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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
45/132

45.田中先輩と“まさゆき”

片付けをしながら机を授業の形に戻しつつ、さっきのチューバの田中先輩のところへ向かった。


「チューバにどうして、まさゆきって名前をつけているんですか?」

と聞いた。


「なんかの本で、道具に名前をつけると心が通じて技術が上がるって書いてあってね。

それで、道具じゃないけど、チューバに名前を心の中でつけてたんだ。


僕、保育園から小三まで、近所のおじいちゃんの家によく遊びに行ってたんだ。

両親とも働いているから、一人で家で留守番してるのもって思って、心配してくれてね。

そのおじいちゃんの家にいた犬に、おじいちゃんがつけていた名前なんだ。

パパが生まれる前にもう一人子どもがいたんだけど、

赤ちゃんのときに原因不明で突然亡くなってしまったんだって。

その子につけられていた名前が、まさゆき。


小六のとき、おじいちゃんが亡くなったんだけど、

その後を追うように、まさゆきも死んでしまってね。

チューバよりは小さい、ユーフォぐらいの大きさの茶色い雑種の犬だったんだけど、

僕と一緒に走ってくれたり、寝てくれたりするような、すごく優しい犬だったんだ。

ショックだったけど、名前をつけたせいか、部活で楽器を吹くと、

まさゆきと遊んでいたような気持ちになるときがあるんだ。」


「そうだったんですか……楽器に名前をつけるって、なんかいいですね。

俺もちょっと考えてつけようかな……。」


田中先輩は少し考えて言った。


「鈴木君は、笑わないんだね。」


「体張ってたから、心配しましたよ。

でも理由を聞いて、どこまでかはわからないけど、理解したつもりです。」


「鈴木君はやっぱり正直だ。

理解した、って言い切らないところが。」


「え、正直っていうか……。」


「正直がしっくりこないなら……謙虚ならどうかな?」


「まじすか?」


「うん、なんとなく。」


少し照れた。


そこでミーティングが始まった。


---


山田先輩が、いつものように出欠確認をした。

後から聞いた話では、ここで確認するのは、欠席したメンバーに

必要事項を吹部のチャットルームに送るためらしい。


部長って大変だな。

こんな大所帯……全員把握してるんだ。


内田先生が話し始めた。


「先日の喜怒哀楽のワークシートの件だが、一年生は初めてだから情報が足りなかったかと思う。

だから、追加で説明する。

大きな事件や事故でなくてもいい。

例えば、給食が好物で嬉しかった、とか、

待ち合わせの約束をすっぽかされて怒った、とか、

ドラマを見て悲しくなった、とか、ほんの些細なことでいい。

いや、些細なことから感情を感じてほしい、と言ったほうがいいかもしれない。


兄弟げんか、とか、道で見た花で心が動いたとか、そういうのもいい。

あ、嘘や作り話だと、レッスンの効果が出ないから、

本当に心がそう動いたことを書いておくこと。

誰も見ないし、見ようとするな。


終わった後は事務室にシュレッダーがあるから、希望者はそこで裁断する。

持って帰ってもいいし、ファイルしておいてもいい。

質問はあるか?」


特に質問はなかった。


「では、今日はおしまい。」


内田先生の言葉の後、山田先輩の号令で

「ありがとうございました!」

と部員たちが声をそろえて部活は終わった。


多分俺がさっき質問したからだろうな。


意外にしんどい課題だった。

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