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東方二次創作【識神譚】  作者: 遊鑼鳴世
第二章 濃霧異変
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濃霧異変 13 食堂にて

Twitter→https://x.com/yudora_naruse?t=NXot8S_6i15vALkK1tmwyg&s=09


この作品は東方Project様の二次創作です。

※オリキャラ多数

※独自設定多数

※キャラ崩壊そこそこ

※投稿不定期

以上の点に注意してお楽しみ下さい。

「では、これらの家具は後ほどご自宅までお送り致します」


小一時間程かけて家具選びを終えると、咲夜がそう言って早速どこからか妖精メイドを持ってきて指示を出していく。


「それはありがたいけど……。家がどこだか知ってるのか?」


「人里にはそれなりのツテがあります。すぐに分かりますよ」


紅魔館が人里の経済活動の3割近くを牛耳っていることを鏡也は知らなかったが、何らかの形で関与しているらしいことは感じっとた。


「そういうものか。なら、悪いけど頼もうかな」


何もなかったところから、一通り生活に必要な家具を選んだのだ。

これだけの数を一人で運ぶとなれば何往復もしなければならないし、かと言って翠香に運ばせるのも申し訳ない。

ここは厚意に甘えておくべきだろう。


「はい。ところで、お食事の用意が出来ておりますが、いかがなさいますか?」


本音を言えば今すぐ寝たい。

しかしせっかく用意してもらった食事を断るというのも客人としての礼を失するというものだし、食べてから寝た方が体力の回復も速いだろう。


「……それじゃあ、貰おうかな」


眠気が圧倒的だが、空腹でもある。

鏡也はなんとか睡眠の誘惑を振り切ってそう答えた。


「ご案内します」


家令だという咲夜がこうも自分一人に構っていていいのだろうかなどとぼんやりと考えながら後に付いて食堂へ移動すると、そこには既に先客がいた。


「おやおや、(けい)は昨晩の……」


ヴァイオレットの髪と瞳の吸血鬼の少年、ノクティスが鏡也を見て目を細めて何か言おうとしたが、それを遮るようにもう一人が声をあげる。


「わ! か、可愛いっ!!」


緑色の髪と瞳の吸血鬼の少女(?)、シルビアが鏡也のすぐ側まで駆け寄った。


「おわっ!? な、なんだ?」


吸血鬼なだけあって、その速度は普通の人間であれば視認不可能な速度であった。

鏡也は識眼があるのでなんとか見えてはいたが、それでもいきなりこれだけの速度で詰め寄られれば驚きはする。


「ん〜! カッコイイ少年! 好みだわ!」


シルビアは面食いだった。


「こらこら。グリューネワルト侯。まずは挨拶だろう?」


普段はもちろんこんな堅苦しい呼び方はしないが、客人の前ということで気を利かせたのだ。


「そうでした……。コホン」


シルビアはガラリと雰囲気を変えて、見事な淑女礼(カーテシー)を披露した。


「改めまして。わたしは故グリューネワルト大侯ガスパールが娘にしてレミリア・ヴァン・スカーレット陛下の臣下、シルビア・フォン・グリューネワルト侯爵。こちらのお方は____」


ノクティスはいつ間にかとなりにやって来て慣れた様子で紳士礼(ボウアンドスクレープ)を披露する。


「ノクティス・フォン・ヴァイオレット。レミィの従兄にあたる公爵だよ。ちなみに僕は公爵(デューク)で彼女は侯爵(マーキス)だね」

吸血鬼の爵位は、産まれで決まる。


正式に爵位を名乗れるようになるには本来成人(2000歳)を過ぎて叙爵式を行わなければならなかったが、今となっては略式が主流なので、実質的には成人を過ぎれば名乗れる状態だ。

ただしもちろん例外もあり、それが血族の当主である場合だ。

当主は同じ名字を持つ者の中で一番爵位の高い者であることが多いが、当主だけは先代が亡くなっていた場合のみ未成年でも爵位を名乗ることが出来る。

ノクティスが未成年なのにヴァイオレット公爵を名乗っているのもそれが理由である。


「これは丁寧にどうも。俺は識神鏡也だ。よろしく」


萃香は各種族について細かく教え込んでいたため、鏡也もなんとなくは吸血鬼の爵位の構造を憶えている。

侯爵や公爵が、大貴族と呼ばれる上位貴族の称号であることくらいは知っていた。


とはいえあえて態度は改めない。彼らが身分を気にするのか、気にするとするならどの程度かは知っておきたかった。


「識神……? ふむ……どうりで……」


ノクティスとシルビアは素早く目配せを交わし、代表としてノクティスが口を開いた。


「キミは、その名前を名乗ることが何を意味するのか、分かっているのかな」


2000年前。ノクティスは未だ産まれてはいなかったが、それでも伝統を重んじる吸血鬼だ。

大戦のことも、それ以前の種族間戦争期も、知識としては知っていた。

識神鏡也が誰なのかも。


「あー、いや……」


鏡也はどう説明したものか迷った。


「差し出口を挟むようですが」


見かねた咲夜が触りを説明した。


「記憶をね。なるほど、それで……」


ノクティスは考え込み始めてしまったが、シルビアの方はそれほど気にした様子は無かった。


「うんうん。これは陛下も気に入るわけね。こんなにカッコイイ男の子、見逃す道理は無いわ!」


鏡也の美貌に心を奪われていたと言うべきかもしれない。


「陛下?」


一瞬誰のことか分からなかったが、すぐにそれがレミリアを指している事に気付く。

咲夜はレミリアのことを「御館様」と呼んでいる。

シルビアに比べれば遥かに堅苦しい咲夜がそうなのだから、シルビアなら愛称で呼んでいるくらいがしっくりくるというものだ。

そのくらいで怒るレミリアでもないだろう。

そう思って食事中に質問してみると、意外にもシルビアは真面目に答えた。


「咲夜はレミリア様個人の臣下、いわゆる家臣なの。でも私達は紅血の王……スカーレット家の臣下なの。だから私達はレミリア様を王として扱うのです」


ちなみにノクティスが愛称で呼んでいるのは、従兄で幼い頃から交流があるかららしい。


「へぇ……。そういうものなのか」


なんとなくは分かるが、ハッキリと言葉にはし難い微妙な違いだ。

しかしそれはどうやら、吸血鬼の中ではかなり重んじられていることのようだった。

むしろ愛称で呼ぶノクティスが特別なのだそうだ。


紅魔館の食事は美味しかった。

挨拶の後で運ばれてきたそれだが、手をつけるには多少の勇気が必要だった。

何せ二人の吸血鬼が食べていたのは材料に血液をふんだんに使ったケーキだったし、飲み物に至ってはまんま血液だったのだ。

とはいえ識眼で調べたところ普通の食事だったので、恐る恐る口に入れたのである。


「なにこれ。美味すぎ」


阿呆な感想しか浮かんで来ない程に美味しかった。

考えてみれば紅魔館の住人はほとんど吸血鬼以外なのだし、咲夜は人間だ。

人間が食べれる食事があるのは当然だろう。


「咲夜の料理は美味しいでしょう」


我がことのように誇るシルビアにツッコミを入れる間すら惜しい程に、美味しかった。


「咲夜の料理は幻想郷でも一番と評判なんだ。家令になってからは忙しくてなかなか作ってくれないけどね。今日はキミのおかげで久しぶりにありつけたよ。ありがとう」


そう言い、上品に口元を拭ったノクティスは席を立つ。


「ご馳走様。僕はお先に失礼させてもらうよ。そろそろ寝る時間なのでね」


吸血鬼は夜行性生物の代表みたいなものだ。

かつては血が出ないことと生気の薄い肌の色もあってアンデットと間違われていたが。

よく考えれば、既に日が昇っているのにまだ起きている方がおかしいのかもしれない。


「んーん。別に日が昇っている間ずっと寝てるわけじゃないよ?」


「そうなのか?」


「うん。日が沈んでいる時間はせいぜい10時間くらいだから。人間が暗くなってもすぐ寝ないようなもの」


幻想郷において、油はそこまで稀少なものではない。

故に、多少余裕のある家庭や店では日が沈んだ後も明かりを灯して起きていることもあるのだ。


「ははあ……」


言われてみれば簡単なことだ。

日が沈んでいる間しか起きてられないのであれば、一日の半分以上を寝て過ごさなければならない。

向上心の塊とでも言うべき吸血鬼族(ヴァンパイア)にとっては耐え難いことだろう。


「あら。食べ終わってしまったわ」


食事を終え、シルビアは少し寂しそうな表情を浮かべる。


「もっと話していたかったのに……。そうだわ。貴方、この後の予定は?」


「え? そうだな……。まあ、パチュリーにお礼でも言いに行こうかと思ってたくらいだけど」


「そう……。咲夜。ノーレッジ(きょう)は居られるの?」


人間に対するものとは思えない丁寧な口調だが、パチュリー・ノーレッジは過去の功績でレミリアから名誉爵位を与えられているので、雑には扱えないのである。


「まだお戻りになられておりません」


「あー。そういえば世界樹の図書館に行くとか言ってたな……」


「そう。なら丁度いいわ。この後私の部屋でお話しましょ?」


とても魅力的な誘いではあるのだが。


「ごめん。さすがに眠気が限界なんだ……」


「? 寝てないの?」


「まあ、色々あってね……」


さすがにお宅の女王様に襲われましたとは言えずに言葉を濁す。


「うーん。そっかー。なら仕方ないね。また今度ウチに来た時にでも遊びましょ!」


真面目な話の時はちゃんと淑女なのだが、普段のシルビアのノリは軽い。

親しみやすくはあるが、どっちが素なのかは気になるところだ。


「それじゃ、またね。鏡也くん」


シルビアはまるで風のように去っていた。


「なんというか、濃い人だな」


鏡也は眠気と戦いながら美味しい食事を平らげるのだった。

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