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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第4章 吹奏楽コンクールへ練習と準備の日々
100/132

100.カットされた音、崩れる心

今日から、9時~18時までの練習となった。

お昼休憩は30分間——。


朝は、個人で音出しを20分。

その後、2時間かけて基礎練習。

ロングトーンから始まり、さまざまなタンギング練習、基礎合奏——。

終わったら、少し早い昼食をとり、午後はすぐに合奏。


今日は、課題曲を集中練習するとのことだった。


基礎練2時間って、想像以上に体力も神経も使うんだな。

話をする暇もなく——食べて、うがいして、トイレに行って、 音を出すだけで終わる。


内田先生による課題曲の合奏。

ハーモニーディレクターでテンポを確認する。


内田先生は、指揮台の手前に机を置き、 講談師が持っている白い棒のようなものを使って、 バチンバチンとリズムをとっていた。


「頭から、3.4!」


そう言うと、一斉にブレスをして音を出す。

2つ目の音を出したところで、ストップがかかる。


「和音も音程も入りもボロボロ!

頭からそんなんじゃ、審査員が聞く気なくすんだ!

集中しろ、もう1回!」


部員の気合の入った返事の後——

内田先生は、再度「3.4!」と合図を出す。


やっぱり、2つ目の音を出したところでストップがかかる。

「ロングトーンで。」


内田先生の合図で出してみる。

その後、2分音符、4分音符と短くしていく。


「低音が遅れて聞こえる。少し早めに出すこと。」

低音パートの返事が響く。


カリカリと譜面に書き込む音——。

内田先生の「3.4!」に合わせて、再び音を出す。


「全然合ってない! 遅れてるんだ!

拍の頭に音が揃わないと!」


パートごとにロングトーンで重ねながら、 低音→中音→高音→低音から中音→高音へと、順番に切る。


それを少しずつ短くしていく——。

……という作業を、最初の1小節で2時間かけてやった。


これ、間に合うのか?

軽く計算しても、間に合わないんだけど。


内田先生は、ついに——

「1人ずつ。」

と言った。


とんでもなく重苦しい雰囲気の中、1人ずつ——。


3年生でも——

「音程揺れてる。」 「もうちょい、はっきり切って。」 「3つ目の音からテンポが走ってる。」

などと注意を受ける。


その都度、返事をし、書き込んで、やり直し——。


OKが出たら、次の人、という流れだった。

クラリネットから始まった。

2年生の先輩も——


「口元、少しくわえ過ぎ。もうちょっと緩めて太い音で。」 「口元は緩めるけど、タンギングは明確に。」

などと注意され、3年の先輩同様に書き込み、やり直し——。


OKが出たら、次の人へ——。

1年生。


今年からクラリネットを始めた人たち。

「楽器が鳴ってない! もっと息を吹き込め!」

「息を吹き込もうとしたら、音が遅れてるだろ!」

「リードミスになるくらいなら、もう少しくわえる力を強めて!

苦しいなら、腹筋を鍛えろ!」

「何度も同じことを言わせるな!

先輩たちへの注意は、同じメロディをやるなら聞いておけ!

できるように準備しておくんだ! これは全員、そうだ!

自分らの番が回ってきた時に、同じ注意をされないようにしておけ!」


……もう地獄なんだけど……。


クラリネットだけで30分過ぎてる——。


これだけ楽器を吹いていない状態で——

いきなりホルンで音を出せって言われても——

もうエアコンで唇が冷えて、まともに出せそうにない。


「ホルン。」

ついに、呼ばれた。

絵馬先輩が音を出す。

「もうちょい、出せるか?」

という内田先生の問いに——

絵馬先輩は「はい。」と答え、2回目に挑む。

「3番目の音になると不安定になる。

最初の勢いのまま、この2小節は進むんだ。

もう1回!」


「はい。」

返事の後、再び吹く。

OKのようだった。


「次。」


内田先生の声——俺だ。

内田先生の「3.4!」に合わせて音を出す。

音を2つ出したところで、ストップがかかる。


もう1回。

また同じパターンを3回——。

そして——


「話にならんな……。鈴木は頭3小節カット。

4小節目から入ってこい。」


と言われた。


……え? カット?

「カットとは、そこは吹くな、という意味だ。

音程もタイミングも切り方も全く合わない。

何を練習してきたんだ。

カットだ!

吹いてるふりして、息を吹き込んで指を動かして音を出すな。

次、ユーフォ!」


……。


グサッと来すぎて、息が詰まった。

合わない原因、俺だった?


涙が止まらなくなった。

最初の小節でカットになったのは——

俺とトロンボーンの1年生だった。


「全体で!」


という先生の声で、一斉に構える。


俺は、音を出さない。


息を吸って、吹き込んで、指を動かす——。


合ったようだ。


合奏は、先の小節へ進む。


涙が止まらず、吹いている——。


実力不足と緊張とメンタルやられて、もう帰りたい。

内田先生が怖い。

もう、ずっと吹いてるふりでいいですか?

って思い始めた。

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