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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第1章 迷い(終了から始まり)
18/132

18.音楽の世界に、性別は関係ない

内田先生が静かに言う。


「もうすぐ来る。」


先輩2人も、顔に「?」が浮かぶ。


そして——


「3、2、1……」


カウントがゼロになった瞬間——


ゴンゴンゴン!


勢いよくドアが叩かれた。


そして


「うっちー! おひさー!」


ハスキーな声が響く。


入ってきたのは、青髪、銀の音符ピアス、黒白のTシャツ、ジーンズ。


美人? イケメン?


とにかく、強烈なオーラをまとった人物。


「お、来たな。」


内田先生が軽く言うと、青髪の人がサッと近づく。


「この子たちかな? 今日のレッスンは?」


「3年、2年と、入部するか迷ってるけど、今日はとりあえずホルン体験でぶち込まれた1年。」


俺も含め、3人がぽかんとする。


内田先生は続けて紹介した。


「『アルコバレーノ・ウインド・オーケストラ』のホルン奏者、松下あおい。」


「松下でーす、よろしくね!」


笑顔。


ハスキーボイスが印象的だった。


俺たち3人は、慌てて「よろしくお願いします!」と頭を下げる。


松下さんは軽く頷きながら、俺のほうを見て聞いた。


「楽器に触るのは今日初めてかな?」


「あ、はい!」


答えると——


「挨拶代わりに。」


そう言いながら、大きいバッグからホルンを取り出す。


銀色に輝くホルン。


思わず


「かっけぇ……。」


とつぶやいた。


松下さんはニヤッと笑いながら言った。


「そうでしょ。でも、ちょっと重いんだよね。」


楽器を脇に抱え、バッグを閉じる。


そして構える。


音を出すと次の瞬間、メロディが始まる。


『レット・イット・ゴー』——アナと雪の女王。


「ありのままの姿見せるのよ

ありのままの自分になるの

何も怖くない 風よ吹け

少しも寒くないわ」


……ホルンで聞くと、別物だった。


信じられないくらい、綺麗な音色。


松下さんは吹き終わると、軽く微笑んだ。


「地味な楽器って思ったでしょ?

最初は私もそう思った。だから選んだの。

だけどハマって続けて——気づいたらプロ。

楽器が地味な分、自分が派手になった。」


そう言って、明るく笑う。


そして、続けて——


「でもね、こうしてプロになったのは、うっちーの影響がデカい。」


少し真剣な表情になる。


「今ほどLGBTQについて理解がなかった時代——なんとなく、世の中にあるんだろうね、くらいの認識だった頃。

自分は男性なんだけど、女性の恰好をしたいって思ったんだよね。

うまく言えないんだけど……学校が息苦しくて。

当時はブレザーじゃなくて学ランだったから、無言の男のプレッシャーを背負わされてる気がして。」


松下さんは続ける。


「男子の中に溶け込めなかった。

その頃、ホルンって女子率が高くてさ。

そこで居心地の良さを見つけて——なんか、女性の先輩とホルンを吹いてる間だけは楽だったんだ。

それで、うっちーにちょっとそういう話をしたら——


『音楽の世界なら、腕さえあれば性別は関係ない。』


って言われた。」


そして——


「それがきっかけで、ひたすら練習しまくった。

あと勉強もね。主席で大学卒業できたから、スカウトされて、そのまま今のオーケストラに在籍してるの。」


最後は、また明るく笑った。


聞きたかったこと以上の話を聞けた気がする。


【ホルン初挑戦——音を出せるか?】


松下さんは俺たちにマウスピースを渡した。


「これを口の真ん中に当てて——。」


真似してみる。


「じゃあ、息を吹いてみようか。」


言われた通り——ふーっと息を通す。


何も鳴らない。


松下さんが笑いながら言う。


「大丈夫! 最初はみんな出ないから。」


そして、少し手を添えてくる。


「口の両端を固定して——力みすぎないように。」


もう一度、息を吹く。


……微かに、音が出た。


「お! でたでた!」


高橋先輩が嬉しそうに言う。


「すごいね、初めてで音が出るのはいいこと!」


「……本当ですか?」


「うん、最初はみんな出ないから。今の感覚、覚えておいて!」


俺はホルンをじっと見つめる。


音が出た——それだけで、ちょっと嬉しい。


この楽器、もしかしたら——


悪くないかもしれない。

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