48.先輩の察し、寄り添い
昼食を終え、弁当箱をバッグにしまいながら黒沢たちに声をかけた。
「ちょっと、パート練の部屋で自主練してくる!」
楽器と譜面、それに小物を持って音楽室を出た。
いつものパート練習の部屋に一人。
音源はなんとなく聞いていたから、メロディはわかる。
でも、いざ吹こうとすると、ものすごく高い壁を感じる。
最初のメロディ。
二分音符に装飾音符が二つついている。
それだけで手こずる。
あの先輩たちは、易々と吹いていた。
変人なのだろうか。
この音の高低差……。
俺なんて、かえるの歌ときらきら星だけで手いっぱいだったのに。
ここまで来たら、やるしかない。
何が何だかわからなくても、とにかく音源や先輩たちの合奏通りに
吹けるようになろう。
でも、音は割れる。
息は切れる。
音になる前にブフォッという汚い音が出る。
息継ぎができない。
口が痛い。
歯が痛い。
顎も頬も痛い。
何より、時間がない……。
あと十五分しかないのに……。
ガラッと教室の戸が開いた。
のぞみ先輩、絵馬先輩、白川先輩だ。
白川先輩が俺の顔を見て、言った。
「泣いてる……。」
その瞬間、涙がどっとあふれてきた。
白川「うわー、ごめん!別に責めるとか、からかうつもりじゃなかったんだよ!」
のぞみ「しーらーかーわー!言葉!」
絵馬「たくみんのこと気になって、時間ちょっとあるから合わせようか、
ってみんなで楽器持ってきたんだけど……休憩しようか。ね。」
……こんなことで泣いてたんじゃ、小学生みたいでかっこ悪いよな……。
白川先輩は言った。
「ごめんて!音が曇って聞こえたから、行き詰まってると思って……。
ホルンの二人と話して来てみたんだ。」
え?
音でわかるの?
俺は驚いて、白川先輩の顔を見た。
「内田先生の無茶ぶりの後に、俺、プレッシャーかけてしまったかな、
って思って心配になって……。」
さらに涙が出た。
嬉しくて。
白川「うーわー!ほんと、ごめんて!」
のぞみ「しーらーかーわー!あんた顔怖いのに、言うことまで怖いって何なの!
せっかく入ってくれた後輩が逃げたらどうしてくれんのよ!」
絵馬「たくみん、ごめんね。この人、普段ぼーっとしている人で、
なんか言葉が足りないんだよね。
あとでみっちり注意しておくから、気にしないで。
まずは今日、自由曲の演奏に参加してみよう。
課題が見つかったらパート練で、どうしたらできるようになるか考えるから安心して。」
俺は誤解を解きたくて、泣いてしまいながらも、必死に言った。
「違うんです!
できなくて悩んで、どうしたらいいのかわからなくて……。
それをわかってくれる人がいた、っていうだけで安心して……。」
先輩三人は、ぽかんとした顔をした後、笑顔になった。
そして、白川先輩が言った。
「よし、合奏だ。音楽室に戻るぞ。」
その言葉にホルンの三人がついていき、教室を出て音楽室へ向かった。