10.選択を待つ
職員室の隅で、内田先生と有岡先生が話し始めた。
「鈴木、入りますかね?」
有岡先生が静かに尋ねる。
内田先生は腕を組み、少し考え込む。
「どうかな……。
まあ、運動部より厳しくて面食らうかもしれない。
それですぐ辞めてしまうよりは、鈴木自身が納得する部活を選んでもらえたら、それでいいと思ってる。」
有岡先生も少し間を置いてから言った。
「ただ……もう他の部活は雰囲気ができ上がってしまっています。
途中入部で、本音で歓迎されるというのはなかなか難しいでしょうね……。
レギュラー争いで心が折れている鈴木にとっては、吹奏楽部か情報技術部、囲碁将棋部、美術部あたりになるかと思うんですが……。」
内田先生はゆっくり頷く。
「もう一回黒沢にかけてみます。」
有岡先生も同意した。
「そうですね。私もちょっと声をかけてみます。」
そう言って、自分の席へ戻る。
内田先生は考えていた——
本当に嫌だったら、断るはず。
断れないほど弱っているなら、音楽は力になれるかもしれない。
——現に、あの子は少し反応していたように見えた。
音楽の世界には、色んな景色がある。
今度は、ステージライトと拍手を浴びる景色を——。
その先は、自分で歩けるはずだ。
吹奏楽部とは、そういう部活なのだから。
鈴木——。