14.吹奏楽部の現実、決断の時?
次の日、黒沢が本を渡してきた。
「何これ?」
「これ、読んでみて。」
パラパラとめくると、イラストの大きい本だった。
「これは?」
「『あるある吹奏楽部』っていう本。
吹奏楽部の日常が書かれてる。
入ってほしいんだ、男子少ないし。」
黒沢は少し真剣な顔をする。
「実は女子の圧が強くて俺は精神えぐれてる。
だから、俺のメンタル的に鈴木に入ってほしいってのは正直ある。」
……そんなにか?
「華やかで明るい印象だけで入ると痛い目見る。
俺、この本、小学校のときから読んでた。」
思ってたより、ガチだったらしい。
「中学入ったら、吹奏楽部もサッカー部もPC部も囲碁将棋部も、全部やりたかったんだ。
でも兼部できる中学の受験に落ちて……消去法で吹奏楽部に入った。」
黒沢は目線を落として、少し笑う。
「勧誘と仮入部の時は、笑顔と優しさとひたすらほめる。
そういう風にできてる。
でも俺、この本読んでたから、『あー、はい、手口っすね』ってわかってた。」
軽く肩をすくめる黒沢。
「だけど、何も知らない鈴木が入って地獄を見るかも……って思うと、だましたくなくなった。」
「これ読んで、ひよったら、来ないほうがいいと思う?」
「わかっててもきつい、しんどい。でも、なぜか気持ちよくて楽しくて、クセになるんだよな。」
黒沢はニッと笑って、もうひとつ紙を渡してきた。
QRコードが書かれた紙——手書きで「俺のLINEアカウント、トップシークレット!」
「俺、グループLINE嫌いなんだ。個人とのやり取りだけにしてる。」
そう言い残して、黒沢は自分の席に戻った。
俺は渡された本と紙をそのままバッグにしまった。
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帰り道と、サッカー部との距離
一人で帰る道——。
グラウンドでは、サッカー部が練習していた。
誰も俺に気づいていない。
パス練習とジグザグ練習か……。
そのまま通り過ぎる。
サッカー部員は誰一人、俺に気づかなかった。
……あれ?
「俺、もう、サッカー部の一員じゃないんだよな。」
そう思うと、少しだけ空気が変わった気がした。
だけど——
帰りに誰かとくだらない話をしながら歩くの、結構いいよな。
テストのことを考えると心は重いけど、前みたいな息苦しさはなくて。
小学校時代のふざけ合いの延長みたいなのがあって、楽しかった。
「あれ、もうちょっと続けられたらいいな。」
まだ明るい——そして、もう暑い。
青空が、なんかワクワクする。
速足で家へ向かった。