02.夢が揺らぐ夜
サッカー部には、スポ小時代の先輩がいた。だから、馴染むのは早かった。
先輩のアイコンタクトもすぐに理解できたし、俺は1年の中で一番早くレギュラーになった。
部室で佐藤が笑いながら言った。
「なじむのはえーよ、お前。」
俺はその言葉が嬉しくて、すぐに返した。
「お前も早く来い。一緒に点決めるぞ。」
佐藤はいつもの調子で「おう。」と応えた。
小学校の頃は、佐藤のアシストで俺がシュートを決め、そのたびに全身で喜びを爆発させていた。
点を取られたら取り返す。それが俺たちのサッカーだった。
この関係はずっと続くものだと思っていた。
しかし、運命は突然変わる。
ある日の練習試合で、相手のスライディングが俺の左足首を直撃した。
激痛が走り、立てなくなった。
すぐに病院へ行くと、足首に微細なひびが入っていた。
2週間の松葉杖生活。
その間、俺がいたポジションには佐藤が入った。
佐藤は先輩たちとすぐに馴染み、一緒に試合に出るようになった。
俺は動けなくても、部活には行き、ストレッチをしながら先輩たちのプレーを見て学んだ。
試合になれば、どのポジションに誰がいるのか、パスのパターンはどうなるのか、メモを取りながら頭に叩き込んだ。
それが俺の「戻るための準備」だった。
しかし、ある夜。
寝る前にスマホを見ると、LINEの未読40件。
そんな数字を見たのは初めてだった。
「サッカー部LINE」と表示されていた。
とうとうできたのか。
これでやり取りができるんだな。
そう思いながら開いた瞬間、画面の中の世界が凍りついた。
「あいつ調子に乗ってるから」
「軽くバチ当たったんですかね」
「怪我してんなら、みてねーで帰れよ」
「帰ったら帰ったでなんか言いません?」
「あー確かに」
指先が震えた。
画面をスライドすると、さらに突き刺さる言葉が並んでいた。
「佐藤のほうが正直やりやすい」
「ありがとうです」
「あいつ、目をあわせるけど、シュートのことしか考えてない」
「それな」
「役割ってあんだわ」
「あいつはフォワードだったんで、それ引きずってる」
「超寒い」
目の奥がじんと痛んだ。
これは…俺のことか?
どういうことだ?
俺を招待したのは誰だ?
上へスクロールすると——
「佐藤が鈴木を招待しました」
佐藤が、俺をこのグループに入れた。
なぜ?
その瞬間、画面がぼんやりと暗くなる。
「このトークルームは表示できません」
俺は、知らないうちにこのグループから消された——そういうことなのか?
混乱したまま、佐藤のアイコンをタップした。
「あのグループで言ってたのって俺の事か?」
既読がついた。
しばらく待った。しかし、返信はない。
「っていうか、何で俺のアカウント、知ってるんだ?」
いつまで待っても既読がつかない。
サッカー部に入りたくて、中学に来た。
そのサッカー部が、俺の居場所じゃなくなったのか?
翌朝、ベッドから出られなかった。
学校に行くのが怖い——そう思ったことは、今まで一度もなかったのに。