、学級委員だし、ちょっと気になってたんだ。

有岡先生も心配してたからさ。」


有岡先生——俺の担任。


40代の女性の国語の先生。入学式の次の日、

「同じ教員の旦那さんとの間に小学生の子どもがいる」

と自己紹介していた。


親にも俺にも、しょっちゅう電話をくれた。


でも、電話に出るのが嫌になっていたら、PCにメッセージをくれるようになった。


毎日、ほんの1行だけ。


おすすめの本とか、サイトとか。


それも全く見なくなっていた。


それなのに、母さんと話した数日後、学校へ行ったら——


「おはよう」


有岡先生は、それだけ言った。


俺も小さい声で「うっす」と返した。


その後のことは、あまり覚えていない。


学校に行って、帰るだけの繰り返し。


授業もほとんどわからない。


記憶が抜け落ちたように、ぼーっと過ごしていた。


友達はいない。


休み時間は移動かトイレか、寝ているか。


誰かと組んでグループワークをやった記憶もない。


そして、突然の今日、黒沢からの新しい提案


「鈴木、サッカーやりたかったら、俺が通ってるスクールがあるんだよ。」


俺が黙っていると、黒沢は続けた。


「元Jリーガーのコーチが運営してて、本気で教えてくれる。

変なパワハラもないし、それが当たり前。

他の学校やクラブチームにいても習えるようになってる。

費用も安いから、見ておいて。

3回まで見学無料だから、そっちもいいと思ってさ。」


チラシを渡された。


「1回1500円。

小学校の校庭でやるから近いし、比較的安めなのに、元Jリーガーが本気で教えてくれるのよ。

高校サッカーで全国出てる学校の付属中学から通ってる生徒もいる。

レベル高いし、楽しいよ。」


え——!?


戸惑っていると、黒沢が言った。


「吹部は吹部、サッカーはサッカー。

両方やればよくない?って思ったんだ。」


そう言われて、何かが引っかかった。


「鈴木は、中学サッカー部の連中が嫌いなだけで、人やサッカーは好きだろ?」


今となっては……どうなんだろう?


サッカーをやっている自分が好きで、サッカーそのものは好きか?


改めて考えると——わからなくなる。


沈黙すると、黒沢が少し笑いながら言った。


「まあ、いいや。

本当は吹部来てほしいけど、他の部活も見た方がいいかもしれない。

あと、サッカースクールも。

部費と同じくらいって思っておいて。

高校からサッカーできるように、練習しておけばいいじゃん。」


……え?


吹部なのに、勧誘しねえんだ?


「さすがに、心弱ってるやつに無理やり勧誘するのは良心が痛む。

できれば、心決めて入ってほしい。

だけど、時間との勝負でもある。

今1年だけど、あっという間に高校受験になるからさ。

意外と短いって思わない?」


考えたこともなかった。


けど、中学の先は高校。もし行けなかったら——。


「いきなり成績は上げられない。

だから今からやるんだよ。間に合うから。

できるところからやっていけばいい。

あと、いろんな部活を見てみることは再度おすすめする。」


黒沢はそう言い——


「じゃあ、俺こっちだから〜。また明日な〜。」


2、3歩後ろスキップしながら手を振った。


俺は、つられて黙って手を振った——。

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