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東方二次創作【識神譚】  作者: 遊鑼鳴世
第一章 識鏡録
51/78

識鏡録 50 思惑と落とし所

この作品は東方Project様の二次創作です。

※オリキャラ多数

※独自設定多数

※キャラ崩壊そこそこ

※投稿不定期

以上の点に注意してお楽しみ下さい。



◆登場人物紹介◆


ルーシー・レイヴ=フォン・ルーティル

種族:人間♀(4分の1は龍人) 年齢:100万歳以上

血統能力:竜和

程度の能力:長生きする程度の能力

よく使う霊術:無し

たまに使う霊術:無し

◆御方の寵愛を受け、加護を与えられている。

長寿の個別権能を元から持っていたが、今は加護の力で老化も無力化しているのであってないようなもの。

くすんだ銀髪と氷晶色(アイスブルー)の瞳を持つ半神的なまでの美女。

身長は168.4cmと高めで、Lカップの巨乳。

「夜分遅くに失礼致します。お嬢様……」


ノックの音と共にその声が聞こえ、ルーシーは目を覚ます。


「ん……。何かしら?」


夜更かしは美肌の天敵だ。故に使用人達にはつまらない用件では起こさないように伝えてあるのだ。


「はい。命蓮寺の阿闍梨様が訪ねてきておられます。その……重傷者を抱えておられまして…………」


言いずらそうにする彼女に代わり、ルーシーは口を開く。


「加護を……分けて欲しいと?」


侍女は少し言い淀んでから、肯定した。


「……客間にお通しして」


そう指示を出してから、ルーシーは身だしなみを整え始める。

彼女は人前に出る時は常に完璧な姿でいるようにしている。

自らの評価を下げることは愛しい御方(おんかた)の評価を下げることだと考えているのだ。


ルーシーの思考は、愛しい御方……「我が君」を中心にしている。

それはもちろん、彼女に加護を与えて守護している存在のことだ。

かつて御方の妾兼秘書として仕えていた頃の名残りで、ルーシーは今でも御方を我が君と呼ぶ。

それは本来皇帝を指す呼び名だが、御方は皇帝からその呼び方を許されていたのだ。

2人きりの時は名前で呼んでいたが、今の御方は名前の無い存在になってしまった。

昔の名を呼ぶことも、もはや許されない。

名は存在をハッキリさせると同時に、存在を狭めてしまう。

存在に囚われない次元に到達した御方には、あってはならないものなのだ。


とりとめのないことを考えているうちに、身支度が整った。

長いこと生きていると、もはや身支度など無意識で出来てしまうものなのだ。


寝室を出ると、侍女に話しかける。


「阿闍梨殿は?」


「お待ちいただいております。客間との仰せでしたが、重傷者の状態からベッドが必要だと判断し、客室へご案内いたしました」


侍女はそう言って頭を下げる。


「そう。わかったわ。ありがとう」


柔らかに微笑んでそう言うと、客室へ向かう。

微笑まれた侍女があまりの美しさに呆然となってしまっているが、今のルーシーは聖が頼ってくるというなかなかの異常事態に思考を巡らせていたので気付かない。


「(あの聖白蓮が……)」


聖が加護のことをよく思っていないことは、ルーシーもうっすらとは勘づいていた。

それはつまり、借りをつくってでも、よく思ってない加護を分けて貰ってまでも助けたい重傷者ということだ。

それが誰なのかによって、吹っかける代価が変わってくる。

御方の寵愛の証である加護をタダで分けてあげるつもりなど、微塵も無いのだ。


「失礼します。阿闍梨殿。お待たせ致しましたわ」


完璧な所作で入室すると、ルーシーはひらりと一礼する。


「これこれ。わしを忘れるでないぞ」


立派なツノが目に入り、ルーシーは内心軽く慌てつつも一礼した。


「これは、伊吹様。お久しぶりですわ」


まさかの2人に驚きつつ、奥のベッドに視線を移す。


「彼女は確か……寅丸様ですわね」


聖は静かに頷く。


「単刀直入にお願いさせていただきます。加護を……分けていただけませんか?」


いつも感じられる、余裕からくる包容力のようなものが感じられない。


「……まずは座らせていただきますわ」


ルーシーは即答を避けて熟考する。

最初はにべもなく断る所から入り、恩を高く売りつけるつもりだったのだが……。

ルーシーはチラリと萃香に視線をやる。


「うむ。やはり美味いのう……! 流石はわしの酒じゃ」


マイペースに伊吹瓢を傾けて飲酒にフケっているこの鬼王がいるとなれば、話は変わってくるのだ。

聖の要請をにべもなく断れば、間違いなく萃香がとりなしに入ってくる。

聖の側に立つ意思が無いのであれば、わざわざこの場に姿を見せたりはしないはずなのだ。

最終的には折れるつもりでいる以上、萃香にとりなしに入られてしまうと、ルーシーの得るものが『萃香への貸し』になってしまう。

これは美味しく無い。

萃香が脅威になりえないルーシーにとっては、人里に強い影響力を持つ聖に()()()()ことが重要なのだ。

かと言ってこのまま素直に要請を受け入れてしまえば、せいぜい()()にしかならない。難しいところだ。


「…………では、わたくしも単刀直入にお伺いしますわ。我が君の御加護をお分けする事で、わたくしにどのような得があるのでしょうか」


前向きに検討する、という程度の声音でそう尋ねる。


「それは……」


目を背けたかった現実を、聖は実感する。

ルーシーの受ける加護は、何も攻撃を無力化するだけのものでは無いのだ。

『あらゆる害を無力化する』には、老化や飢餓などすら含まれる。

ルーシーは加護さえあれば、他に何も無くても生きていけるのだ。

そんな彼女にとっての()とは何か?

そもそも、何を目的として動いているのか?

頭の痛い問題だ。

そしてそれは、何も聖だけが思っていることじゃない。


「(さて……。何を要求しようかしら……)」


ルーシーの求めるものはただ一つ。御方の寵愛だ。

そのために、たまに訪れる御方に最高のおもてなしを提供する。

それがルーシーの目的だった。

人里の発展に尽力したのも、歓楽街を創始して色街のボスに納まったのも、全てはそのためだ。

必要なものは、既に必要なだけ揃っている。

最優先することは現状維持であり、向上は転がり込んでくるのを待ってるくらいでいいのだ。

強いて言えば、現状維持に動くための情報が欲しい。

しかし、「情報を渡して欲しい」なんて言っても意味は無い。渡す情報を向こうが選べる状態では、信憑性が無いのだ。


「まったく。回りくどい奴らじゃ。恩に着る、でよかろうに」


萃香がそうつまらなそうに呟く。

老獪な彼女には、二人の考えがおおむね読めていた。


「……そうですわね。そのあたりが落とし所でしょう。現状、特に欲しいものもありませんし」


ここを逃せば、収集がつかなくなる。

そう直感して、ルーシーは纏めに入る。


「なるほど……。わかりました。私こと聖白蓮と寅丸星は、ルーティル卿へ恩に着ます。お困りの際は必ず力を貸すと、毘沙門天に誓いましょう」


聖は迷いなくそう言ってのけた。

聖がどれだけ寅丸を助けたいのかが伝わってくる。

聖女の資質を持ち、魔人経巻に認められるだけのことはあるということだろう。


「いいでしょう。寅丸様を()()()()


そう言って、ルーシーは寅丸の元へ向かう。

そしてその手を取ると、目を閉じてイメージを固めていく。

加護を分けると言うが、それは対外的なカモフラージュだ。

実際は『対象が害されることを自分にとっての害だと認定する』ことによって対象の害を取り除いているのだ。

つまりこれも、加護の本来の力の一つなのである。


「これが……!」


ルーシーの周りを、虹色の煌きが包む。

発動時にしか目に見えない、加護の煌き。


「ふむ。不思議なものじゃな……。目には見えるのに、権能にはなんの反応もせぬわい」


煌きが収まると、寅丸は穏やかな寝息をたてていた。


「見事なものじゃ。傷が跡形も無く消えておる」


萃香の権能をもってしても、どうやって治ったのかまるで分からなかった。

まるで最初からなかったことになったかのように……。


「もう大丈夫ですわ。今夜はもう遅いですし、泊まっていかれるかしら?」


「いえ。総司令と副司令が不在では混乱を招きます。それはまたの機会に」


聖はそう言って断ると、寅丸を抱き上げて命蓮寺へと帰っていった。


「伊吹様はどうなさいますか?」


萃香は軽く伸びをしてから答える。


「そうじゃのぅ……。ここのところ色々あって疲れたし、厄介になろうかの。なに、明日には一度博麗神社に寄るでな、今夜だけじゃ」


「わかりましたわ。それでは、良いお酒をお出ししますわね」


「それは嬉しいのう! 今夜は久しぶりによく眠れそうじゃ」


「それは何よりですわ」


萃香にも、好印象を植え付けておいて損は無い。

そんな計算の元、ルーシーは萃香を歓待するのだった。

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