37.【番外編:サッカー部】校長と根本の対話
「剣道部の入部のハードルは、道着や防具、道具を一式そろえることだが……鳥井の家は裕福ではないと聞いている。」
根本先生は、校長先生にそう話した。
校長先生は少し悩むように言った。
「そうですね。母子家庭で、サッカーは中学から始めたとのことです。 今回の件は何というか……人間関係の巻き込まれ事故といっても過言ではないですね。」
根本先生は静かにうなずき、提案を続けた。
「サッカー部と剣道部を兼部させてはどうかと考えています。
剣道に必要な防具は、こちらで手配します。おさがりになるとは思いますが……。
教師の仕事として、内申書に書ける文言を今から増やしておくのも大切なことです。」
そして根本先生は、じっくり考えるように言葉を続けた。
「サッカー部だから、足は鍛えていない者よりは強い。
でも、それだけでは足りない。
気持ちと上半身の強さを今から鍛えればいい。
伸びしろが見込めるのは——鳥井のみ……。」
校長先生は少し考え込み、言葉を選んだ。
「うーん……私から声をかけると、鳥井がいろいろ痛くもない腹を探られてしまい、誤解を生みかねませんね……。」
根本先生ははっきりと言った。
「私から話します。多少強引になるとは思いますが、週1回のサッカー部と剣道部の兼部を提案します。
本人の心の安定にもつながるでしょう。」
校長先生は根本先生をじっと見つめ、深く一礼する。
「よろしくお願いいたします。」
根本先生は「うむ」とうなずき、職員室へ向かって歩き出した——。