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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第1章 迷い(終了から始まり)
23/132

23.変わる部屋、変わる自分

「ただいまー。」


家に入ると、母さんが久実の勉強に付き添っているようだった。


母さんが顔をあげ、


「あら、入部したんじゃなかったの?」


と聞いてきた。


「今日、部活定休なんだって。」


と言うと、


「へー。ブラック部活って聞いてたけど、最近は休みがあるのね。」


と返ってきた。


「どういうこと?」


と聞き返すと、母さんは静かに話し出す。


「まあ、どこの部活も今はそうなんだろうけど、昔は休みなんてなかったのよ。

平日は練習、土日も練習か試合って感じで。


最近は先生という職業自体がブラックなのに、それに加えて部活の顧問までやるとなると……この問題は、ずっと解決しないと思ってた。


休みがあるなら、ちょっとは改善されたのかな?

それでも激務であることには変わりないけどね。」


知らないことばかりだ。


「有岡先生も、ブラックなのかな?」


そう言うと、母さんは少し考えて、


「学校から家に電話が来たのが、夜8時なんてこともあったわよ。


多分、それまで職員室で何かしらの業務や会議、保護者対応とかがあって、ようやく電話できたんだろうね。


あれだけの忙しさの中でも気にかけてくれてたんだと思うと、ありがたいよね。


いい先生に恵まれてよかったね。大事にするといいよ。」


自分の知らないところで、知らない時間に、気にかけてくれていた人がいた。

とんでもなく大変な人たちだ……。


「そうなんだね……ごめん。」


とぽつりと言うと、母さんは慌てて、


「あ! そういうつもりじゃなくて、責めてるんじゃなくてね。」


とすぐに言い直した。


俺も焦って、


「分かってる。知ってる。ありがと。」


と言った。


実際は、分かってなかったし、知らなかった。


それを知った時、思わず出た「ごめん」。


そして、それに対する母さんの必死なフォロー。


その全部をひっくるめて、分かってる、知ってる。

だから「ごめん」だし、「ありがとう」だった。


「俺は最近、大丈夫だと思えてきた。」


そう言うと、母さんは、


「よかった。でも、無理するぐらいなら休んでいいから。」


と優しく言った。


「うん。」


とだけ返事をして、手洗いうがいを済ませ、自分の部屋へ行って戸を閉めた。


---


色んなものが壊れてなくなったと思っていたけど、それ以外のものを見つけられてなかっただけなのかもしれない。


これから探したら、もっとこういうことってあるのかな?


だとしたら、学校は案外面白いのかもしれない。


---


机の上に無造作に置かれたサッカーのプリント、雑誌、本、用具を、左の棚にまとめて立てかけた。


広くなった机をティッシュで拭いたら、びっしりとほこりがついた。


これでなんとなく片付けスイッチが入り、小学校からのプリントを捨て、机の上には中学で使っている教科書、参考書、プリント、黒沢のノートのコピーを立てかけるスペースを作った。


引き出しを開けると、小学校で作った図工の謎の作品、雑誌の付録、マンガの帯、テストの答案——

そして、スポ少の保護者が作ってくれたミサンガが、ぐちゃぐちゃに入っていた。


俺のミサンガは、佐藤の母ちゃんが作ってくれたやつだった。


今の自分には必要なくなったと感じる。


一気にゴミ箱へ入れると、スペースが開いた。


ティッシュで拭くと、やっぱり黒いほこりがついてくる。


過去の色んなものを、取っ払った。


これから、ここに、新しいものを入れていくんだ。


---


床に散らばっていたボール、洋服、マンガを、とりあえず

マンガはマンガ、洋服は洋服、ボールは棚などへざっくりと戻す。


いつ飲んだかわからないペットボトルの中に白いカビが生えていた。

気持ち悪……。


床から物がなくなるだけで、すっきりした。


久々に、自分で窓を開けた。


暑いけど、いいもんだな。


ベタだけど、夕日って改めて見ると、きれいなんだな。


恥ずかしいから、絶対誰にも言わないけど。

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