19.ホルンの音が出た、それだけで変わる世界
朝の女子2人組が話し始める。
「ホルン、いきなり音出してたじゃん!」
「すごいよー! 私、ホルン音出なかったもん!」
「私もー。唇をぶるっと震わせるのができなくて、それでフルートにしたの。
家でヤクルトの空き瓶で練習したんだよー。」
「私も最初、先輩が優しそうだったからホルンを選んだけど、音が出せなくて…。
クラに行ったら出たの。
それで先輩が『確定!』って言ってくれたから、そのままクラにしたんだ。」
練習が終わっても、このマシンガントーク…。よくしゃべるなあ…。
黒沢が
「で、どうよ、吹部。俺、一発で音出せるとは思ってなかったから、控えめにアピールしてたんだけど、音出せたとなると話は違ってくるな。
ちゃんとした音になるまではもうちょい練習が必要だろうけど…コンクール、一緒に出よう!」
と圧強めに言ってきた。
珍しく何もかも忘れて没頭した。
あれは気持ちよかった。
サッカー以外で、ここまで夢中になったことはなかったかもしれない…。
あ、ゲームは別だけど。
「うーん、もうちょい考えるかなー。内田先生、めっちゃ怖かったし…。」
そう言うと、3人がそろって、
「それな。」
と声を揃えて言い、俺もみんなも一緒に笑っていた。
部活での内田先生の厳しい指導の後、それでもこうして笑っている。
この切り替え、どこから来るんだろう…。
今の俺は…?
それでも、今日の体験は今までにない興奮だった。
発見の連続で、時間があっという間に過ぎた。
内田先生は「1時間で終わらせる」と言っていたけど、結局2時間も居てしまったな。