11.俺も、こんなふうに笑うんだ
「一緒に帰ろうぜ。」
放課後、黒沢が声をかけてきた。
部活が休みだから、何人か一緒だった。
クラスは違うらしいが、なんとなく友達っぽい雰囲気の連中。
「テスト範囲、教科書こんなん。」
黒沢が人差し指と親指で厚さを測ってみせる。
バスケ部とバレー部のやつ——名前は覚えてない。
バスケ部のやつが突然話し始めた。
「俺、昨日LINEで那美に振られた。」
バレー部のやつが即答。
「またか。」
黒沢も淡々と。
「ドンマイ。」
「それだけかよ!LINEであっさり『付き合ったら冷めた。てか覚めた。別れて。』って。もう俺テスト勉強できねえよ!」
叫ぶバスケ部のやつに、黒沢は冷静に返す。
「うん、言い訳。点数低い時の保険。人のせいにしない。」
「お前、ちょっとそういうところ!なんつーか、ロボット?」
バスケ部が食ってかかると、黒沢は不敵な笑み。
「何とでも言え。面白いから、もっとえぐってやりたくなる。」
そして、さらなる追撃——
「多分、お前、アホな部分出してなかったんだろ?」
バレー部のやつが笑いながら頷く。
「あっ、ほんそれのやつ。
あの子さ、最初バスケ部の時のこいつがシュート決めてて『かっこいい!』ってフィルターでしか見てなかった。」
黒沢:「お前、バスケフィルター外れたら、ただのアホだもんな。」
バスケ:「アホちゃうわ!勉強もやってるわ!」
バレー:「いや、アホだよ。この間、社会の小テストでさ——」
「徳川5代目将軍の名前と代表的な政策を説明しろ」って問題、こいつの答え——
『徳川家犬、動物愛護法:生き物全てに愛を注ぐ仏教精神』
先生に読み上げられて、爆笑されてたじゃん!
黒沢:「お前バカ、すげーバカ。いやある意味天才。頑張るなら、ほんと頑張って。回答、どこから突っ込めばいい?」
バスケ:「もういい、やめて。分かったの、ちゃんと。徳川綱吉、生類憐みの令……」
黒沢:「いえいぬ…。」
バスケ:「うるせーって!」
黒:「『生き物全てに愛を注ぐ仏教精神』って……仏教と神道が混ざってるぞ。」
バスケ:「そこは突っ込まれてない……けど、もういい。しんとう? 新しい党? 政治?」
黒沢:バレー:(爆笑)「こいつは天才だ。」
バレー:「やべー。家犬って書きそう……綱吉綱吉綱吉……。」
バスケ:「徳川の家って家康とか家光とか、ずっと『家』が続いてるじゃん!混乱したんだよ!」
バレー:(自分に暗示をかけるように)「綱吉綱吉綱吉……。」
黒沢:(横からささやくように)「家犬家犬家犬家犬……。」
バレー:「やめろ!混乱する!」
——つられて俺も笑ってしまった。
「お前は、先にアホな面を出してから、バスケでかっこいいところを見てもらったほうがいいかもしれないな。そしたらギャップ萌えってやつでモテるから。」
黒沢が分析する。
バレー:「うんうん。」
黒沢:「明日、うちのクラスにもその情報流しといてやる。『あいつアホだぜ』って。いいネタ入った。」
バレー部のやつが頭を抱える。
「やべえ、悪魔だ悪魔。黒沢と書いて悪魔って読む……。」
ふざけている。
俺も、それにつられて笑っていた。
突然、バレー部のやつがこっちを向く。
「お前はモテるからいいよな。女子がほっとかないだろ。」
「まじで1人紹介しろ!俺は今、心が傷ついてる。女子のいたわりを必要としている!」
バスケ部のやつが真剣な顔で言う。
俺は少し考えて——
「そういうことは、ないと思う。」
するとバスケ部がジト目で言った。
「無自覚モテか、天然か、まじなのか。」
黒沢がすかさず突っ込む。
「はい、ひがまない、ねたまない。今、とっても醜いお顔になってるよ。」
バスケ部のやつは、両手で自分の顔を「びしっ」と叩いた。
「——あーもう!テストでトップ取って注目浴びてやる!」
雄叫びを上げる。
黒沢が棒読みで返す。
「はい、頑張れー。」
なんか、こう——雑談の中に自分がいることが、不思議だ。
俺が思うほど、他人は俺に関心を持ってないのかもしれない。
もっと言うと部活に入っているかどうかなんて関係なく、つながれることもあるんだと、少し感じた。