濃霧異変 20 破壊と滅亡の気配
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この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「なんだ……? ここは……?」
そこは破壊と滅亡の気配に満ちた、光の無い黒き場所だった。
上下も左右も無く、広さすらない。
「俺はたしか……」
《明鏡止水》を発動して感覚を遮断し、己の内面へと意識を落とした。
しかし《明鏡止水》は本来、意識を内面に落として己の霊力や精神力を鮮明に感じ取ることで実力以上の術を行使するためのものだ。
しかしここには、ただ破壊と滅亡の気配があるのみ。
霊力も精神力も、感じ取れない。
「深く潜り過ぎたか……?」
霊力は魂から溢れ出る力だ。
精神力はその名の通り、精神に宿る。
つまり《明鏡止水》は深く潜り過ぎれば、精神や心にまで潜れてしまう可能性があるということだ。
「初めてやるわけだし、ありえなくもないけど……」
己の心に破壊と滅亡しか無いとは、流石に思えない。
では、ここは何なのか。
「戻り方は……わかるんだけどな」
ここでもう一度《明鏡止水》を発動すればいい。
「ま、戻り方がわかってるならここのことを調べてからでも遅くないよな」
とはいえ調べるにしても、前後左右すら存在しないここでは動けもしない。
手も足もあるが、地面が無いので歩けないし、飛んで行くにしてもどこに行けばいいのかサッパリわからないのだ。
「となると手がかりになりそうなのは……やっぱりこの気配かな」
破壊と滅亡の気配。
何も無いこの場所に、それだけが満ちている。
何か原因があるはずだった。
「気配の元を探すか? それとも別の気配を探したほうがいいかな? ま、どっちみち同じことか」
長居は出来そうにない。
濃密な破壊と滅亡の気配が、鏡也の精神を蝕み始めていた。
鏡也は意識を集中し、充満する気配と向き合うのだった。
◆◇◆◇◆◇
「ここです! 銀龍式刀剣術・秘伝《駿遍征討》ッ!」
ついに美波は反撃の隙をつくりだし、必殺の一撃を解き放った。
「っ!《悠透無辺》」
光凛は一時的に自身を高次元に避難させることで攻撃を躱す技能権能で無理矢理避けるが、この技は消耗が大きい。
形勢が傾いた瞬間だった。
実力差というよりは、光凛の実戦の勘がまだ戻りきっていなかったことが原因だろう。
攻守が逆転する。そう思って即座に頭を切り替えた。
「……?」
追撃が来ない。
それどころか、美波はよそ見していた。
あまりにもありえない光景に、攻撃することを忘れて彼女の視線の先を追う。
「我が君……?」
視線の先には鏡也がいた。
一人で立っている彼は、とても無防備に見えた。
目を瞑っており、心ここに在らずという様子だ。
護衛するべき主君が、無防備を晒している。
美波と光凛は一度顔を見合わせると、刀を納めて戦闘態勢を解く。
喧嘩より、主君の護衛を優先するべきだ。
今度こそ、失わぬように。
「久しぶりに暴れたわ」
光凛は運動を終えて気分がいいと言わんばかりにホクホク顔で地面に降り立つ。
「他に言うことがあると思いますが」
美波も地上へ降り立つと、僅かに乱れた服装を整える。
「酷いことを言ってごめんなさい」
光凛は素直に謝って頭を下げた。
「素直ですね。わかりました。許します」
十劉傑が争うことを、鏡也は望まないだろう。
それに美波も、歳下に対していつまでも根に持つ程狭量ではない。
「……おかえりなさい。光凛」
後輩がふたたび力と生きる理由を取り戻したことは、素直に喜ばしい。
「ありがとう……ございます。先輩……」
照れくさそうに、光凛は俯く。
「では、このままでは寒いでしょうし、我が君を中へ運んでしまいましょうか」
美波はさっさと切り替えてそう言うと、少し考えてから自分の持つ方を決めた。
「私が上半身を持ちます」
古龍人の膂力をもってすればまずないことではあるが、万が一手を滑らせでもして落としてしまった場合、責任が重いのは明らかに頭側だ。
先輩として、そちらを優先して持つのは当然の判断だろう。
「わかった」
切り替えの速い先輩に感謝しつつ、光凛も足側に回る。
二人で慎重に持ち上げると、建物の中へと入って行くのであった。




