表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第1章 迷い(終了から始まり)
14/132

14.吹奏楽部の現実、決断の時?

次の日、黒沢が本を渡してきた。


「何これ?」


「これ、読んでみて。」


パラパラとめくると、イラストの大きい本だった。


「これは?」


「『あるある吹奏楽部』っていう本。

吹奏楽部の日常が書かれてる。

入ってほしいんだ、男子少ないし。」


黒沢は少し真剣な顔をする。


「実は女子の圧が強くて俺は精神えぐれてる。

だから、俺のメンタル的に鈴木に入ってほしいってのは正直ある。」


……そんなにか?


「華やかで明るい印象だけで入ると痛い目見る。

俺、この本、小学校のときから読んでた。」


思ってたより、ガチだったらしい。


「中学入ったら、吹奏楽部もサッカー部もPC部も囲碁将棋部も、全部やりたかったんだ。

でも兼部できる中学の受験に落ちて……消去法で吹奏楽部に入った。」


黒沢は目線を落として、少し笑う。


「勧誘と仮入部の時は、笑顔と優しさとひたすらほめる。

そういう風にできてる。

でも俺、この本読んでたから、『あー、はい、手口っすね』ってわかってた。」


軽く肩をすくめる黒沢。


「だけど、何も知らない鈴木が入って地獄を見るかも……って思うと、だましたくなくなった。」


「これ読んで、ひよったら、来ないほうがいいと思う?」


「わかっててもきつい、しんどい。でも、なぜか気持ちよくて楽しくて、クセになるんだよな。」


黒沢はニッと笑って、もうひとつ紙を渡してきた。


QRコードが書かれた紙——手書きで「俺のLINEアカウント、トップシークレット!」


「俺、グループLINE嫌いなんだ。個人とのやり取りだけにしてる。」


そう言い残して、黒沢は自分の席に戻った。


俺は渡された本と紙をそのままバッグにしまった。


---


帰り道と、サッカー部との距離


一人で帰る道——。


グラウンドでは、サッカー部が練習していた。


誰も俺に気づいていない。


パス練習とジグザグ練習か……。


そのまま通り過ぎる。


サッカー部員は誰一人、俺に気づかなかった。


……あれ?


「俺、もう、サッカー部の一員じゃないんだよな。」


そう思うと、少しだけ空気が変わった気がした。


だけど——


帰りに誰かとくだらない話をしながら歩くの、結構いいよな。


テストのことを考えると心は重いけど、前みたいな息苦しさはなくて。


小学校時代のふざけ合いの延長みたいなのがあって、楽しかった。


「あれ、もうちょっと続けられたらいいな。」


まだ明るい——そして、もう暑い。


青空が、なんかワクワクする。


速足で家へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ