濃霧異変 21 これからについての相談
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この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
霊廟のはなれにある光凛の寝室で、鏡也は寝台に寝かされていた。
「光凛は……我が君のご様子をどう見ますか?」
そんな鏡也を見守りつつ、美波は話を振る。
「なんと言うか……そう、丸くなった」
2000年前の彼は、余裕が無かった。
いつも思い詰めたような顔をして、非情な決断を下していた。
外界からの侵略者と戦うためには非情にならねばならなかった。
己の指示で、配下が犠牲になっていく。
厳しい戦いが彼を変えた。
彼は優しく、人の痛みを知ることの出来る神だったが、全てを背負い込んで非情になったのだ。
「今の我が君と、あの頃の我が君。……どちらがいいと思いますか?」
「それは……今の我が君だ。我が君は本来お優しい御方。辛そうなお顔は見てられない……」
2000年前、光凛は日々の仕事で忙殺され、鏡也を支えることが出来なかった。
優れた治癒士である彼女が戦時に忙しくなるのは当然のことなのだが、当人は今もそれを悔いているのだ。
「そうですね。私もそう思います。ですが……萃香様は恐らく、我が君を旗頭に再び背理神に決戦を挑むつもりでしょう。そうなれば我が君は……」
また、2000年前の冷酷な彼に戻ってしまうかもしれない。
「それは……避けなければいけない。となれば……他のお二方を見つけて説得するしかない……か……」
一見すると萃香を説得するという選択肢もあるように思えるが、それは違う。
萃香はあくまで主戦派の一角に過ぎず、仮に説得出来ても別の誰かが鏡也を担ごうとするだけだ。
鏡也の代わりとなる神輿を用意しなければ、根本的解決にはならないのである。
そして他の神輿になりうる人物。それこそが、他のお二方こと鏡也の弟達だ。
鏡也の弟は三柱いたが、一柱は既に亡くなっている。
残る二人を見つけ出して説得出来れば問題は解決するし、よしんば説得出来ずとも無理矢理担ぎ上げてしまう手もある。
「恐らくお二方ともそれを警戒して姿をくらませておられるのでしょうから、一筋縄ではいかないでしょうね」
「そうね。それに、悔しいけど私達だけじゃ力不足ね……」
戦闘力も情報収集力も足りていない。
「はい。敵は主戦派だけではないですし」
主戦派と一口に言っても、霧也を担ぎたい少数の「霧也派」と、それに比べればかなり多い三男の識神全也を担ぎたい「全也派」がおり、そこに新たに「鏡也派」が誕生した形になっている。
しかしもちろん、戦いを避けたい者達……いわゆる非戦派が存在する。
幻想郷では主戦派が有力なために表立って活動はしていないが、鏡也にとって一番危険なのはこの非戦派だろう。
非戦派にとっては鏡也など争乱の火種でしかないのだ。
存在を知られれば、真っ先に命を狙われるだろう。
「非戦派ね……。誰がそうなのか分かってるの?」
「天壌楽土には非戦派が多いとは聞いたことがありますが……。ハッキリと誰とは……」
非戦派のやっかいな所は隠れている所だ。
表立って主張はしないのに、確かに存在し認知されている不思議な勢力なのである。
それもそのはず。
非戦派というのは要は戦わずに降伏しようという意見なわけで、主戦派からしたら真っ先に排除しなければならない勢力なのだ。
主戦派が主流な幻想郷では表立って活動出来ないのも無理はない。
「やはり、味方を増やす必要がありそうね」
鏡也の安寧を願ってくれる人物。
居所が割れていて、それなりに力を持ち、出来れば身軽に動ける人物だとなお良いだろう。
「それはそうですが……外界戦役以前からの我が君の支持者となると……」
その殆どは種族間大戦期に彼と共に戦った者達ということになる。
しかし、それらの多くは外界戦役で戦没しているのだ。
「アマリティア卿なら協力して下さるかもしれませんが……」
アンネローゼ・アマリティア。
今は魔界で吸血鬼陣営の盟主をしているが、かつては対立する七王家の戦争の間に入って停戦させたりしてウザがられ、命を狙われていた時期もあった。
そんな時、アマリティアを保護したのが鏡也だったのである。
性格も相性が良く親友と言っていい間柄だったが、外界戦役が始まって冷徹になった鏡也とは馬が合わず仲違いしたという経歴を持つ彼女は、きっと今の鏡也のために協力してくれることだろう。
とはいえである。
「誰にも気付かれずに面会出来る相手ではないね」
吸血鬼陣営の盟主であるアマリティアと会うには、誰かしらを通して面会の約束を取り付ける必要があるし、そもそも魔界へ出向かなければならない。
畜生界担当の美波が行くのは不自然過ぎるし、光凛は魔界の環境と相性が悪い。
「他には……。そうだ。蒼炎の魔女は?」
「ああ。ラズリエーラですか……。それなら今は魔界でオリヴィエ様に仕えていますよ」
蒼炎の魔女ラズリエーラ。
夢魔族が誇る英雄の一人だが、性格は少々難ありだ。
人を燃やすのが大好きで、男の好みは燃えやすい人という変人なのである。
「あの魔女を従えたのか……。流石は神祖様……。我が君はよく燃えるって好かれてたからもしかしたら……と思ったのだけど」
強い者は、その力によってラズリエーラの蒼炎が効きづらいことが多い。
一方弱い者では、塵も残さず滅却されてしまう。
難儀な所だが、鏡也は何故かよく燃えたのでラズリエーラには好かれていた。
「それに、今は幻影の魔女も一緒にいます。接触は避けた方が良いかと」
幻影の魔女アトリエーラ。
ラズリエーラの姉でこちらも夢魔族の誇る英雄の一人だが性格はやはり難ありで、自分が生み出す美しい幻影が大好きな、ある意味のナルシストだ。
鏡也は彼女が生み出す幻影より美しいのでかなり嫌われていた。
「うーん。となると、術聖を頼るしかないか……」
十二霊術にそれぞれ一人ずつ存在する《術聖》の称号で呼ばれる者達。
彼らはただ強力な術者であるだけではなく、その術に革命的な変化や進歩をもたらした故にそう呼ばれている。
「術聖は全員行方不明です」
「全員ってのは怪しいな。そう簡単にくたばるような人達じゃないはず……。何か掴んでるんじゃないの?」
「まあ、一応は。永遠亭にたまに顔を出して八意永琳と話している小柄な娘がいるそうなのですが……」
それを聞いて、光凛はピンと来た。
「なるほど。仙術の術聖……《小さな大仙人》榊原ヒバナね」
「おそらくは。あまり俗事に興味の無いお方ですが……接触してみる価値はあるかもしれません」
味方になる見込みは薄いが、同時に敵にもなりそうにない人物だ。
当たってみる価値はあるだろう。
「ん……んん……」
「? 我が君? ……うなされておられる……?」
「これ、起こした方が良さそう」
話は中断され、二人は鏡也に呼びかけるのだった……。




