濃霧異変 19 とどかぬならば
Twitter→https://x.com/yudora_naruse?t=NXot8S_6i15vALkK1tmwyg&s=09
この作品は東方Project様の二次創作です。
※オリキャラ多数
※独自設定多数
※キャラ崩壊そこそこ
※投稿不定期
以上の点に注意してお楽しみ下さい。
「ハァァァァ!!」
光凛の鋭い連撃をかろうじて捌きながら、美波は表情を僅かに歪めた。
努力では辿り着けない、選ばれし者の領域。
宿星の勇者が、目の前にいた。
アマテオラの輝きをその身に宿し、目の眩むような速度で突きを放ってくる。
美波は血筋的には貴族の出身だ。
龍人族の貴族は純血に近く、それは稀に産まれてくる古龍人にも影響する。
平民出身の古龍人は、そのほとんどが下位古龍人か中位古龍人として産まれてくるのだ。
美波は上位古龍人であり、中位古龍人の光凛に比べれば基礎能力で勝っている。
格による能力差は種族によって違い、古龍人の場合はそれ程大きくはないが、それでも確実に差は存在するはずだった。
「それでも。私の剣はとどかなかった」
かつて、まだ光凛が勇者の力を使いこなせていなかった頃のことだ。
二人は序列を決めるために本気で斬り結んだ。
鏡也が自ら審判を務めたその試合は、美波の優勢で進んでいった。
だが、光凛が土壇場で勇者として覚醒して宿星の力を得ると、戦況は一転したのだ。
とどかなかった。掠りこそしたものの、それが限界だったのだ。
戦闘向きとは言えないアマテオラですら、種族としての格の差を覆してしまう程の力を発揮する。
それが宿星であり、宿星の勇者だ。
「ならば……」
目の前に、超えるべき壁がある。
ただ、それだけのことなのだ。
難しいことを考える必要は無い。
とどかなかったのであれば、とどくまで剣を振るまでのこと。
「《鳴瀧》。行きますよ」
愛刀にそう語りかけ、雑念を払ってただ一人の剣客となる。
「我。剣に生まれ、剣に生き、剣に死せるを望む者なり。《剣客宣言》発動ッ!」
剣気が立ち上り、周囲を圧する。
その重圧は、地上にいる鏡也の元までとどいていた。
「おっかないな。これからあれを制御してかなきゃいけないのか? 冗談キツいぞまったく。話しかけただけで斬られそうな勢いなんだけど?」
剣客宣言。宣言系の技能権能の一つで、剣を用いる攻撃しか出来なくなる代わりに身体能力、斬撃、斬撃耐性等を一時的に上昇させることが出来る。
攻撃の手札が減る分単調になる危険はあるが、これで光凛の速度にも反応出来るようになるだろう。
「銀龍式刀剣術・奥義《龍瑞苛閃》」
《鳴瀧》で攻撃するしかなくなったが故に戦術の幅が狭まり、その分意識を剣に集中出来るようになった。
美波は今や、光凛と同等に闘っていた。
「ならば……! 光鳳嵐翼!」
光凛の翼が光に包まれ、羽ばたく度に光刃が放たれる。
「銀龍式刀剣術・奥義《龍絶蘭》」
光凛の激しい攻撃を、美波は丁寧に受け潰していく。
しかし攻撃に回れる程の余裕は無く、二人の闘いは膠着して持久戦の様相を呈し始めた。
「まあ、だいたいこうなるよな……」
強者同士の闘いは、大技での短期決戦かチマチマとした削り合いになりがちだ。
このまま削り合いを続ければ、霊力の総量が多い美波が有利に思える。
しかし光凛には因果の力がある。
どちらが勝つかは予想がつかない。
「一つわかることがあるとすれば……」
どちらが勝ってもいいことは無い、ということだ。
こんな無意味な闘いは終わらせるに限る。
「でも割って入るのはなぁ……」
刺身のように綺麗に捌かれそうだ。
「……あの二人は、俺の護衛なんだよな……? だったら……」
上手くいくかはわからないが、やってみる価値はある。
あの二人に今も鏡也を護る気があるのか、それを確かめることにも繋がるだろう。
「《明鏡止水》」
六感は消え、鏡也の意識は内面へと落ちていった……。




