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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
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47.響きに宿る感情

合奏体形にした音楽室で、それぞれ音出しやロングトーンなどの基礎練習をしていたら、 途中で内田先生と、もう一人の男性が入ってきた。


その男性は四十代くらいで、身長は百七十五センチほど。 中肉中背でロマンスグレーの短髪。色白で目鼻立ちがくっきりした柔和な顔立ちをしていた。 サックスブルーのビジネスシャツに黒いスラックスを履き、 茶色の革のトートバッグを持っていた。


内田先生は指揮台の横に椅子を置き、その男性に座るよう促した。


それから指揮台に立ち、音を止めるように合図として手を上げた。


音がやむと、先生は話し始めた。


「先週伝えた通り、感情解放について勉強してもらう。

ただ、深く追求しすぎてメンタルのメンテナンスに時間がかかると意味がないので、 音楽に必要な範囲に限定して進める。

具体的な進行や授業については、こちらの小滝先生にお願いする。

まずは、いつもの通り基礎スケールをやるが、今日はC-DurとA-Mollのみを使う。

テンポと音程を正確にすることのみに集中して。」


内田先生の言葉に、部員たちは「はい」と返事をした。


内田先生はタブレットを取り出し、部員全員が録画できるようにセットした。

それから指揮台の椅子に座り、ハーモニーディレクターのメトロノーム機能を テンポ70に設定した。


内田先生の

「基礎合奏、C-Dur」

という声が響くと、スネアに合図が出た。


スネアのカウント4つの後、16小節で作られた曲を演奏する。


ホルンの2ndパートはほとんどが全音符で、たまに2分音符がある程度だった。

まだ出しにくい音もあるが、だいぶ吹けるようになってきた。


楽譜と、楽譜に書かれた指番号、チューナーの針とランプを確認しながら、 神経をいっぱいいっぱいに使って演奏する。


次に

「基礎合奏、A-Moll」

という先生の声が響くと、 再びスネアに合図が出た。


先ほどと同じく、スネアのカウント4つの後、16小節の曲を演奏する。

音の長さは大体C-Durと似たようなパターンだが、音域は吹きやすかった。

それでも、楽譜と指番号、チューナーの針とランプを確認しながら演奏するため、 神経を使いすぎて、いっぱいいっぱいになる。


内田先生は録画を止めた後、今の自分たちの合奏練習を見てほしいと言い、 タブレットを音楽室の大型モニターに接続し、再生した。


画面に映し出される演奏を聞いて、穴に入りたくなるような気持ちになった。


もう止めてください……と心の中で叫んでいた。


内田先生が指揮台から降り、男性に指揮台の上に座るよう促した。

しかし、男性はそれを手で制止し、椅子から立ち上がるだけで穏やかに微笑んでいた。


内田先生はその場で紹介を始めた。


「今日の感情解放について指導いただくのは、小滝龍太先生です。

プロの劇団や劇場、テレビドラマの演出のほか、 大学で演劇専攻の学生に指導されています。

今日は午前中しか空いていなかったとのことで、 無理にスケジュールを調整して来ていただきました。

貴重な時間なので、集中して取り組むように。」


そう言うと、山田先輩に目で合図を送った。


山田先輩の「起立。お願いします。」の号令に続いて、 部員たちは「お願いします」と挨拶した。


小滝先生は柔和な表情ながら、 まるで優秀なビジネスマンがプレゼンをするような、テキパキとした口調で話し始めた。


「小滝龍太です。演出家として活動しながら、大学で講師もしています。

大学の文学部演劇専攻を卒業後、劇団で裏方を務めた後、演出家となりました。

最近はアニメ原作の朗読劇の演出を手掛けました。

今日はよろしくお願いします。」


先生は少し間をおいて話を続けた。


「さて、先ほどの基礎合奏ですが、譜面通りの演奏としてはよくできています。

ただ、コンクールでは譜面通りできて当たり前の世界です。

課題曲はどの学校も4曲の中から選び、 自由曲は難易度の高いものを持ってくることが多いですね。

金賞受賞が狙える曲はこれだ、なんて特集も組まれていると聞いたので、 軽く雑誌やサイトを調べ、音源を聴いてきました。

そこで、何が評価されるかを考えたとき、 心まで届く演奏かどうかが重要だと感じました。」


先生はゆっくりとした口調で話した。


「演出の仕事では、俳優さんに『こうしてほしい』と伝えることがあります。 セリフの言い回し、動きや視線、立ち位置まで細かく打ち合わせをした後、 その俳優さん自身が役の感情を持てるように、役になりきれるように、 架空の友達役を自分がやって、一緒に食事をしたり移動したりと、短時間ですが、 さまざまな時間を過ごします。

そうすると、俳優さんが役の感情で動くようになるんです。

そして、その感情が観客に伝わるようになります。」


先生はゆっくりと話を続けた。


「今日は全員にそれをやると時間が足りないので、簡易バージョンで浅くやります。

また、深くやると感情コントロールが難しくなる人も出てくるので、 ほどよく進めます。」


それから、先日内田先生から配布された「喜怒哀楽」を書いた用紙を出すように言った。


部員たちはそれぞれ、バックやファイルから紙を取り出した。


小滝先生が再び話し始めた。


「感情には喜怒哀楽という四つの分類がありますが、 それだけでは分けきれないことのほうが多いと感じた人もいるでしょう。 まさにその通りです。

嬉しいことがあって喜んだ時、楽しい気分になることがありますね。

また、特に嬉しい出来事がなくても、好きな音楽を聴けば楽しくなることもあります。

こうした感情は比較的すぐに掴めるものです。


一方、怒りは悲しみの次に来る感情で、『二次感情』と呼ばれます。

悲しみが出口を探していたり、時間が経つにつれて怒りへ変わることがあります。

『なんでわかってくれないの!』という怒りの背後には、 わかってもらえなかったという悲しみがあるのです。


泣いて、悲しいと自覚し、その段階で感情を処理できればいいのですが、 何らかの事情でそれを封じ込めたり、見なかったことにしたり、我慢を続けたりすると、 やがて怒りとなって爆発することがあります。」



言われてみれば、その通りかもしれない。

俺の五月は、大体悲しみとか怒りとか、不安とか、そんなものばかりだった。


でも、内田先生が言っていたように、もっと小さなことを思い出していいはずだ。


それで改めて考えたのが、もっと前の二月ぐらいだったかな。


小学校のクラブチームの女の子が、 『同じチームだから、友情チョコだよ』 と言って、コンビニによくあるアーモンドチョコに バレンタインのシールとリボンがついたものをくれた。


それがすごく嬉しかった。


別に恋愛とかじゃなくて、 バレンタインに女子からもらえたことが、とても重要だったんだ。


その女の子は、他の男の子たちにも渡していた。 それでもよかった。すごく嬉しくて。


だけど…。


一粒食べた後、溶けるかもしれないと思って冷蔵庫に入れておいたら、 久実がおやつだと思って、半分くらい食べてしまっていた。


リボンもシールも外していたから、バレンタインのチョコだとは思わなかったって…。

それはそうなんだけど…。


せっかくもらったチョコレート。

別に好きな子とかじゃないけど、大事に食べたかったんだよな…。


ちょっと泣いた。


事情を知った久実は平謝りだったし、自分のお小遣いで、 まるっきり同じチョコを買ってきたし、何度も謝られた。

それ以上追及する気にもならなかったけど…。


…やっぱり正直、全部俺が食いたかった…。


でも、怒るには怒れなかった。


怒るとしたら、あの時の俺へ、 「リボンとシールは捨てるな! 拓海って名前を油性ペンで書いておけ!」 ってことだ。


内田先生にもらった二枚目の紙には、そんなことを 自分にしかわからないように、記号や丸印を使ってざっくりメモしていた。


メモを見た後、ポケットにしまった。


小滝先生は言った。


「じゃあ、目を閉じて。 楽しかったこと、喜んだことを思い出して。

できるだけ細かくね。 季節、温度、色、時間、一緒に人がいたか、一人だったか、体はどうだったか。」


しばらく静かな時間が流れた。


俺は、リフティングの回数が増えて、できるようになったのが嬉しかった。

グラウンドで。一人で先に来て、みんなが集まるまでやっていた。 暑かったけど、だんだんできる回数が増えていった。 やればやるほど、もっとできるようになったんだ。


小滝先生は言った。


「まず一年生、C-Durをやろう。先輩たちは聴きながら、 その思い出しをできるだけ詳細にしていくことを続けていて。 じゃあ、内田先生。」


内田先生がスネアに合図を出した。


一年部員だけの基礎合奏は、だいぶ心許ない。 途中から感情のことなんか忘れて、譜面にかじりついていた。


小滝先生は言った。


「じゃあ、次は二年生。一年生と三年生は目を閉じて、 先ほどのイメージを続けてみて。」


内田先生がスネアに合図を出すと、二年生だけの基礎合奏が聞こえた。


目を閉じると、あの時の自分が生き生きと動いているような感覚になった。


小滝先生は続けた。


「じゃあ、次は三年生。一、二年生は目を閉じて、先ほどのイメージを続けてみて。」


内田先生がスネアに合図を出すと、三年生だけの基礎合奏が聞こえてきた。


目を閉じると、さらにイメージが明確になって、 気持ちもあの時みたいにワクワクしていた。


小滝先生は言った。


「じゃあ、今度は全員で。できるだけ譜面から離れてほしいけど、 無理なら、さっきの気持ちのまま演奏してもらえるかな。」


内田先生がスネアに合図を出し、基礎合奏が始まった。


全員参加の基礎合奏が終わると、小滝先生は言った。


「じゃあ、どんな変化があるか、実際に聴いてみよう。」


先生はタブレットを再生した。


最初は何のイメージもなく、いつもの基礎合奏だった。


次に一年生の基礎合奏、二年、三年、そして全員と進んでいく。


何かが変わったのはわかった。 うまくなったとか、回数をこなしたからとか、そういう問題じゃない。


小滝先生は言った。


「気持ちがあるかないかだけで、ここまで音って変わる。 そう感じてもらえたかな?」


俺は、ちょっと感じられたかもしれない。


同じことをやっているのに、感情でこんなに変わる? 技術的な訓練をしたわけじゃないのに……。



小滝先生は言った。


「じゃあ、次はネガティブな気持ちになってしまうけど、 怒りや悲しみの感情になった時のことを、できるだけ詳細に思い出してもらえるかな。

好きなチームが負けたとか、好きな芸能人が誰かと結婚したとか、 もっと些細なこと、例えば足の小指を家具にぶつけて痛かった、などでもいい。

さっきと同様、できるだけ詳細に思い出してみて。 これは時間を短めにする。

今度はA-Mollかな。一年生、準備してください。」


そう言うと、内田先生がスネアに合図を出した。


なんだか気分がどんよりして、音が出せない。

楽しい時はあんなに吹けたのに、なんだか辛くて吹けない……。


一年生の合奏が終わると、小滝先生は言った。


「次は二年生。一年生と三年生は目を閉じたままイメージを続けてね。」


スネアの音が鳴り、二年生の基礎合奏が聞こえてきた。


俺のチョコ……ああ……名前を書いておくべきだった。

リボンもつけたままにしておけばよかったかな……。

というか、久実にも気を使わせてしまったな……。

なんだかやるせない気持ちになった。


二年生の合奏が終わると、小滝先生は言った。


「次は三年生。一年生と二年生は目を閉じたままイメージを続けてね。」


目を閉じてイメージを続けていると、三年生の合奏が聞こえてきた。


……あーーーー……。 せっかく女子がくれたチョコ!

やっぱり俺、全部自分で食べたかったーー!!!

悔しい……。


思わずため息が漏れた。


小滝先生は言った。


「じゃあ、今度は全員で。

できるだけ譜面から離れてほしいけど、 無理なら、さっきの気持ちのまま演奏してもらえるかな。」


内田先生がスネアに合図を出し、基礎合奏が始まった。


もう気持ちが沈みすぎて、息を吸って吐くのがこんなに難しかったっけ?

譜面を見るけど、途中で心が折れそうになる……。


全員参加の基礎合奏が終わると、小滝先生は言った。


「じゃあ、さっきと同様に、どんな変化があるか実際に聴いてみよう。」


先生はタブレットを再生した。


最初は何のイメージもなく、いつもの基礎合奏だった。


次に一年生の基礎合奏、二年生、三年生、そして全員と続いていく。


変わった……。 音楽が重苦しい……。


小滝先生は言った。


「音楽の詳しい部分はわからないんだけど、 気持ちが入ると音が変わるっていうのは実感できたかな?」


部員たちの「はい」という返事が響いた。 俺も同じ気持ちだった。


小滝先生は穏やかにゆっくりと話した。


「技術、理論、そういったものは君たちは十分持っていると聞いている。

上の段階を目指すにあたって、もう一つ付け加えるとしたら、 今日やった『気持ち、感情』を合わせてみる、というのはどうだろう。


指揮に任せっぱなしにする、ただついていくだけではなく、 自分はこういう感情でこの音を伝えたい、そのためにこう表現している、 ということを普段の合奏の中で指揮者や他の奏者にアピールしてみると、 さらに良くなるのではないかと思いました。」


そして小滝先生は続けた。


「どんよりとした空気をそのままにして帰るのも忍びないな。

楽しい気持ちに切り替えよう。

目を閉じて、これまでの人生で嬉しかったことを思い出してみて。 なんでもいいよ。

欲しかったゲームを買ってもらえたこと、 好きな人と同じクラスになれたこと、 テストの成績がよかったこと、 ケーキがすごく美味しかったこと、 推しのライブチケットを手に入れたこと、 100円を拾ったこと、 本当に些細なことでもいい。

その時、自分はどんな気持ちだったかを思い出してみよう。」


……。


俺は……。


ゲーム、Switchを買ってもらえたのは嬉しかったな。

ずっとずっと欲しかったから。


友達はすでに持っていて、俺は横で見ているだけだった。

でも、買ってもらってから友達と合流して、 一緒にゲームができるようになった。

みんなでワイワイ楽しめるようになったのが、 さらに嬉しかったんだ。


小滝先生の「はい、目を開けて。」という声が聞こえた。


「基礎合奏、C-Dur。全員で。今の嬉しい気持ちのまま、 音を『演奏』してみよう。」


部員たちが返事をすると、小滝先生はスネアに合図を出し、演奏が始まった。


目は譜面を見ているし、音も指も意識している。

でも、なんとなく気持ちがふわふわしている。


小学校低学年だったあの頃。

気持ちは、小学生の自分に戻ったみたいだった。


悩んでいるようで、今ほどいろんなことは考えていなかった。

そんなことを思いながら音を出した。


合奏が終わると、小滝先生が言った。


「君たちは非常に素直に音に出るね。

この演奏も録画してあるから、後で全員で確認してみるといい。

客観的に聞くと変化が面白いからね。

僕からの授業は、これで終わりです。」



内田先生が話し始めた。


「小滝先生、ありがとうございました。 この後、ワークシートをシュレッダーにかけたい人はいるか?」


先日の約束だ。


しかし、誰も手を上げなかった。


「ん?誰もいないのか? このワークシートは今日だけのために使ったもので、今後使うことはない。 見られたら恥ずかしいとか、すっきりしたいと思うなら、 シュレッダーにかけてもいいんだぞ。」


先生は部員たちを見渡したが、誰も手を上げなかった。


「まあ、それならいい。管理は各々に任せる。

少し早いが、昼休憩とする。 午後は十三時半から。

自由曲、ディベルティメントの合奏をする。 今日の時間の復習や、それを踏まえて自由曲をどのような感情で演奏するか、 それらを各自考えておくこと。

囚われているように感じていることを、ほんの少しでも考えてみておくように。

では、挨拶。」


山田先輩が号令をかけ、「ありがとうございました」の後に続いて、 部員たちの「ありがとうございました」が響いた。


内田先生は音楽室の戸を開け、小滝先生を音楽室の外へ誘導した。


そのまま閉めるかと思いきや、再び、勢いよく戸を開けて言った。


「鈴木、コンクール曲、2ndに入るように準備しろ。 ホルン、前に渡した2ndの譜面を鈴木に渡しておくように。」


のぞみ先輩と絵馬先輩は驚いた表情で「はい!」と返事をした。

その直後、戸が閉まった。


……え?


絵馬先輩が、にやりと笑いながら言った。


「たくみん、ようこそ。地獄の夏を、一緒に楽しもう。」


のぞみ先輩は譜面を手渡しながら、優しく言った。


「はい、これ、セカンドホルンの譜面。 午後は自由曲だから、まずはそっちから練習しようか。」


俺は戸惑いながら言った。


「えっと……かえるの歌で手いっぱいなのに、こんな譜面、できないっすよ……。」


譜面が、まるで召集令状のように見えた。


ホルンの音を出すのは好きだ。


ただ、みんなと合わせる、人前で演奏する、 しかもコンクールとなると話は別だ。


この学校的に、勝ちにいかなきゃいけないやつだよな……。


「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」 という言葉を、吹奏楽部でも使うのか。


リフティングもパスもドリブルもできないようなやつが、 練習試合もなく、 いきなり公式戦で勝ってこいと言われるようなものだ。


無茶ぶりをされていることぐらいは理解している。


譜面を見て、立ち尽くした。


ふと、「おい。」という声が聞こえた。


振り向くと、サックスの白川先輩だった。 先日キレていた先輩だ。


俺は怖くて、細い声になってしまいながら「はい…」と返事をすると、


「自由曲の最初のメロディはホルンとアルトサックスでTuttiなんだ。

正直、今のままだと弱い。

だから鈴木も入って、音の厚みを出すことに協力してほしい。」


と言われた。


「……とぅってぃ?って、何すか?」


そう聞くと、白川先輩は何かに気づいたように眉間にしわを寄せ、 「あー!」と声を出した後、


「Tuttiっていうのは音楽用語で『一緒』って意味だ。

結構よく出てくる言葉だぞ。

この曲では特に重要なんだ。

お前の音が必要だから、入ってこい。」


と説明してくれた。


「はい。」


……全然怖くなかった。 むしろ、優しい?


白川先輩はそのままサックスのポジションに座り、 吹き口部分の金属をねじねじと締め直していた。


のぞみ先輩が、にっこりと笑いながら言った。


「そういうこと。」


絵馬先輩も続けた。


「午後の練習まで時間あるから、楽譜の音とか指番号とかメモしておきなよ。

時間ができたら、パート練習しよう。」


俺は「ありがとうございます!」と頭を下げ、 バックからペンケースと弁当と水筒を取り出した。


音楽室の隅っこに机と椅子を置き、楽譜を広げて、 音名と指番号を記入していく。


今日の弁当はおにぎりと唐揚げ。

ちょうどよかった。

片手で食べられるし、右手はペンを持っているから、 左手でおにぎりと唐揚げを食べることができる。


箸は左手ではうまく使えないので、行儀は悪いけど差し箸で食べながら記入していった。


すると、後ろから「頑張れ~」という声が聞こえた。


黒沢、同じクラスの女子二人。


気を使ってくれているのか、それともそうじゃないのか、よくわからない感じで、 三人は俺の後ろに固まり、窓の外を眺めながらお弁当を食べていた。

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