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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第3章 吹奏楽部員として
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39.グループLINEのトラブル、吹奏楽部のルール



黒沢にLINEのことを話そう。


給食後すぐ、昼休みに黒沢の横へ行った。


「あのさ、LINEのことなんだけど……。」


と言うと、黒沢はすぐに、


「あ、どうした? エラーとか出た?」


と聞いてきた。


「そうじゃなくてさ……俺、色々あってLINE、ちょっと苦手になってて……。」


そう言うと、黒沢は「あー、そっかー……。」と理解したような顔をした。


それに続けて俺は言う。


「グループLINEとかも、当分やりたくない。

手間かけて悪いんだけど、スマホのメアド書いたから、これで連絡取らせてもらえないか?」


そう言って、スマホのメアドを書いた紙を渡す。


黒沢は軽く、「OKー。」と返事をした。

そして続けて言った。


「グループLINEの8割、不要な通知で結構負担だし、

そのせいで肝心なLINEを見落としたり、

まとめてLINE嫌いになったりすることあるしな。


連絡取れれば何でもいい。ありがとう。」


そう言いながら、黒沢は俺のメモを生徒手帳のカバーに挟んだ。


——ほっと安心した。


続けて黒沢は、


「吹部はグループLINEないから安心しな。」


と言った。


---


吹奏楽部のLINE事情


入部当初、吹部には 部活LINE と 部活1年LINE があったらしい。


一部の熱心なメンバーが、練習内容の提案を夜通し送り続けたり、

夜中に突然、「明日の持ち物追加」の連絡があったり——。


そのせいで、朝の準備にバタバタし、親とケンカになったり、遅刻する部員が発生したり、

スマホに貼りつきすぎて疲弊した部員の保護者から、顧問に相談が入ったりした。


そして、顧問が LINEを廃止する ように通達を出した。


「勉強を妨げるようなことがあったら、

次に同じようなことが起きたら部活動停止になる。」


——と、内田先生は 激怒 だったらしい。


その後すぐ、内田先生は学校と交渉し、予算を確保して、吹部専用の チャットルーム を作った。

部員は学校のアカウントを使って、連絡を取ることになった。


緊急の連絡は しない。

——それがルールだった。


「これが来るかも」と思わせることで、部員がPCに貼りつくことになるから。


事前に 余裕を持って、

① 内田先生から 保護者へ連絡

② 部活ミーティングで情報共有

③ 休んだ部員には先生がチャットルームで伝達


というルールができたらしい。


---


黒沢はさらに言った。


「勉強、部活、プライベートのバランスを考える……。


それは、それぞれの価値観や状況によるけど、押し付け合いがトラブルになる。


だから、自分が主張するのと同じぐらい、相手の言い分を聞くこと。

そして、聞くだけじゃなく、理解して受け入れた上で、自分の考えを改めること。


内田先生は、声の大きいメンバーに向かってそう言ったんだけど——

正直、届いてないだろうな。理解もしてないと思う。」


だけど黒沢が言うには、その後 個人LINE のやり取りが増え、

「自分の言い分を聞いてもらおう」とする動きが広がってしまったらしい。


「うわぁ……。」


思わず声が出た。


「そうなのよ、すごい迷惑だから 既読スルー 決め込んだの。


そしたら次の日の部活で、いきなり

『黒沢! スタンプぐらい返せよ!』

って、すごい勢いでつかみかかられて——。」


喉元まで 『うるせえメンヘラ長文うぜえわ、勉強しろよ』

と言いかけたのを、飲み込んで——


『要点絞って部活中に共有すれば、1分で済むこと』


と言ったら、


「お前うざい」


って言われた。


「吹部ってうざいやつの集団だから、たくみんもメンタル気を付けてね。」


まじかぁ……。


「うん、まあ……下手すりゃ サッカー部 より、いろんな関係で圧感じるかもな。

先輩とか、女子とか、先生とか、保護者とか、近隣住民とか、小学校とか……。」


まだよくわからないけど、ちょっと恐ろしくなった。


黒沢はじっと俺の顔を見て言う。


「圧を共有できる友達が入部してくれて、俺は嬉しいよ。


吹部の男子って軽く 奴隷 だからな。


楽器運びとかさ……。

『一緒にやろう』じゃなくて、

『黒沢、あれこっち運んどいて。』

って言い捨てるんだよ……。


そのストレスと、見返したる! っていう勢いで勉強してんの。」


「そのストレスで潰れないことがすごいよ。

普通はやる気なくなるだろ。」


と言うと、黒沢は少し笑いながら答えた。


「普段、そんな扱いをしてくるやつらに、俺はイライラ してるけど、

そのエネルギーで 勉強してテストの点取って見下してやる。


全てのテストで満点取るのは、それが理由。


テストの後のやつらの顔は、俺が奴隷扱いされてイライラしてる時の顔と同じ。


スカッとしたわー!」


「黒沢、すごいな……。」


俺は思わずつぶやいた。

「たくみん、これから部活でえらい揉まれるから。 サッカー部のバカとはまた違った意味で。」


と言われて、


「え? 怖いんだけど……。」


と答えると——黒沢は少し笑いながら言った。


「まあ、金管と男同志、一緒にやろうぜ。」


そう言って、背中をぽんぽんと軽く叩いた。


——俺……また部活で、学校来れなくなっちゃうのかな……。


「たくみんが休んでる間にさ、運動会あったのよ。


その時、開会式と閉会式で演奏したんだ。 舞台慣れするために、1年初心者も混ざって、とにかく音を出す感じだったんだけど——。


その前まではピリピリしてたけど、終わったら音楽室の雰囲気、良くなったんだよな。


多分、そういうことの繰り返しだと思うんだ。


サッカーで試合に勝った後のロッカールームが毎回だと思っておけばいいよ。」


「あー……あんな感じかあ……。」


黒沢の言葉を聞いて、少し納得した。


「やっと顔上げたな。」


黒沢が、にこっと笑った。


「ごめんな。 嫌なこと、不安にさせるようなことばっかり言って。


事前に情報があったら、心の準備ができるだろうから。


いきなり何かが起きて、その場で対応するよりは、ダメージが少ないと思ったんだ。


あと——思わず愚痴ったのもあるけど。」


黒沢は下を向きながら、人差し指で顔をポリポリとかいていた。


——珍しい顔をするもんだな、愚痴ったりするんだ、と思った。


「うん、そうだな。 いきなり大変な状況に囲まれるよりは、よかったかもしれない。」


そう言いながら、今度は俺が黒沢の背中をぽんぽんと叩いた。


授業開始5分前のチャイムが鳴り、


「じゃ。」


と言って、自分の席へ戻った。


部活に出て、わかったことがある。


今まで、自分のことしか見えていなかった。


でも、人それぞれ、いろんなことを感じていて—— 傷ついていたり、おびえていたり、さまざまなネガティブな感情を抱えていることを知った。


一見、勉強ができて、先生に信頼されている 学級委員 で、 吹部でトランペットを担当していて、目立っている 黒沢 も——


実は、吹部で悩んでいたり、悔しい思いをしていた。


今度は、巻き込まれても大丈夫……かな?


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