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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第1章 迷い(終了から始まり)
21/132

21.入部届を握りしめ、迷う

朝、教室に入り、自分の席についた。

まだざわついている。


吹奏楽部の3人——黒沢と女子2人が、教室に滑り込んできた。

息を切らしながら「間に合った…。」とつぶやき、それぞれの席へ座る。

珍しく、黒沢も女子2人もぐったりしていた。


朝練って、一体何をやってるんだろう?


少し不安になる。


これを知らないままで、「覚悟できた」と言えるのかな……?


朝の会が始まり、黒沢が挨拶と号令をかけた。


……やっぱりどうしよう。


授業もほとんど頭に入らず、ただ黒板に書かれた文字をノートに写すだけの作業で手一杯だった。


考えていたのは、

「ついていけるのかな?」 という漠然とした不安。

「ホルンをもっと吹いてみたい!」という好奇心。

「もっと曲を聴いてみたい!」という期待。


スマホで検索すれば聴けるけど、近くで音を聞くと何かが違う。

それは一体何なんだろう?

ずっと、そのことを考えている。


小学校の音楽発表会とも違う。


そして何より、夢中になって時間を忘れる感覚。


多分、楽しんでいる。


でも……。


昨日の興奮のまま書いた入部届がバッグに入っている。

これを本当に、提出していいんだろうか……?


ぐるぐると考えているだけで、答えは出ない。


休み時間、思い切って黒沢に声をかけた。


「朝練って……何やってるの?」


かなり勇気を出しての質問だった。


少しだるそうだった黒沢は、その言葉を聞くと急に目を開き、

「おっ?」と声を上げた。


「今日は、学校の周りを3周。日によって違うんだよ。

呼吸練習の時もあれば、腹筋を鍛えることもあるし、朝からいきなりバカでかい音を鳴らすこともあるし。

決まったメニューはなくてさ。

俺も正直、よく分かんない。

先輩に言われるまま、従ってるだけ。


朝に聞いてやることもあれば、前日のミーティングで

『明日朝練で走るから、ジャージで登校。制服は持ってきて。』

って指示されることもある。

多分、部長とか内田先生が考えて、今の部員にとって必要なメニューを組んでるんだと思う。」


「吹奏楽部が走るのか? ジャージで登校?」


そう聞くと、黒沢は少し笑って、


「うん。運動部以上に動くぞー。」


と答えた。


「だから、朝あんなにぐったりしてたのか?」


「うん、このクソ暑い中、走るって聞いて、ちょっと命の危険を感じたわ。でも 『朝ならまだ涼しい。』って内田先生が……容赦ないわ~。」


そう言って、呆れたように笑った。


そういえば、借りた本にも書いてあったな、と思い出す。


「朝練で水筒が空になったから、さっき水道で水を入れたよ。

熱中症対策で、こっそり飴とかラムネを舐めてる。

そうしないと、もう体が終わるからな。


ラムネは、小さい折り紙で包んでおけば、口に入れたまま調整できるんだ。

あ、先生には言うなよ。


ラムネの容器とか、アルミパックのやつを持ってくると、先生が

**『誰だ!』** って指導を始めるからな。最近、いろいろ試してる。

学校では禁止されてるけど……。


朝練後、ぐったりしたまま水分・塩分・糖分を補給しなかったら、勉強どころじゃなくなるしな。」


「サバイバルだな……。」


とつぶやくと、黒沢は


「ほんと、それ。色んな意味で。」


と返した。


「色んな意味?」


と聞き返すと、


「色んな、意味。」


と、「色んな」を強調して言った。

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